低〜中等度リスクの非心臓手術を受ける冠動脈ステント留置安定患者
現在のガイドラインでは、非心臓手術を受ける冠動脈薬剤溶出性ステント(DES)留置患者において、周術期にアスピリンを継続投与することが推奨されています。しかし、それを支持するエビデンスは限られています。
そこで今回は、DES植込み歴のある患者において、非心臓手術前にアスピリン単剤療法を継続する場合とすべての抗血小板療法を一時的に中止する場合を比較することを目的に実施された非盲検ランダム化比較試験の結果をご紹介します。
1年以上前にDESを植え込まれ、かつ待機的非心臓手術を受ける患者が、非心臓手術5日前にアスピリンを継続する群とすべての抗血小板薬を中止する群にランダムに割り付けられました。抗血小板療法は禁忌でない限り手術後48時間以内に再開することが推奨されました。
本試験の主要アウトカムは、非心臓手術の5日前から30日後までの間のあらゆる原因による死亡、心筋梗塞、ステント血栓症、脳卒中の複合でした。
試験結果から明らかになったことは?
合計1,010例の患者がランダム化を受けました。
アスピリン単独療法群 (462例) | 抗血小板療法なし群 (464例) | 群間差 (95%CI) P値 | |
主要複合転帰(非心臓手術の5日前から30日後までの間のあらゆる原因による死亡、心筋梗塞、ステント血栓症、脳卒中の複合) | 3例(0.6%) | 4例(0.9%) | 差 -0.2%ポイント (-1.3~0.9) P>0.99 |
ステント血栓症 | 0 | 0 | – |
大出血 | 6.5% | 5.2% | – P=0.39 |
小出血 | 14.9% | 10.1% | – P=0.027 |
修正intention-to-treat集団の926例(アスピリン単独療法群 462例、抗血小板療法なし群 464例)において、主要複合転帰はアスピリン単独療法群で3例(0.6%)、抗血小板療法なし群で4例(0.9%)に発生しました(差 -0.2%ポイント、95%CI -1.3~0.9;P>0.99)。
いずれの群でもステント血栓症はみられませんでした。大出血の発生率は群間で有意差はありませんでしたが(6.5% vs. 5.2%;P=0.39)、小出血はアスピリン群で有意に多いことが示されました(14.9% vs. 10.1%;P=0.027)。
コメント
非心臓手術を受ける冠動脈薬剤溶出性ステント(DES)留置患者の周術期において、抗血小板薬であるアスピリン治療を継続するのか、それとも中断した方が患者転帰が向上するのか、比較したデータは限られています。
さて、非盲検ランダム化比較試験の結果、主に薬剤溶出性ステント(DES)によるステント植え込み後1年以上経過した低〜中等度リスクの非心臓手術を受けた患者において、イベント発生率が予想より低いという状況下で、虚血アウトカムや大出血に関して周術期のアスピリン単独療法と抗血小板療法なしとの間に有意差を確認することはできませんでした。
アウトカムの発生数が少ないことから、どちらが優れているのかについて結論を出すことはできません。一方、出血の観点からは、出血リスクの高い患者における術後モニタリングと対応策の構築が求められます。
本試験の追跡期間は30日間であることから、より長期的な検証が求められます。現時点においては、アスピリンの治療継続を行うことが推奨されます。
続報に期待。
✅まとめ✅ 非盲検ランダム化比較試験の結果、主に薬剤溶出性ステント(DES)によるステント植え込み後1年以上経過した低〜中等度リスクの非心臓手術を受けた患者において、虚血アウトカムや大出血に関して周術期のアスピリン単独療法と抗血小板療法なしとの間に有意差は認められなかった。アウトカムの発生数が少なく、追跡期間が短いことから更なる検証が求められる。
根拠となった試験の抄録
背景:現在のガイドラインでは、非心臓手術を受ける冠動脈薬剤溶出性ステント(DES)留置患者において、周術期にアスピリンを継続投与することが推奨されている。しかし、それを支持するエビデンスは限られている。
目的:本研究の目的は、DES植込み歴のある患者において、非心臓手術前にアスピリン単剤療法を継続する場合とすべての抗血小板療法を一時的に中止する場合を比較することである。
方法:1年以上前にDESを植え込まれた患者で、待機的非心臓手術を受ける患者を、非心臓手術5日前にアスピリンを継続する群とすべての抗血小板薬を中止する群にランダムに割り付けた。抗血小板療法は禁忌でない限り手術後48時間以内に再開することが推奨された。
主要アウトカムは、非心臓手術の5日前から30日後までの間のあらゆる原因による死亡、心筋梗塞、ステント血栓症、脳卒中の複合とした。
結果:合計1,010例の患者がランダム化を受けた。修正intention-to-treat集団の926例(アスピリン単独療法群 462例、抗血小板療法なし群 464例)において、主要複合転帰はアスピリン単独療法群で3例(0.6%)、抗血小板療法なし群で4例(0.9%)に発生した(差 -0.2%ポイント、95%CI -1.3~0.9;P>0.99)。いずれの群でもステント血栓症はみられなかった。大出血の発生率は群間で有意差はなかったが(6.5% vs. 5.2%;P=0.39)、小出血はアスピリン群で有意に多かった(14.9% vs. 10.1%;P=0.027)。
結論:主に薬剤溶出性ステント(DES)によるステント植え込み後1年以上経過した低〜中等度リスクの非心臓手術を受けた患者において、イベント発生率が予想より低いという状況下で、虚血アウトカムや大出血に関して周術期のアスピリン単独療法と抗血小板療法なしとの間に有意差を確認することはできなかった。
試験登録番号:NCT02797548
キーワード:抗血小板療法、アスピリン、冠動脈疾患、薬剤溶出ステント、非心臓手術
引用文献
Aspirin Monotherapy vs No Antiplatelet Therapy in Stable Patients With Coronary Stents Undergoing Low-to-Intermediate Risk Noncardiac Surgery
Do-Yoon Kang et al. PMID: 39217573 DOI: 10.1016/j.jacc.2024.08.024
J Am Coll Cardiol. 2024 Aug 29:S0735-1097(24)08196-8. doi: 10.1016/j.jacc.2024.08.024. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39217573/
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