DAPA-HF試験におけるダパグリフロジンと完全健康喪失日数との関連性は?(事後解析; J Am Coll Cardiol. 2024)

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患者の幸福を測定するには?

患者報告アウトカム(Patient Reported Outcome、PRO)とは、臨床アウトカムの一つです。症状やQOLに関して、患者が自分自身で判定し(患者日記など)、その結果に医師を始め他の者が一切介在しないという評価方法です。具体的には、包括的尺度としてSF-36、EQ-5D、疾患・症状特異的尺度として、疼痛に用いられるVAS、関節炎・腰痛に用いられるWOMAC等が該当します。

臨床試験におけるバイアス排除の観点から、より客観的な評価が求められており、患者主観の評価であるPROは参考とされていました。一方、医師による評価が可能なものであっても、患者が直接評価することで同等あるいはそれ以上に意義のある評価が得られる場合(幸福度の評価や健康状態の損失など)、PROを積極的に活用するような流れがあります。

従来のtime-to-first-event分析では、心不全による再発入院と患者の幸福を単一のアウトカムに組み込むことはできず、課題として残されていました。この限界を克服するために、死亡と入院によって失われた日数、および幸福感の低下によって失われた完全な健康状態の追加日数を含む統合的な尺度を検証するために実施された事後解析の結果をご紹介します。

この統合指標に対するダパグリフロジンの効果がDAPA-HF(Dapagliflozin and Prevention of Adverse Outcomes in Heart Failure)試験で評価されました。DAPA-HF試験は、NYHA機能分類II~IVの心不全で左室駆出率が40%以下の患者を対象に、プラセボと比較してダパグリフロジンの有効性を検討したものです。

試験結果から明らかになったことは?

(観察フレーム:360日間)ダパグリフロジン群
(n=2,127)
プラセボ群
(n=2,108)
治療間差(95%CI)
健康喪失日数
(心血管死や心不全による入院により喪失)
10.6±1.0日
(2.9%)
14.4±1.0日
(4.0%)
-3.8日
-6.6 ~ -1.0日
P=0.009
死亡および入院による損失日数15.5±1.1日
(4.3%)
20.3±1.1日
(5.6%)
-4.8日
-7.9 〜 -1.7
P=0.003
死亡、入院、健康喪失日数による損失日数110.6±1.6日
(30.7%)
116.9±1.6日
(32.5%)
-6.3日
-10.8 〜 -1.7日
P=0.007

360日間で、ダパグリフロジン群(n=2,127)では心血管死や心不全による入院により追跡可能な日数の10.6±1.0日(2.9%)が失われたのに対し、プラセボ群(n=2,108)では14.4±1.0日(4.0%)であり、失われた日数の全測定値の中でこの要素が最も大きな治療間差を占めました(-3.8日、95%CI -6.6 ~ -1.0日)。

また、ダパグリフロジンを投与された患者は、プラセボと比較して死亡および全ての原因による入院による損失日数も少ないことが示されました(15.5±1.1日[4.3%] vs. 20.3±1.1日[5.6%])。

健康喪失日数(Kansas City Cardiomyopathy Questionnaire-overall summary score*で調整)を追加すると、総喪失日数はダパグリフロジン群で110.6±1.6日(30.7%)、プラセボ群で116.9±1.6日(32.5%)でした。

2群間のすべての指標における差は、時間の経過とともに増加しました(すなわち、死亡および入院による損失日数は120日で-0.9日[-0.7%]、240日で-2.3日[-1.0%]、360日で-4.8日[-1.3%])。

*カンザスシティ心筋症質問票(KCCQ):23項目からなる有効性の確認された自記式の質問票で、身体的制約、症状、自己効力感、社会的接点およびQOLを定量化するもの。

コメント

心不全治療による健康喪失日数の低下について、実臨床における検証は充分に行われていません。

さて、DAPA-HF試験の事後解析の結果、ダパグリフロジンは、死亡、入院、健康障害により失われる潜在的な完全健康の総日数を減少させ、このベネフィットは最初の1年間に経時的に増加しました。

運動や食事管理が適切になされている前提ではあるものの、SGLT-2阻害薬であるダパグリフロジンは、プラセボよりも健康喪失日数が少ないことが示されました。

ランダム化比較試験という堅牢な枠組みで得られた結果においては、QOLのように主観的要素の強い評価が過大評価される可能性が高いと考えられます。再現性も含め、より実社会に即した評価が求められます。

続報に期待。

a medical practitioner showing a patient paper

✅まとめ✅ DAPA-HF試験の事後解析の結果、ダパグリフロジンは、死亡、入院、健康障害により失われる潜在的な完全健康の総日数を減少させ、このベネフィットは最初の1年間に経時的に増加した。

根拠となった試験の抄録

背景:従来のtime-to-first-event分析では、再発入院と患者の幸福を単一のアウトカムに組み込むことはできない。

目的:この限界を克服するために、死亡と入院によって失われた日数、および幸福感の低下によって失われた完全な健康状態の追加日数を含む統合的な尺度を検証した。

方法:この統合指標に対するダパグリフロジンの効果をDAPA-HF(Dapagliflozin and Prevention of Adverse Outcomes in Heart Failure)試験で評価した。DAPA-HF試験は、NYHA機能分類II~IVの心不全で左室駆出率が40%以下の患者を対象に、プラセボと比較してダパグリフロジンの有効性を検討したものである。

結果:360日間で、ダパグリフロジン群(n=2,127)では心血管死や心不全による入院により追跡可能な日数の10.6±1.0日(2.9%)が失われたのに対し、プラセボ群(n=2,108)では14.4±1.0日(4.0%)であり、失われた日数の全測定値の中でこの要素が最も大きな治療間差を占めた(-3.8日、95%CI -6.6 ~ -1.0日)。また、ダパグリフロジンを投与された患者は、プラセボと比較して死亡および全入院による損失日数も少なかった(15.5±1.1日[4.3%] vs. 20.3±1.1日[5.6%])。健康喪失日数(Kansas City Cardiomyopathy Questionnaire-overall summary scoreで調整)を追加すると、総喪失日数はダパグリフロジン群で110.6±1.6日(30.7%)、プラセボ群で116.9±1.6日(32.5%)であった。2群間のすべての指標における差は、時間の経過とともに増加した(すなわち、死亡および入院による損失日数は120日で-0.9日[-0.7%]、240日で-2.3日[-1.0%]、360日で-4.8日[-1.3%])。

結論:ダパグリフロジンは、死亡、入院、健康障害により失われる潜在的な完全健康の総日数を減少させ、このベネフィットは最初の1年間に経時的に増加した。

試験登録番号:NCT03036124(慢性心不全患者における心不全悪化または心血管死の発生率に対するダパグリフロジンの効果を評価する試験)

キーワード:ダパグリフロジン、健康関連QOL、心不全、予後、試験

引用文献

Dapagliflozin and Days of Full Health Lost in the DAPA-HF Trial
Toru Kondo et al. PMID: 38537918 DOI: 10.1016/j.jacc.2024.03.385
J Am Coll Cardiol. 2024 May 21;83(20):1973-1986. doi: 10.1016/j.jacc.2024.03.385. Epub 2024 Mar 25.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38537918/

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