機能性(二次性)僧帽弁閉鎖不全症
心不全(HF)と機能性僧帽弁閉鎖不全症(MR)を有する患者の罹患率と死亡率は、HFに対する診療ガイドラインに従った薬物療法にもかかわらず、依然として相当なものであり大きな課題となっています。
そこで今回は、軽度から中等度の駆出率低下を伴うHFに伴う機能性僧帽弁閉鎖不全症に対するertugliflozin(エルツグリフロジン)の有効性を検討したランダム化比較試験の結果をご紹介します。
EFFORT試験(Ertugliflozin for Functional Mitral Regurgitation)は多施設共同二重盲検ランダム化比較試験であり、NYHA機能分類IIまたはIII、35%≦駆出率<50%、ベースライン心エコーで慢性機能性MRの有効逆流開口面積(EROA)>0.1cm2のHF患者において、Na-グルコース共輸送体2阻害薬であるertugliflozinがMR改善に有効であるという仮説が検討されました。
128例の患者をランダムに割り付け、診療ガイドラインに示されたHFの薬物療法に加えてertugliflozinまたはプラセボを投与されました。
主要エンドポイントは機能性MRの有効逆流弁口面積のベースラインから12ヵ月追跡までの変化でした。副次的エンドポイントは、逆流容積、左室(LV)容積指数、左房容積指数、LV全体縦歪み、NT-proBNP(N末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド)の変化でした。
試験結果から明らかになったことは?
平均年齢66±11歳、男性61%、糖尿病13%、心房細動51%、アンジオテンシン受容体-ネプリライシン阻害薬使用43%、駆出率42±8%、有効逆流開口面積0.20±0.12cm2(中等症)でした。
エルツグリフロジン群 | プラセボ群 | |
有効逆流弁口面積 | -0.05±0.06cm2 P<0.001 | 0.03±0.12cm2 |
有効逆流弁口面積の減少はエルツグリフロジン群でプラセボ群より有意に大きいことが示されました(-0.05±0.06cm2 vs. 0.03±0.12cm2;P<0.001)。プラセボ群と比較し、エルツグリフロジンは逆流量を11.2mL(95%CI -16.1 ~ -6.3;P=0.009)、左房容積指数を6.0mL/m2(95%CI -12.16 ~ 0.15;P=0.005)、LV全体縦歪みを1.44%(95%CI -2.42 ~ -0.46;P=0.004)有意に減少させ増した。
一方、LV容積指標、駆出率、NT-proBNP値の変化については群間で有意差はありませんでした。
重篤な有害事象はエルツグリフロジン群で1例(1.6%)、プラセボ群で6例(9.2%)に発現しました(P=0.12)。
コメント
心不全は様々な要因から発生するため、原疾患の治療有効性の検証が求められています。
さて、二重盲検ランダム化比較試験の結果、心不全に伴う機能性的僧帽弁閉鎖不全症を有する患者において、ertugliflozin(エルツグリフロジン)はLV全体縦歪みと左房リモデリングを有意に改善し、機能性僧帽弁閉鎖不全症を減少させました。
主要評価項目である有効逆流弁口面積(EROA)の測定方法が不明ではありますが、もしもPISA法による測定の場合、機能性僧帽弁閉鎖不全症の評価には向かないとされていることから(過小評価となりやすいため)、注意を要します。
今回はエルツグリフロジンによる検証が行われましたが、他のSGLT-2阻害薬でも同様の結果が示される可能性があります。クラスエフェクトであるか検証が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ 二重盲検ランダム化比較試験の結果、心不全に伴う機能性僧帽弁閉鎖不全症を有する患者において、ertugliflozinはLV全体縦歪みと左房リモデリングを有意に改善し、機能性僧帽弁閉鎖不全症を減少させた。
根拠となった試験の抄録
背景:心不全(HF)と機能的僧帽弁閉鎖不全症(MR)を有する患者の罹患率と死亡率は、HFに対するガイドラインに従った薬物療法にもかかわらず、依然として相当なものである。我々は、軽度から中等度の駆出率低下を伴うHFに伴う機能的僧帽弁閉鎖不全症に対するertugliflozinの有効性を検討した。
方法:EFFORT試験(Ertugliflozin for Functional Mitral Regurgitation)は多施設共同二重盲検ランダム化比較試験で、NYHA機能分類IIまたはIII、35%≦駆出率<50%、ベースライン心エコーで慢性機能性MRの有効逆流弁口面積>0.1cm2のHF患者において、Na-グルコース共輸送体2阻害薬であるertugliflozinがMR改善に有効であるという仮説を検討した。128例の患者をランダムに割り付け、ガイドラインに示されたHFの薬物療法に加えてertugliflozinまたはプラセボを投与した。
主要エンドポイントは機能的MRの有効逆流弁口面積のベースラインから12ヵ月追跡までの変化であった。副次的エンドポイントは、逆流容積、左室(LV)容積指数、左房容積指数、LV全体縦歪み、NT-proBNP(N末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド)の変化であった。
結果:平均年齢66±11歳、男性61%、糖尿病13%、心房細動51%、アンジオテンシン受容体-ネプリライシン阻害薬使用43%、駆出率42±8%、有効逆流開口面積0.20±0.12cm2。有効逆流弁口面積の減少はertugliflozin群でプラセボ群より有意に大きかった(-0.05±0.06cm2 vs. 0.03±0.12cm2;P<0.001)。プラセボ群と比較し、ertugliflozinは逆流量を11.2mL(95%CI -16.1 ~ -6.3;P=0.009)、左房容積指数を6.0mL/m2(95%CI -12.16 ~ 0.15;P=0.005)、LV全体縦歪みを1.44%(95%CI -2.42 ~ -0.46;P=0.004)有意に減少させた。LV容積指標、駆出率、NT-proBNP値の変化については群間で有意差はなかった。重篤な有害事象はertugliflozin群で1例(1.6%)、プラセボ群で6例(9.2%)に発現した(P=0.12)。
結論:HFに伴う機能的MRを有する患者において、ertugliflozinはLV全体縦歪みと左房リモデリングを有意に改善し、機能的MRを減少させた。ナトリウム-グルコース共輸送体2阻害薬は機能的MRを有する患者に対して考慮されてもよい。
試験登録URL: https://www.clinicaltrials.gov; 一意識別子 NCT04231331
キーワード:臨床試験、心不全、僧帽弁閉鎖不全症、ナトリウム-グルコース共輸送体2阻害薬
引用文献
Ertugliflozin for Functional Mitral Regurgitation Associated With Heart Failure: EFFORT Trial
Duk-Hyun Kang et al. PMID: 38690659 DOI: 10.1161/CIRCULATIONAHA.124.069144
Circulation. 2024 May 1. doi: 10.1161/CIRCULATIONAHA.124.069144. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38690659/
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