ステージ5のCKD患者に対してもSGLT-2阻害薬は有効なのか?
推算糸球体濾過量が20mL/min/1.73m2未満の患者において透析前にナトリウム-グルコース共輸送体-2阻害薬(SGLT2is)を開始した場合の長期転帰を報告した研究はありません。SGLT-2阻害薬の効果を得るためには、ある程度の推算糸球体濾過量が必要とされているためです。しかし、あくまでも基礎研究の結果に基づいた理論であり、ヒトを対象とした実臨床での検証は充分に行われていません。
そこで今回は、2型糖尿病(T2D)およびステージ5の慢性腎臓病(CKD)患者において、SGLT2iの使用者と非使用者の間で透析、心血管イベント、死亡のリスクについて比較検討した標的試験模倣観察研究(Target trial emulation study, 標的試験エミュレーション研究)をご紹介します。
研究のベースとなったのは台湾の国民健康保険研究データベース(NHIRD)でした。本研究では、2016年5月1日~2021年10月31日の期間、逐次標的試験エミュレーションの原則を適用し、NHIRDからT2Dおよびステージ5のCKD患者を対象にSGLT2i使用者23,854例,SGLT2i非使用者23,892例が抽出されました。
本研究では、条件付きCox比例ハザードモデルが用いられ、透析、心不全による入院、急性心筋梗塞(AMI)、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)、急性腎障害(AKI)、全死亡のリスクについてSGLT2i使用者と非使用者で比較されました。
試験結果から明らかになったことは?
ハザード比 HR (95%CI) | |
透析 | HR 0.34(0.27~0.43) |
心不全による入院 | HR 0.80(0.73~0.86) |
AMI | HR 0.61(0.52~0.73) |
DKA | HR 0.78(0.71~0.85) |
AKI | HR 0.80(0.70~0.90) |
全死亡 | HR 1.11(0.99~1.24) |
Intention-to-treatモデルでは、SGLT2iを使用しない場合と比較して、SGLT2iの使用は透析(ハザード比[HR] 0.34、95%CI 0.27~0.43)、心不全による入院(HR 0.80、CI 0.73~0.86)、AMI(HR 0.61、CI 0.52~0.73)、DKA(HR 0.78、CI 0.71~0.85)、AKI(HR 0.80、CI 0.70~0.90)のリスクが低減しましたが、全死亡リスク(HR 1.11、CI 0.99~1.24)に差はありませんでした。
Kaplan-Meier曲線とサブグループ解析から、ステージ5のCKDにおけるSGLT2iの使用開始は、SGLT2iを使用しない場合よりも長期透析のリスクが低いことも示されました。
コメント
推算糸球体濾過量が20mL/min/1.73m2未満かつ、透析未導入のステージ5のCKD患者におけるSGLT-2阻害薬の効果については充分に検証されていません。
さて、エミュレートされた標的試験において、2型糖尿病でステージ5のCKD患者におけるSGLT-2阻害薬の使用は、SGLT-2阻害薬を使用しない場合に比べて、透析、心血管イベント、糖尿病性ケトアシドーシス、急性腎障害のリスクが低いことが示されました。
推算糸球体濾過量が低い2型糖尿病患者においても、SGLT-2阻害薬は有効なようです。患者転帰を向上させるようでうが、再現性の検証が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ エミュレートされた標的試験において、2型糖尿病でステージ5のCKD患者におけるSGLT-2阻害薬の使用は、SGLT-2阻害薬を使用しない場合に比べて、透析、心血管イベント、糖尿病性ケトアシドーシス、急性腎障害のリスクが低いことが示された。
根拠となった試験の抄録
背景:推算糸球体濾過量が20mL/min/1.73m2未満の患者において透析前にナトリウム-グルコース共輸送体-2阻害薬(SGLT2is)を開始した場合の長期転帰を報告した研究はない。
目的:2型糖尿病(T2D)およびステージ5の慢性腎臓病(CKD)患者において、SGLT2iの使用者と非使用者の間で透析、心血管イベント、死亡のリスクを比較すること。
試験デザイン: 標的試験エミュレーション研究
試験設定:台湾の国民健康保険研究データベース(NHIRD)
試験参加者:2016年5月1日~2021年10月31日の期間、逐次標的試験エミュレーションの原則を適用し、NHIRDからT2Dおよびステージ5のCKD患者を対象にSGLT2i使用者23,854例,SGLT2i非使用者23,892例を抽出。
測定:条件付きCox比例ハザードモデルを用いて、透析、心不全による入院、急性心筋梗塞(AMI)、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)、急性腎障害(AKI)、全死亡のリスクをSGLT2i使用者と非使用者で比較した。
結果:Intention-to-treatモデルでは、SGLT2iを使用しない場合と比較して、SGLT2iの使用は透析(ハザード比[HR] 0.34、95%CI 0.27~0.43)、心不全による入院(HR 0.80、CI 0.73~0.86)、AMI(HR 0.61、CI 0.52~0.73)、DKA(HR 0.78、CI 0.71~0.85)、AKI(HR 0.80、CI 0.70~0.90)のリスクが低減したが、全死亡リスク(HR 1.11、CI 0.99~1.24)に差はなかった。Kaplan-Meier曲線とサブグループ解析から、ステージ5のCKDにおけるSGLT2iの使用開始は、SGLT2iを使用しない場合よりも長期透析のリスクが低いことも示された。
試験の限界:この結果は2型糖尿病を有さない患者には当てはまらない可能性がある。
結論:このエミュレートされた標的試験では、T2Dでステージ5のCKD患者において、SGLT2iの使用は、SGLT2iを使用しない場合に比べて、透析、心血管イベント、DKA、AKIのリスクが低いことが示された。
主な資金源:台湾国立衛生研究院
引用文献
Sodium-Glucose Cotransporter-2 Inhibitors and the Risk for Dialysis and Cardiovascular Disease in Patients With Stage 5 Chronic Kidney Disease
Fu-Shun Yen et al. PMID: 38684099 DOI: 10.7326/M23-1874
Ann Intern Med. 2024 Apr 30. doi: 10.7326/M23-1874. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38684099/
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