医師のプロフェッショナリズムは服装で判断されるのか?
近年、医師のカジュアルな服装(フリースジャケットやソフトシェルジャケット)の人気が高まっていますが、これらの服装に対する一般市民の認識は研究されていません。さらに、ジェンダーバイアスにより、女性医師と男性医師に対する期待や認識が異なり、患者との信頼関係や信頼構築と関連する可能性があることから、検証が求められています。
そこで今回は、医師のカジュアルな服装に対する一般市民の認識と、医師の職業上の服装に対する一般市民の評価における暗黙のジェンダーバイアスを明らかにすることを目的に実施されたアンケート調査の結果をご紹介します。
本調査研究では、米国在住で英語を主要言語とする18歳以上の個人を対象に、2020年5月から6月にかけてAmazon Mechanical Turkを介して実施された集団ベースの調査が用いられました。本調査は、様々なタイプの医師の服装(白衣、ビジネスウェア、スクラブ)を着用した男性または女性のモデルの写真を用い行われました。
本調査の主要評価項目は、さまざまな服装をした男女のモデルの専門性、経験、親しみやすさに対する回答者の評価、およびモデルが最もなりそうな医療専門職についての認識でした。さまざまな服装に対する選好スコアは、服装に対する選好スコアと、服装と役割の組み合わせに対する選好スコアの平均値との差として算出されました。
試験結果から明らかになったことは?
回答者の平均年齢は36.2歳(SD 12.4歳)、女性は260例(53.4%)、白人は372例(76.4%)でした。
経験スコアの平均 | プロフェッショナリズムスコアの平均 | |
白衣 | 4. 9(SD 1.5) P<0.001 | 4.9(SD 1.6) P<0.001 |
フリース | 3.1(SD 1.5) | 3.2(SD 1.5) |
ソフトシェル | 3.1(SD 1.5) | 3.3(SD 1.5) |
回答者は、白衣を着ている医療従事者のモデルに対して、フリースまたはソフトシェルジャケットを着ている医療従事者のモデルと比較して、有意に経験豊富であると認識しました(平均経験スコア:白衣 4. 9[SD 1.5]、フリース 3.1[SD 1.5]、ソフトシェル 3.1[SD 1.5];P<0.001)。プロフェッショナル(平均プロフェッショナリズムスコア:白衣 4.9[SD 1.6]、フリース 3.2[SD 1.5]、ソフトシェル 3.3[SD 1.5];P<0.001)についても同様でした。
外科医ではスクラブ付きの白衣が最も好まれ(平均嗜好指数 1.3[SD 2.3])、家庭医と皮膚科医ではビジネス用の白衣が好まれた(平均嗜好指数:それぞれ1.6[SD 2.3]と1.2[SD 2.3];P<0.001)。
アウターにかかわらず、インナーにビジネスウェアを着用した女性モデルは、男性モデルよりもプロ意識が低いと評価されました(平均プロ意識スコア:男性 65.8[SD 25.4];女性 56.2[SD 20.2];P<0.001)。
しかし、女性モデルと男性モデルを比較した場合、女性モデルの方が医療技術者(39 [8.0%] vs. 16 [3.3%];P<0.005)、医師助手(56 [11.5%] vs. 11 [2.3%];P<0.001)、看護師(161 [33.1%] vs. 133 [27.3%];P=0.050)と間違えた回答者が多いことが明らかとなりました。
コメント
ドラッグストア最大手のウエルシアホールディングスは、従業員の身だしなみに関する規定を12月1日から改定すると発表しました。具体的には、明るい髪の色を自由化、耳ピアス、ひげも整えれば伸ばせるようにするとのことです。この背景として、従業員の就業意欲を高める狙いがあるようです。上着は、ユニホームの白衣の着用は継続するものの、ボトムスはジャージーやデニムの着用が許可されるようです。この他、埼玉県地盤の食品スーパー、ベルクは9月から従業員の髪の色などの身だしなみの基準を緩和ました。
薬剤師における身だしなみの緩和に関する研究は見当たりませんでしたが、医師の服装について米国のアンケート調査の結果が見つかりましたのでご紹介します。
さて、一般市民を対象としたアンケート調査の結果、カジュアルな服装をした医師は白衣を着た医師よりもプロ意識が低く、経験も浅いと評価されました。プロフェッショナリズムに対する印象には性別によるバイアスが認められ、女性医師の役割の誤認がより多いことが示されました。
バイアスが残存しているものの、大変参考になる調査結果です。他の国や地域、医療従事者においても同様の結果が示されるのか興味深いところです。
続報に期待。
✅まとめ✅ 一般市民を対象とした米国の調査研究では、カジュアルな服装をした医師は白衣を着た医師よりもプロ意識が低く、経験も浅いと評価された。プロフェッショナリズムに対する印象には性別によるバイアスが認められ、女性医師の役割の誤認がより多かった。
根拠となった試験の抄録
試験の重要性:近年、医師のカジュアルな服装(フリースジャケットやソフトシェルジャケット)の人気が高まっているが、我々の知る限り、これらの服装に対する一般市民の認識は研究されていない。さらに、ジェンダーバイアスにより、女性医師と男性医師に対する期待や認識が異なり、患者との信頼関係や信頼構築と関連する可能性がある。
目的:医師のカジュアルな服装に対する一般市民の認識と、医師の職業上の服装に対する一般市民の評価における暗黙のジェンダーバイアスを明らかにすること。
試験デザイン、設定、参加者:この調査研究では、米国在住で英語を主要言語とする18歳以上の個人を対象に、2020年5月から6月にかけてAmazon Mechanical Turkを介して実施した集団ベースの調査を用いた。
介入:様々なタイプの医師の服装(白衣、ビジネスウェア、スクラブ)を着用した男性または女性のモデルの写真を用いた調査。
主要転帰と測定:さまざまな服装をした男女のモデルの専門性、経験、親しみやすさに対する回答者の評価、およびモデルが最もなりそうな医療専門職についての認識。さまざまな服装に対する選好スコアは、服装に対する選好スコアと、服装と役割の組み合わせに対する選好スコアの平均値との差として算出した。
結果:回答者の平均年齢は36.2歳(SD 12.4歳)、女性は260例(53.4%)、白人は372例(76.4%)であった。回答者は、白衣を着ている医療従事者のモデルとフリースまたはソフトシェルジャケットを着ている医療従事者のモデルを比較して、有意に経験豊富(平均経験スコア:白衣 4. 9[SD 1.5]、フリース 3.1[SD 1.5]、ソフトシェル 3.1[SD 1.5];P<0.001)、プロフェッショナル(平均プロフェッショナリズムスコア:白衣 4.9[SD 1.6]、フリース 3.2[SD 1.5]、ソフトシェル 3.3[SD 1.5];P<0.001)であると認識した。外科医ではスクラブ付きの白衣が最も好まれ(平均嗜好指数 1.3[SD 2.3])、家庭医と皮膚科医ではビジネス用の白衣が好まれた(平均嗜好指数:それぞれ1.6[SD 2.3]と1.2[SD 2.3];P<0.001)。アウターにかかわらず、インナーにビジネスウェアを着用した女性モデルは、男性モデルよりもプロ意識が低いと評価された(平均プロ意識スコア:男性 65.8[SD 25.4];女性 56.2[SD 20.2];P<0.001)。しかし、女性モデルと男性モデルを比較した場合、女性モデルの方が医療技術者(39 [8.0%] vs. 16 [3.3%];P<0.005)、医師助手(56 [11.5%] vs. 11 [2.3%];P<0.001)、看護師(161 [33.1%] vs. 133 [27.3%];P=0.050)と間違えた回答者が多かった。
結論と関連性:この調査研究では、カジュアルな服装をした医師は白衣を着た医師よりもプロ意識が低く、経験も浅いと回答者は評価した。プロフェッショナリズムに対する印象には性別による偏りが認められ、女性医師の役割の誤認がより多かった。医師の服装に対する一般市民の認識の相違を理解することは、専門職としての役割の混乱や、医療における女性の累積的なキャリア上の不利益に対処するための介入策に役立つ可能性がある。
引用文献
Public Perceptions of Physician Attire and Professionalism in the US
Helen Xun et al. PMID: 34328503 PMCID: PMC8325071 DOI: 10.1001/jamanetworkopen.2021.17779
JAMA Netw Open. 2021 Jul 1;4(7):e2117779. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2021.17779.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34328503/
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