アレルギー性鼻炎の症状に対するプラセボの効果はどのくらいか?
プラセボ効果は多くの臨床症状で知られています。特に抗精神病薬や疼痛治療薬の臨床試験においては、プラセボ薬あるいは標準治療薬との比較が求められます。
最近まで、プラセボ効果にはプラセボを欺くことが不可欠であると考えられていましたが、興味深い新しい研究が報告され、隠蔽のないプラセボ(オープンラベルのプラセボ)であっても、様々な臨床疾患の患者を助ける可能性があることが示唆されています。これらの研究のほとんどは、非盲検プラセボ治療と無治療状態(または「通常通り」の治療)を比較したものです。
非盲検プラセボ試験は明らかに盲検化できないことから、非盲検プラセボの有効性を評価するためには、さらなる対照試験が重要です。
そこで今回は、オープンラベルと従来の二重盲検プラセボおよび通常通りの治療を比較することにより、このギャップを埋めることを目的に実施されたランダム化比較試験の結果をご紹介します。
本試験では、季節性アレルギー性鼻炎患者をランダムに群分けし、第1群にはオープンラベルのプラセボ、第2群には二重盲検プラセボ、第3群には通常通りの治療を行いました。
本試験の主要評価項目は、EAACI(European Academy of Allergy and Clinical Immunology)が推奨するCSMS(Combined Symptoms and Medication Score)です。CSMSは、鼻と目の症状を含むアレルギー症状を、過去12時間と過去2週間に関して評価。症状は”0″(=症状なし)から “+++”(=強い症状)まで4段階で評価されました。
試験結果から明らかになったことは?
4週間後、プラセボは通常治療よりも、また二重盲検プラセボよりもアレルギー症状を改善しました。
ベースラインのデータでは、各群に差は見られませんでした。
非盲検プラセボ群 | 二重盲検プラセボ群 | 通常治療群 | |
変化スコア | 1.20±2.41 p=0.014 | 0.25±2.65 | 0.42±2.39 |
CSMSスコアを事前から事後まで分析したところ、参加者が過去12時間の症状を評価した場合、通常治療群と二重盲検プラセボ群に比べ、非盲検プラセボ群でより大きな改善がみられました(変化スコア:非盲検プラセボ群 1.20±2.41、二重盲検プラセボ群 0.25±2.65、通常治療群 0.42±2.39)。同様の結果は、参加者が過去2週間を評価しなければならなかった場合にも示されました。
非盲検プラセボ群 | 二重盲検プラセボ群 | 通常治療群 | |
RQLQ | 0.77±1.09 p=0.002 | 0.41±1.36 | 0.28±0.95 |
鼻炎QOL質問票(RQLQ)の結果も、非盲検プラセボ群でより強い改善が示されました(非盲検プラセボ群 0.77±1.09、二重盲検プラセボ群 0.41±1.36、通常治療群 0.28±0.95)。
TNSSの結果、非盲検プラセボ群のスコアは、二重盲検プラセボ群と通常治療群に比べて改善しました。この結果は、過去2週間のTNSSスコアによっても支持されましたが、有意水準には達しませんでした(p=0.10)。
日記データの分析では、非盲検プラセボ群の境界線での効果が示されました(p=0.05)。
さらに、Covid-19の大流行により、アレルギー症状全般(および非盲検プラセボの効果)が軽減したことも観察されました。
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プラセボ効果については対象疾患により議論が分かれています。抗精神病薬や疼痛治療薬、抗アレルギー薬などの有効性評価においては、プラセボ効果の影響が大きいことから二重盲検ランダム化比較試験の対照としてプラセボ薬が設定されることは珍しくありません。一方で、非盲検であってもプラセボ効果が観察されることから、非盲検プラセボ薬の更なる有効性検証が求められています。
さて、ランダム化比較試験の結果、季節性アレルギー症状が非盲検プラセボによって緩和される可能性が示唆されました。ただし、通常治療群では、治療効果に対する期待値が大きいことから、実際に体感できる効果との差分が結果に影響した可能性があります。
非常に興味深い結果ですが、さらなる検証が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ ランダム化比較試験の結果、季節性アレルギー症状が非盲検プラセボによって緩和される可能性が示唆された。
根拠となった試験の抄録
背景:プラセボ効果は多くの臨床症状で知られている。最近まで、プラセボ効果にはプラセボを欺くことが不可欠であると考えられていたが、興味深い新しい研究が、隠蔽のないプラセボ(オープンラベルのプラセボ)であっても、様々な臨床疾患の患者を助ける可能性があることを示唆している。これらの研究のほとんどは、非盲検プラセボ治療と無治療状態(または「通常通り」の治療)を比較したものである。非盲検プラセボ試験は明らかに盲検化できないことから、非盲検プラセボの有効性を評価するためには、さらなる対照試験が重要である。本研究では、オープンラベルと従来の二重盲検プラセボおよび通常通りの治療を比較することにより、このギャップを埋めることを目的とした。
方法:季節性アレルギー性鼻炎患者をランダムに群分けした。第1群にはオープンラベルのプラセボ、第2群には二重盲検プラセボ、第3群には通常通りの治療を行った。
主要評価項目は、EAACI(European Academy of Allergy and Clinical Immunology)が推奨するCSMS(Combined Symptoms and Medication Score)である。CSMSは、鼻と目の症状を含むアレルギー症状を、過去12時間と過去2週間に関して評価するものである。症状は”0″(=症状なし)から “+++”(=強い症状)まで(0~3)で評価される。したがって、スコアが低いほど症状負担が軽減していることを表す。また、投薬の有無も尋ねているが、当院の患者は通常の投薬を継続するよう指導されているため、投薬なしのCSMSスコアを算出した。
結果:4週間後、プラセボは通常治療よりも、また二重盲検プラセボよりもアレルギー症状を改善した。
ベースラインのデータでは、各群に差は見られなかった。CSMSスコアを事前から事後まで分析したところ、参加者が過去12時間の症状を評価した場合、通常治療群と二重盲検プラセボ群に比べ、非盲検プラセボ群でより大きな改善がみられた(変化スコア:非盲検プラセボ 1.20±2.41、二重盲検プラセボ 0.25±2.65、通常治療群 0.42±2.39)。同様の結果は、参加者が過去2週間を評価しなければならなかった場合にも示された。鼻炎QOL質問票(RQLQ)の結果も、非盲検プラセボ群でより強い改善を示した(非盲検プラセボ群 0.77±1.09、二重盲検プラセボ群 0.41±1.36、通常治療群 0.28±0.95)。
TNSSの結果、非盲検プラセボ群のスコアは、二重盲検プラセボ群と通常治療群に比べて改善した。この結果は、過去2週間のTNSSスコアによっても支持されたが、有意水準には達しなかった。日記データの分析では、非盲検プラセボ群の境界線での効果が示された。
さらに、Covid-19の大流行により、アレルギー症状全般(および非盲検プラセボの効果)が軽減したことも観察された。
結論:季節性アレルギー症状が非盲検プラセボによって緩和される可能性を示唆している。これらの結果について、非盲検プラセボ治療と従来隠蔽されていたプラセボ治療の異なるメカニズムの可能性について考察する。
引用文献
A randomized controlled trial of effects of open-label placebo compared to double-blind placebo and treatment-as-usual on symptoms of allergic rhinitis
Michael Schaefer et al. PMID: 37225724 PMCID: PMC10206347 DOI: 10.1038/s41598-023-34790-9
Sci Rep. 2023 May 24;13(1):8372. doi: 10.1038/s41598-023-34790-9.
— 読み進める pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37225724/
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