ドンペリドンの抗ウイルス効果はどのくらいなのか?
ドンペリドンはin vitroで重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対する抗ウイルス活性を示し、プロラクチン分泌刺激による免疫抑制作用が期待されています。しかし、実臨床において、COVID-19患者に対するドンペリドンの臨床効果については不明です。
そこで今回は、ドンペリドン経口剤+標準治療(standard of care, SOC;n=87)とプラセボ+SOC(n=86)の有効性を評価した二重盲検ランダム化第III相臨床試験(EudraCT番号2021-001228-17)の結果をご紹介します。
本試験では、一次医療機関における28日間のランダム化二重盲検多施設共同試験において、ドンペリドン経口剤+標準治療(standard of care, SOC;n=87)とプラセボ+SOC(n=86)の有効性が評価されました。
軽度〜中等度のCOVID-19の外来患者173例が組み入れられました。試験参加者は、ドンペリドン10mg(30mg/日)またはプラセボを1日3回、7日間投与されました。
主要評価項目は4日目のウイルス量の減少でした。ウイルス量の減少は、唾液検体の逆転写-定量ポリメラーゼ連鎖反応(RT-qPCR)により、ORF1ab、N蛋白、S蛋白遺伝子を検出するサイクルの閾値として推定されました。
試験結果から明らかになったことは?
ドンペリドン群 | プラセボ群 | 平均差 (95%CI) | |
ORF1ab | 5.7(4.9) | 6.14(4.8) | 平均差 0.44 (95%CI -1.01〜1.90) p=0.551 |
N蛋白 | 5.56(4.74) | 6.02(4.39) | 平均差 0.46 (95%CI -0.91~1.83) p=0.505 |
S蛋白 | 3.63(4.60) | 3.65(5.38) | 平均差 0.02 (95%CI -1.48~1.52) p=0.981 |
ベースラインから4日目、7日目、14日目まで、調査した3つの遺伝子(ORF1ab、N蛋白、S蛋白)においてウイルス量の有意な減少が観察されました(p<0.001)が、ドンペリドン群とプラセボ群の間には有意な差は認められませんでした。
ORF1abの平均Ct値(SD)は、ドンペリドン群で5.7(4.9)であったのに対し、プラセボ群では6.14(4.8)でした(平均差 0.44、95%CI -1.01〜1.90、p=0.551)。N蛋白については、平均Ct値はドンペリドン+sOc群で5.56(4.74)、プラセボ群で6.02(4.39)であり、平均差は0.46(95%CI -0.91~1.83; p=0.505)でした。S蛋白の平均Ct値は、ドンペリドン群で3.63(4.60)、プラセボ群で3.65(5.38)であり、平均差は0.02(95%CI -1.48~1.52; p=0.981)でした。
23例の患者(13.3%)が有害事象を経験し、ドンペリドン群で14例(16.1%)、プラセボ群で9例(10.5%)でした。入院を必要とした患者はいませんでした。
コメント
細胞や動物を使用したin vitro研究において、抗ウイルス活性が示される薬剤がありますが、人を対象とした臨床研究で効果が示されないことは多く、創薬の成功確率は3万分の1とされています。創薬には多額の研究開発費がかかることから、既存薬の適応拡大としてドラッグ・リポジショニングが行われます。
ドンペリドンはin vitroでSARS-CoV-2に対する抗ウイルス活性を示しましたが、実臨床における効果は不明です。
さて、二重盲検ランダム化比較試験の結果、軽度〜中等度のCOVID-19外来患者におけるドンペリドン経口投与は、ORF1ab、N蛋白、S蛋白遺伝子を減少させましたが、プラセボ群との差は認められませんでした。
研究台から実臨床へ移行する際に、しばしば課題となるのが投与用量です。本研究の結果、現在承認されているドンペリドンの臨床用量では、抗ウイルス活性がないと結論づけて差し支えないでしょう。
✅まとめ✅ 二重盲検ランダム化比較試験の結果、軽度〜中等度のCOVID-19外来患者におけるドンペリドン経口投与は、ORF1ab、N蛋白、S蛋白遺伝子を減少させたが、プラセボ群との差がなかった。
根拠となった試験の抄録
はじめに:COVID-19に対するドンペリドンの臨床効果を二重盲検第III相臨床試験(EudraCT番号2021-001228-17)で検討した。ドンペリドンはin vitroで重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対する抗ウイルス活性を示し、プロラクチン分泌刺激による免疫抑制作用が期待される。
患者と方法:一次医療機関における28日間のランダム化二重盲検多施設共同試験において、ドンペリドン経口剤+標準治療(standard of care, SOC;n=87)とプラセボ+SOC(n=86)の有効性を評価した。軽度〜中等度のCOVID-19の外来患者173例が組み入れられた。ドンペリドン10mg(30mg/日)またはプラセボを1日3回、7日間投与した。
4日目のウイルス量の減少が主要評価項目であった。ウイルス量の減少は、唾液検体の逆転写-定量ポリメラーゼ連鎖反応(RT-qPCR)により、ORF1ab、N蛋白、S蛋白遺伝子を検出するサイクルの閾値として推定された。
結果:ベースラインから4日目、7日目、14日目まで、調査した3つの遺伝子においてウイルス量の有意な減少が観察された(p<0.001)が、ドンペリドン群とプラセボ群の間には有意な差は認められませんでした。23例の患者(13.3%)が有害事象を経験し、ドンペリドン群で14例(16.1%)、プラセボ群で9例(10.5%)であった。入院を必要とした患者はいなかった。
結論:この結果は、COVID-19患者における抗ウイルス薬としてのドンペリドンの使用を証明するものではない。
キーワード:COVID-19 disease;PCR;SARS-CoV-2ウイルス;ドンペリドン
引用文献
A randomized, double-blind study on the efficacy of oral domperidone versus placebo for reducing SARS-CoV-2 viral load in mild-to-moderate COVID-19 patients in primary health care
Alejandro Rabanal Basalo et al. PMID: 37847999 PMCID: PMC10583612 DOI: 10.1080/07853890.2023.2268535
Ann Med. 2023;55(2):2268535. doi: 10.1080/07853890.2023.2268535. Epub 2023 Oct 17.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37847999/
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