24時間連続血圧記録による血圧値と死亡率の関係はどのくらいですか?(スペインの観察的コホート研究; Lancet. 2023)

a doctor measuring his patient s blood pressure using a sphygmomanometer 02_循環器系
Photo by Los Muertos Crew on Pexels.com
この記事は約5分で読めます。
ランキングに参加しています!応援してもよいよという方はポチってください!

死亡リスク予測に適している血圧測定方法とは?

24時間自由行動下血圧測定(ABPM:Ambulatory blood pressure、携帯型24時間連続血圧記録)は診療所血圧よりも包括的な評価が可能であり、診療所血圧や家庭血圧よりも健康アウトカムの予測に優れていることが報告されているます。しかし、患者予後との関連性については充分に検討されていません。

そこで今回は、高血圧の評価のために紹介されたプライマリケア患者の大規模コホートにおいて、診療所血圧と24時間外来血圧の全死亡率および心血管死亡率との関連性を検討することを目的とした試験の結果をご紹介します。

本試験は、スペイン外来血圧レジストリの2004年3月1日から2014年12月31日までに取得した診療所および外来血圧のデータを用いた観察コホート研究でした。このレジストリは、スペインの全17地域のスペイン国民保健システムの223施設のプライマリケアセンターの患者を含んでいました。

死亡データ(日付と原因)は、スペイン国立統計研究所のバイタルレジストリをコンピュータで検索して確認されました。年齢、性別、すべての血圧測定値、BMIについては完全なデータを入手することが可能でした。

各研究参加者のフォローアップは、募集日から死亡日または2019年12月31日のいずれか先に発生した日までとされました。Coxモデルを用いて、通常の診療所血圧または外来血圧と死亡率との関連を交絡因子で調整し、血圧の代替指標を追加することで推定しました。血圧の各測定値について、その後死亡した人のその測定値の五分位で定義される5つのグループが作成されました。

試験結果から明らかになったことは?

中央値 9.7年の追跡期間中に、59,124例の患者のうち7,174例(12.1%)が死亡し、そのうち2,361例(4.0%)が心血管系の原因により死亡しました。

いくつかの血圧測定値でJ字型の関連性が観察されました。ベースラインで定義された上位5分の1のうち、24時間収縮期血圧は、診療所収縮期血圧(1.18 、1.13〜1.23)よりも全死亡と強く関連していました(ハザード比 [HR] 1.41、95%CI 1.36〜1.47/1-SD増分)。

診療所血圧で調整した後も、24時間血圧は全死亡と強い関連を示しましたが(HR 1.43、95%CI 1.37〜1.49)、診療所血圧と全死亡の関連は、24時間血圧で調整すると減弱しました(1.04、1.00〜1.09)。

診療所収縮期血圧の情報量(100%)と比較して、夜間収縮期血圧は全死亡(591%)および心血管死(604%)のリスクについて最も情報量が多いことが示されました。

白衣高血圧仮面高血圧持続性高血圧
全死亡リスクHR 0.90
(95%CI 0.84〜0.97)
HR 1.24
(95%CI 1.12〜1.37
1.24
(95%CI 1.15〜1.32
心血管死亡リスクHR 0.89
(95%CI 0.77〜1.01)
HR 1.37
(95%CI 1.15〜1.63
HR 1.38
(95%CI 1.22〜1.55

正常範囲内の血圧と比較して、全死亡リスクの上昇は、白衣高血圧ではなく、仮面高血圧(HR 1.24、95%CI 1.12〜1.37)と持続性高血圧(1.24、1.15〜1.32)で観察され、心血管死亡リスクの上昇は、白衣高血圧ではなく、仮面高血圧(1.37、1.15〜1.63)と持続性高血圧(1.38、1.22〜1.55)で観察されました。

コメント

血圧は1日の間でも変動することが知られており、睡眠中は低く、朝になると起床前からゆっくり上昇し、昼間の活動量が多い時間帯に高くなります。夕方になって活動量が減ると血圧も低下し、睡眠中はさらに低くなります。この一般的な血圧推移の他、運動や食事、感情の変化の影響で変動することも報告されています。いずれもサーカディアン(概日)リズムおよびホルモン変化が関与していると考えられます。以上のことから、1つの時点の血圧値だけでは患者予後の判断が困難です。

24時間自由行動下血圧測定(ABPM)は、片腕に血圧を測定するためのカフ(腕)を巻き、血圧計本体を腰に固定することで、あとは日常と同様に自由に行動し、その間の血圧変動を測定する検査です。 一般的に昼間は30分間隔、夜間は1時間間隔で機械が自動に血圧を測定してくれます。

このABPMを用いて測定した血圧は大きく3つに分けることができます。正常の血圧日内変動では、夜間血圧は昼間の覚醒時に比較して10~20%低下することが報告されており、この適度の夜間血圧を示す正常型をDipper型と呼びます。日中血圧に対して夜間血圧の低下が0~10%である場合をNon-dipper型、逆に夜間に血圧上昇を示す場合をRiser型といい、血圧日内変動異常と呼ばれています。Non-dipper 型、Riser型では、正常のDipper型と比較して、脳や心臓、腎臓の臓器障害、心血管イベント、心血管死亡のリスクが高くなる可能性が報告されていますが、充分に検討されていません。

さて、スペインの観察コホートの結果、24時間連続血圧、特に夜間血圧は、診療所血圧よりも全死亡および心血管死のリスクについてより有益な情報でした。また、白衣高血圧、仮面高血圧、持続性高血圧のうち、正常血圧と比較して全死亡・心血管死亡リスクの上昇と関連していたのは、仮面高血圧と持続性高血圧でした。

あくまでも相関が示されたに過ぎませんが、これまでの報告と大きな違いはありません。白衣高血圧については、脳卒中や死亡リスク上昇と相関する報告もあるため、結論づけられませんが、仮面高血圧および持続性高血圧については一貫した結果が得られています。これに加えて、夜間血圧の変化を把握しておくことで患者予後改善のための治療戦略に役立てられるかもしれません。

ABPMを年に何回か、月に1回程度実施した場合に、食事療法や運動療法の変化、薬物治療の設計、さらには患者予後がどのように変化するのか気にかかるところです。

続報に期待。

doctor checking the blood pressure of a patient

✅まとめ✅ 24時間連続血圧、特に夜間血圧は、診療所血圧よりも全死亡および心血管死のリスクについてより有益な情報であった。

次のページに根拠となった論文情報を掲載しています。

コメント

タイトルとURLをコピーしました