入院中の高齢者における血圧管理は厳格な方が良いのか?
無症状の血圧上昇は入院中の高齢者に多いものの、入院中の血圧上昇の臨床管理には広範な異質性が残存しています。したがって、集中的な血圧の管理による患者転帰への影響についてさらなる検証求められています。
そこで今回は、非心臓疾患で入院した高齢者の入院時血圧上昇に対する集中治療と院内臨床転帰との関連性を検討することを目的に実施されたデータベース研究の結果をご紹介します。
このレトロスペクティブ・コホート研究は、非心血管系診断で入院した65歳以上の患者で、かつ入院後48時間以内に血圧上昇を経験した患者について、2015年10月1日から2017年12月31日までのVeterans Health Administrationデータが調査されました。
本試験における介入は、入院後48時間以降の集中的な血圧治療でした(入院前に使用していない抗高血圧薬の静脈内投与または経口クラスの投与を受けていることと定義)。
本試験の主要アウトカムは、入院死亡、集中治療室転院、脳卒中、急性腎障害、B型ナトリウム利尿ペプチド上昇、トロポニン上昇の複合でした。データは2021年10月1日から2023年1月10日の間に解析され、傾向スコアのオーバーラップ重み付けにより、早期集中治療を受けた人と受けなかった人の交絡が調整されました。
試験結果から明らかになったことは?
対象患者66,140例(平均年齢74.4[SD 8.1]歳、男性97.5%、女性2.6%、黒人17.4%、ヒスパニック1.7%、白人75.9%)中、入院後48時間以内に血圧の集中治療を受けた患者は14,084例(21.3%)でした。
早期集中治療を受けた患者と受けなかった患者では、残りの入院期間中、より多くの抗高血圧薬を追加投与し続けました(平均追加投与量、それぞれ6.1 [95%CI 5.8〜6.4] vs. 1.6 [95%CI 1.5〜1.8] )。
早期集中治療群 | 対照群 | 加重オッズ比 OR (95%CI) | |
主要アウトカム (入院死亡、集中治療室転院、脳卒中、急性腎障害、B型ナトリウム利尿ペプチド上昇、トロポニン上昇の複合) | 1,220例 [8.7%] | 3,570例 [6.9%] | OR 1.28 (1.18〜1.39) |
集中治療は、主要複合転帰のリスクが高いことと関連しており(1,220例 [8.7%] vs. 3,570例 [6.9%]; 加重オッズ比 [OR] 1.28、95%CI 1.18〜1.39)、抗高血圧薬の静注を受けている患者でリスクが最も高いことと関連していました(加重OR 1.90、95%CI 1.65〜2.19)。
脳卒中と死亡を除く複合アウトカムの各要素は、集中治療を受けた患者の方が経験しやすいことが示されました。この結果は、年齢、虚弱、入院前の血圧、入院初期の血圧、心血管疾患歴で層別化したサブグループでも一貫していました。
コメント
65歳以上の高齢者において、入院初期に血圧上昇がみられます。この血圧上昇に対して、集中的に降圧療法を実施した方が良いか否かについては結論が得られていません。
さて、後向きコホート研究の結果、血圧が上昇した入院高齢者において、集中的な薬理学的降圧治療は有害事象のリスクが高いことと関連していることが示されました。
本試験の主要アウトカムは入院死亡、集中治療室転院、脳卒中、急性腎障害、B型ナトリウム利尿ペプチド上昇、トロポニン上昇の複合であり、入院死亡および脳卒中には群間差がなかったようです。急性腎障害やICU入室のリスク上昇の可能性がどの程度か抄録からはわかりませんが注意を要します。
ただし本試験は人口データベースを用いた後向き解析の結果であることから、交絡因子が残存しており、示された結果の因果関係については不明です。前向き研究、特にランダム化比較試験の実施が求められます。
続報に期待。
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