セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)と呼ばれる抗うつ薬の一つであるデュロキセチン(Duloxetine)は、中枢性感作を抑制することで疼痛緩和作用も有していることから、鎮痛緩和を目的として以下の疾患にも用いられています。
適応症一覧(2023年5月時点);
◯うつ病・うつ状態
◯下記疾患に伴う疼痛
・糖尿病性神経障害
・線維筋痛症
・慢性腰痛症
・変形性関節症
痛みの強度によって使用される鎮痛薬が異なり、特に強い疼痛に対してはオピオイドが使用されます。デュロキセチンを使用することでオピオイドスペアリング(opioid sparing、オピオイドの使用量を少なくできるオピオイド温存効果)が期待できますが、実臨床における効果は不明です。
そこで今回は、デュロキセチンの鎮痛効果、特に人工股関節置換術または人工膝関節置換術後の術後疼痛、オピオイドの消費量、関連する副作用について調査した系統的レビューとメタ解析の結果をご紹介します。
本試験では、ルーチンの疼痛管理プロトコルに追加した場合にデュロキセチンとプラセボを比較した研究を2022年11月までMedline、Cochrane、EMBASE、Scopus、およびWeb of Scienceで検索されました。
試験結果から明らかになったことは?
最終解析には9件のランダム化臨床試験(RCT)が含まれ、総患者数は806例でした。
術後日数(postoperative days) | オピオイド消費量 平均差(MD) vs. プラセボ |
POD2 | MD -14.35 p=0.02 |
POD3 | MD -13.6 p<0.001 |
POD7 | MD -7.81 p<0.001 |
POD14 | MD -12.72 p<0.001 |
デュロキセチンは、術後(postoperative days, POD)2日目(平均差(MD) -14.35、p=0.02)、POD3(MD -13.6、p<0.001)、POD7(MD -7.81、p<0.001)およびPOD 14(MD -12.72、p<0.001)のオピオイド消費(経口モルヒネmg換算)を抑制しました。
術後日数(postoperative days) | 活動時の疼痛 (体動痛) vs. プラセボ | 安静時の疼痛 (自発痛) vs. プラセボ |
POD1 or 2 | 疼痛軽減 p<0.05 | 疼痛軽減 p<0.05 |
POD3 | 疼痛軽減 p<0.05 | 疼痛軽減 p<0.05 |
POD7 | 疼痛軽減 p<0.05 | 疼痛軽減 p<0.05 |
POD14 | 疼痛軽減 p<0.05 | 疼痛軽減 p<0.05 |
POD90 | 疼痛軽減 p<0.05 | 疼痛軽減 p<0.05 |
デュロキセチンは、POD1、3、7、14、90の活動時の疼痛(すべてp<0.05)、POD2、3、7、14、90の安静時の疼痛(すべてp<0.05)を軽減しました。
副作用の有病率は、傾眠・眠気のリスク増加(リスク比 1.87、p=0.007)を除き、有意差はありませんでした。
コメント
デュロキセチンは疼痛緩和作用を有することから、オピオイドの使用量を減らせる(オピオイドスペアリング)可能性があります。しかし、実臨床における検証は充分ではありません。
さて、システマティックレビューとメタ解析の結果、周術期のデュロキセチンのオピオイド温存効果は低~中程度であり、疼痛スコアは臨床的に有意ではないものの、統計的に有意に減少することが示されました。デュロキセチンを投与された患者では、傾眠と眠気のリスクが増加しました。
患者背景によっては、疼痛管理に加えてオピオイドスペアリングのためにデュロキセチン併用が有効となる可能性が示されました。どのような患者で本効果が最大化するのか検証が待たれます。
続報に期待。
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