治療抵抗性の慢性蕁麻疹に対するレボセチリン増量 vs. レボセチリン+モンテルカスト
慢性蕁麻疹は、患者にとっても治療する医師にとっても悩ましい問題です。やや古いですが、海外の診療ガイドラインであるEAACI/GA[2]LEN/EDF/WAOガイドラインでは、ロイコトリエン受容体拮抗薬を追加する前に、抗ヒスタミン薬を標準量の4倍まで増量するよう提唱しています。しかし、このような高用量に耐えられないことが多く、代替治療法の確立が求められています。ちなみに日本の診療ガイドライン(2018年版)では、経口投与では鎮静性の低い第2世代の抗ヒスタミン薬が第一選択薬として推奨されるものの、具体的な使い分けについては明記されていません。これは他の薬効クラスと比較して、抗ヒスタミン薬の効果に個人差があるためであると考えられます。同診療ガイドラインにおいても、一種類の抗ヒスタミン薬で十分な効果が得られない場合には、他の抗ヒスタミン薬1~2種類に変更、あるいは追加、さらには増量することで効果は期待できると記載されています。
そこで今回は、ロイコトリエン受容体拮抗薬を抗ヒスタミン薬の標準用量に追加することが、抗ヒスタミン薬の高用量単独投与と比較して、有効性、安全性、QOLの面で同等であるか否かを検討するために実施した二重盲検ランダム化比較試験の結果をご紹介します。
本試験では、レボセチリジン5mgの単回投与で効果が得られない慢性蕁麻疹の症例を対象に、レボセチリジン10mg(標準の倍量)とレボセチリジン5mgおよびモンテルカスト10mgの併用投与が比較検討されました。
具体的には、レボセチリジン5mgが効かない男女いずれかの慢性蕁麻疹患者120例が対象でした。本試験は、単施設、二重盲検、ランダム化、アクティブコントロール、並行群間第IV相試験(CTRI/2014/12/005261)であり、患者をレボセチリジン10mgまたはレボセチリジン5mg+モンテルカスト10mgを4週間投与する群にランダムに割り付けました。
本試験の主要評価項目は、蕁麻疹活動性スコア(UAS)および蕁麻疹重症度スコア(TSS)でした。安全性については、定期的な血液学的および生化学的検査と治療上問題となる有害事象がモニターされました。
試験結果から明らかになったことは?
レボセチリジン10mg群52例、レボセチリジン5mg+モンテルカスト10mg群51例について解析した結果、両群ともUASおよびTSSは有意に減少し、スコアの減少は両群間で同等でした(それぞれP=0.628、P=0.824)。
副作用では、レボセチリジン10mg群で鎮静が有意に多く認められました(P=0.013)。一方、QOLはレボセチリジン5mg+モンテルカスト10mg群で有意に改善されました(P=0.031)。
コメント
慢性蕁麻疹は掻痒や膨疹などの症状が認められます。治療薬としては、第二世代の抗ヒスタミン薬が用いられます。しかし、標準用量では治療効果が得られにくく、しばしば高用量が選択されます。そのため、傾眠や作業効率の低下などの副作用が引き起こされてしまうことから、代替治療法の確立が求められています。
さて、本試験結果によれば、レボセチリジン5mgに耐性のある慢性蕁麻疹患者の蕁麻疹スコアにおいて、レボセチリン5mg+モンテルカスト10mgとレボセチリン10mgは同様の効果を示しました。どちらもベースラインのスコアを約50%改善しています。各スコアの臨床上意義のある効果の最小差については触れられていませんが、症状が約50%緩和される可能性があることから、どちらも治療効果を有していると判断できます。
副作用について、レボセチリジン10mg群で鎮静が有意に多く認められました。一方で、QOLはレボセチリジン5mg+モンテルカスト10mg群で有意に改善されたことから、レボセチリジン5mgに耐性のある慢性蕁麻疹患者においては、レボセチリジン10mgに増量する前に、モンテルカスト10mgを追加することを検討してもよいのではないでしょうか。
ただし、本試験は短盲検かつ小規模な検討結果であるため、他の地域や国、慢性蕁麻疹患者の背景によっては、結果が異なる可能性があります。抗ヒスタミン薬の効果比較検証では参加者のリクルートが困難な場面も想定されますが、より大規模なランダム化比較試験での検証が求められます。
続報に期待。
その他の情報
レボセチリジンの初回投与は標準用量よりも2倍用量の方が良い?
抗ヒスタミン薬の標準用量の倍量を投与することで、難治性蕁麻疹の有効性が高まることが過去の研究で実証されています。2013年に発表されたランダム化比較試験では、従来の用量と比較して、レボセチリジンの2倍の投与用量が、ヒスタミン誘発性の発赤(flare)形成をより迅速かつ持続的に抑制し、膨疹および掻痒をより広範囲に抑制したことが示されています。ただし、本試験は健常成人を対象とした試験であるため、慢性蕁麻疹など患者を対象とした場合において同様の結果が示されるのかについては不明です。
私の経験となりますが、実際に投与初期の数日(3~7日)のみレボセチリジン10mg/日、その後は5~10mg/日に調節可能という処方に出会ったことがあります。
事実、保険診療においてもレボセチリジン10mgの使用は可能です。ザイザル錠の添付文書では「通常、成人にはレボセチリジン塩酸塩として1回5mgを1日1回、就寝前に経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減するが、最高投与量は1日10mgとする。」と記載されています。
蕁麻疹症状の重症度など患者背景によっては初回投与時に10mg用量を検討してみてはどうでしょうか。
ヒスタミン誘発膨疹・発赤反応に対する抗ヒスタミン薬の効果比較
レボセチリジン5mg vs. エバスチン10mg vs. フェキソフェナジン180mg vs. ロラタジン10mg vs. プラセボ
評価項目 | 投与薬剤 (投与量) | 平均値 (標準偏差) | レボセチリジンとの比較 平均値の差(98.75%CI) |
膨疹面積のAUC(0-24h) (mm2.h) | レボセチリジン(5mg) | 114(89) | - |
エバスチン(10mg) | 281(134) | 167(67,268) | |
フェキソフェナジン(180mg) | 259(169) | 145(44,246) | |
ロラタジン(10mg) | 390(115) | 277(176,377) | |
プラセボ | 694(301) | - | |
発赤面積のAUC(0-24h) (mm2.h) | レボセチリジン(5mg) | 3445(1508) | - |
エバスチン(10mg) | 9562(3520) | 6117(3385,8849) | |
フェキソフェナジン(180mg) | 7298(3567) | 3854(1121,6586) | |
ロラタジン(10mg) | 14683(4419) | 11238(8506,13970) | |
プラセボ | 24746(8339) | - |
健康成人18例を対象としたヒスタミン誘発膨疹・発赤反応に対する抗ヒスタミン薬の効果を検証した小規模な二重盲検ランダム化クロスオーバー試験の結果、レボセチリジン5mgは、エバスチン10mg、フェキソフェナジン180mg(日本では120mg/日まで)、ロラタジン10mgよりもヒスタミン誘発膨疹及び発赤面積のAUC(0~24時間)の平均値は最も低いことが示されました。
オロパタジン5mg×2回 vs. レボセチリジン5mg vs. プラセボ
健康成人18例を対象としたヒスタミン誘発膨疹・発赤反応に対する抗ヒスタミン薬の効果を検証した小規模な二重盲検ランダム化クロスオーバー試験の結果、オロパタジン5mg×2回はレボセチリジン5mgより強力であることが示されました。ただし、本試験も健常成人を対象としていること、レボセチリジンの用量は5mgのみであり10mgでの検討結果であることが試験の限界であると考えられます。標準用量の比較において、オロパタジンの方がレボセチリジンよりも発赤や膨疹を抑制できるかもしれません。
☑まとめ☑ レボセチリジン5mgに耐性のある慢性蕁麻疹患者の蕁麻疹スコアにおいて、レボセチリン5mg+モンテルカスト10mgとレボセチリン10mgは同様の効果を示した。レボセチリジン10mg群で鎮静が有意に多く認められ、QOLはレボセチリジン5mg+モンテルカスト10mg群で有意に改善された。
根拠となった試験の抄録
背景:慢性蕁麻疹は、患者にとっても治療する医師にとっても悩ましい問題である。EAACI/GA[2]LEN/EDF/WAOガイドラインでは、ロイコトリエン受容体拮抗薬を追加する前に、抗ヒスタミン薬を標準量の4倍まで増量するよう提唱している。しかし、患者はこのような高用量に耐えられないことが多い。本研究では、ロイコトリエン受容体拮抗薬を抗ヒスタミン薬の標準用量に追加することが、抗ヒスタミン薬の高用量単独投与と比較して、有効性、安全性、QOLの面で同等であるか否かを検討するために実施した。レボセチリジン5 mgの単回投与で効果が得られない慢性蕁麻疹の症例を対象に、レボセチリジン10mg(標準の倍量)とレボセチリジン5mgおよびモンテルカスト10mgの併用投与を比較検討した。
方法:レボセチリジン5mgが効かない男女いずれかの慢性蕁麻疹患者120例を対象に、単施設、二重盲検、ランダム化、アクティブコントロール、並行群間第IV相試験(CTRI/2014/12/005261)を実施した。患者をレボセチリジン10mgまたはレボセチリジン5mg+モンテルカスト10mgを4週間投与する群にランダムに割り付けた。
主要評価項目は、蕁麻疹活動性スコア(UAS)および蕁麻疹重症度スコア(TSS)であった。安全性については、定期的な血液学的および生化学的検査と治療上問題となる有害事象をモニターした。
結果:レボセチリジン10mg群52例、レボセチリジン5mg+モンテルカスト10mg群51例について解析した結果、両群ともUASおよびTSSは有意に減少し、スコアの減少は両群間で同等であった(それぞれP=0.628、P=0.824)。副作用では、レボセチリジン 10mg群で鎮静が有意に多く認められた(P=0.013)。QOLはレボセチリジン5mg+モンテルカスト10mg群で有意に改善された(P=0.031)。
試験の限界:本試験では、追跡期間が4週間であったことが制限となった。
結論:EAACI/GA[2]LEN/EDF/WAOガイドラインでは、抗ヒスタミン薬の増量前にモンテルカストの使用を認めるよう、より柔軟な対応が必要である。
引用文献
Effectiveness and safety of levocetirizine 10 mg versus a combination of levocetirizine 5 mg and montelukast 10 mg in chronic urticaria resistant to levocetirizine 5 mg: A double-blind, randomized, controlled trial
Tushar Kanti Sarkar et al. PMID: 28656910 DOI: 10.4103/ijdvl.IJDVL_551_16
Indian J Dermatol Venereol Leprol. 2017 Sep-Oct;83(5):561-568. doi: 10.4103/ijdvl.IJDVL_551_16.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28656910/
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