糖尿病を伴わない過体重または肥満成人の体調管理に優れているGLP-1受容体作動薬はどれか?
米国では、体重管理に使用可能なグルカゴン様ペプチド-1類似体(GLP-1)としてセマグルチドとリラグルチドがあげられます。しかし、これらを比較した第3相臨床試験は行われていません。
そこで今回は、過体重または肥満の患者において、週1回皮下投与のセマグルチド2.4mgと1日1回皮下投与のリラグルチド3.0mgの有効性および有害事象プロファイルを比較したSTEP8試験の結果をご紹介します。
本試験は、体格指数(BMI)30以上または27以上で1つ以上の体重関連の併存疾患があり、糖尿病を有さない成人(338例)を対象に、2019年9月(登録:9月11日~11月26日)から2021年5月(追跡終了:5月11日)まで米国19施設で実施したランダム化、オープンラベル、68週間、第3b相臨床試験でした。
試験参加者は、セマグルチド2.4mgを週1回皮下投与(16週間エスカレーション:126例)、またはプラセボ投与(セマグルチドに対するプラセボ)、リラグルチド3.0mgを1日1回皮下投与(4週間エスカレーション:127例)、またはプラセボ投与(リラグルチドに対するプラセボ)にランダムに割り付けられました(3:1:3:1。いずれも、食事と身体活動を実施)。セマグルチド2.4mgに忍容性のない参加者には1.7mgを投与し、リラグルチド3.0mgに忍容性のない参加者は治療を中断し、4週間の漸増を再開することが可能でした。プラセボ群はプールして解析されました(85例)。
本試験の主要アウトカムは体重変化率、検証的副次アウトカムは10%以上、15%以上、20%以上の体重減少の達成とし、68週目にセマグルチド vs. リラグルチドで評価しました。セマグルチド vs. リラグルチドの比較はオープンラベルで行われ、有効治療群はマッチしたプラセボ群に対して二重盲検化されました。プラセボとの比較は副次的な評価項目として行われました。
試験結果から明らかになったことは?
338例のランダム化された参加者(平均[SD]年齢 49[13]歳、265例の女性[78.4%]、平均[SD]体重 104.5[23.8]kg、平均[SD]BMI 37.5[6.8])のうち、319例が試験を完了し、271例が治療を完了しました(80.2%)。
セマグルチド群 | リラグルチド群 | プラセボ群 | |
ベースラインからの平均体重変化 | -15.8% | -6.4% | -1.9% |
群間差(vs. リラグルチド) | 差 -9.4% (95%CI -12.0 ~ -6.8) P<0.001 |
ベースラインからの平均体重変化は、セマグルチドで-15.8%、リラグルチドで -6.4%(差 -9.4%ポイント、95%CI -12.0 ~ -6.8、P<0.001)、プールしたプラセボでの体重変化は -1.9%でした。
セマグルチド群 | リラグルチド群 | オッズ比 OR(95%CI) | |
10%以上の体重減少を達成 | 70.9% | 25.6% | 6.3 (3.5~11.2) P<0.001 |
15%以上の体重減少を達成 | 55.6% | 12.0% | 7.9 (4.1~15.4) P<0.001 |
20%以上の体重減少を達成 | 38.5% | 6.0% | 8.2 (3.5~19.1) P<0.001 |
セマグルチドはリラグルチドと比較して、10%以上、15%以上、20%以上の体重減少を達成するオッズが有意に高かいことが示されました(70.9% vs. 25.6%[オッズ比 6.3、95%CI 3.5~11.2]、55.6% vs. 12.0%[オッズ比 7.9、95%CI 4.1~15.4]、および38.5% vs. 6.0%[オッズ比 8.2、95%CI 3.5~19.1、すべてP<0.001) 。
何らかの理由で治療を中止した参加者の割合は、セマグルチドで13.5%、リラグルチドで27.6%でした。消化器系の有害事象は、セマグルチドで84.1%、リラグルチドで82.7%が報告されました。
コメント
GLP-1受容体作動薬は体重減少効果を有していることから、過体重や肥満成人に対する治療選択肢の一つとして販売されています。その一方で、消化器性の有害事象が高率に認められることから、リスクベネフィット評価が求められます。さらに、GLP-1受容体作動薬として、どの薬剤が優れているのかについては充分に検証されていません。
さて、本試験結果によれば、糖尿病を伴わない過体重または肥満成人において、食事と身体活動のカウンセリングを加えた週1回のセマグルチド皮下投与は、1日1回のリラグルチド皮下投与と比較して、68週目に有意に大きな体重減少をもたらしました。治療を中止した割合はセマグルチドよりもリラグルチドの方が高く、消化器系の有害事象はセマグルチドの方が高いことが明らかとなりました。
投与間隔はセマグルチドが1週間、リラグルチドが1日1回であることから、患者負担はセマグルチドの方が少なそうです。ただし、日本では未承認の適応症であること、用量が異なることから薬価については不明です。
総合すると、セマグルチドの方が有効性が高く、安全性についても大きな懸念はなさそうです。
☑まとめ☑ 糖尿病を伴わない過体重または肥満成人において、食事と身体活動のカウンセリングを加えた週1回のセマグルチド皮下投与は、1日1回のリラグルチド皮下投与と比較して、68週目に有意に大きな体重減少をもたらした。
根拠となった試験の抄録
試験の重要性:体重管理に使用可能なグルカゴン様ペプチド-1類似体(GLP-1)であるセマグルチドとリラグルチドを比較した第3相臨床試験は行われていない。
目的:過体重または肥満の患者において、週1回皮下投与のセマグルチド2.4mgと1日1回皮下投与のリラグルチド3.0mgの有効性および有害事象プロファイルを比較する(いずれも食事療法および身体活動を伴う)。
試験デザイン、設定、参加者:体格指数(BMI)30以上または27以上で1つ以上の体重関連の併存疾患があり、糖尿病を有さない成人(338例)を対象に、2019年9月(登録:9月11日~11月26日)から2021年5月(追跡終了:5月11日)まで米国19施設で実施したランダム化、オープンラベル、68週間、第3b相臨床試験。
介入:参加者は、セマグルチド2.4mgを週1回皮下投与(16週間エスカレーション:126例)、またはプラセボ投与(セマグルチドに対するプラセボ)、リラグルチド3.0mgを1日1回皮下投与(4週間エスカレーション:127例)、またはプラセボ投与(リラグルチドに対するプラセボ)にランダムに割り付けられた(3:1:3:1)。いずれも、食事と身体活動を実施した。セマグルチド2.4mgに忍容性のない参加者には1.7mgを投与し、リラグルチド3.0mgに忍容性のない参加者は治療を中断し、4週間の漸増を再開することが可能だった。プラセボ群はプールし解析された(85例)。
主要アウトカムと測定方法:主要アウトカムは体重変化率、検証的副次アウトカムは10%以上、15%以上、20%以上の体重減少の達成とし、68週目にセマグルチド vs. リラグルチドで評価した。セマグルチド vs. リラグルチドの比較はオープンラベルで行われ、有効治療群はマッチしたプラセボ群に対して二重盲検化された。プラセボとの比較は副次的な評価項目として行われた。
結果:338例のランダム化された参加者(平均[SD]年齢 49[13]歳、265例の女性[78.4%]、平均[SD]体重 104.5[23.8]kg、平均[SD]BMI 37.5[6.8])中、319例が試験を完了し、271例が治療を完了した(80.2%)。
ベースラインからの平均体重変化は、セマグルチドで-15.8%、リラグルチドで -6.4%(差 -9.4%ポイント、95%CI -12.0 ~ -6.8、P<0.001)、プールしたプラセボでの体重変化は -1.9%であった。セマグルチドはリラグルチドと比較して、10%以上、15%以上、20%以上の体重減少を達成するオッズが有意に高かった(70.9% vs. 25.6%[オッズ比 6.3、95%CI 3.5~11.2]、55.6% vs. 12.0%[オッズ比 7.9、95%CI 4.1~15.4]、および38.5% vs. 6.0%[オッズ比 8.2、95%CI 3.5~19.1、すべてP<0.001) 。何らかの理由で治療を中止した参加者の割合は、セマグルチドで13.5%、リラグルチドで27.6%であった。消化器系の有害事象は、セマグルチドで84.1%、リラグルチドで82.7%が報告された。
結論と関連性:糖尿病を伴わない過体重または肥満成人において、食事と身体活動のカウンセリングを加えた週1回のセマグルチド皮下投与は、1日1回のリラグルチド皮下投与と比較して、68週目に有意に大きな体重減少をもたらした。
試験登録番号:ClinicalTrials.gov NCT04074161
引用文献
Effect of Weekly Subcutaneous Semaglutide vs Daily Liraglutide on Body Weight in Adults With Overweight or Obesity Without Diabetes: The STEP 8 Randomized Clinical Trial
Domenica M Rubino et al. PMID: 35015037 PMCID: PMC8753508 DOI: 10.1001/jama.2021.23619
JAMA. 2022 Jan 11;327(2):138-150. doi: 10.1001/jama.2021.23619.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35015037/
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