高血圧患者の心血管イベントにおけるChlorthalidoneとヒドロクロロチアジド、どちらが優れていますか?(RCT; DCPW試験; N Engl J Med. 2022)

two people holding pineapple fruits against a multicolored wall 02_循環器系
Photo by Maksim Goncharenok on Pexels.com
この記事は約6分で読めます。
ランキングに参加しています!応援してもよいよという方はポチってください!

高血圧患者の心血管イベントに対するChlorthalidoneの効果はヒドロクロロチアジドより優れているのか?

高血圧は様々な合併症を引き起こし、脳卒中や心筋梗塞などの心血管イベントの発生リスクを増加させます。降圧薬としては、いくつもの薬効群が販売されていますが、心血管イベント発生のリスク低減効果における薬効群間の差はなく、降圧効果が高いほど心血管イベントの発生リスク低減効果が示されています。

サイアザイド系類似薬であるChlorthalidone(クロルタリドン:日本では販売中止)の降圧効果は、サイアザイド系降圧利尿薬であるヒドロクロロチアジドよりも強いことが報告されています。したがって、クロルタリドンの方が、心血管イベントの発生リスクを低減する効果が強いと考えられます。

しかし、高血圧症患者において、クロルタリドンがヒドロクロロチアジドより主要な心血管有害事象の予防に優れているかどうかは不明です。

そこで今回は、退役軍人省の医療システムの患者で、ヒドロクロロチアジドの1日用量25mgまたは50mgの投与を受けていた65歳以上の成人を対象に、心血管イベントの発生リスクについてヒドロクロロチアジドとクロルタリドンとを比較検討したランダム化比較試験の結果をご紹介します。

本試験では、参加者をヒドロクロロチアジドによる治療を継続する群と、1日用量12.5mgまたは25mgのクロルタリドンに変更する群にランダムに割り付けました。

本試験の主要評価項目は、非致死的心筋梗塞、脳卒中、入院に至る心不全、不安定狭心症に対する緊急冠動脈血行再建術、および癌関連以外の死亡の複合でした。また、安全性についても評価しました。

試験結果から明らかになったことは?

合計13,523例の患者がランダム化を受けました。平均年齢は72歳でした。ベースライン時、12,781例(94.5%)にヒドロクロロチアジド(25mg/日)が処方されていました。各群のベースライン収縮期血圧の平均は139mmHgでした。

クロルタリドン群ヒドロクロロチアジド群ハザード比 HR
(95%CI)
主要評価項目
(非致死的心筋梗塞、脳卒中、入院に至る心不全、
不安定狭心症に対する緊急冠動脈血行再建術、
および癌関連以外の死亡の複合)
702例[10.4%]675例[10.0%]HR 1.04
0.94〜1.16
P=0.45
低カリウム血症6.0%4.4%P<0.001

中央値2.4年の追跡調査において、クロルタリドン群(702例[10.4%])とヒドロクロロチアジド群(675例[10.0%])の間で主要評価項目の発生にほとんど差がありませんでした(ハザード比 1.04、95%信頼区間 0.94〜1.16;P=0.45)。主要転帰のいずれの構成要素の発生にも群間差は認められませんでした。

低カリウム血症の発生率は、ヒドロクロロチアジド群よりもクロルタリドン群で高いことが示されました(6.0% vs. 4.4%、P<0.001)。

コメント

これまでの報告で、チアジド(サイアザイド)系類似薬であるChlorthalidone(クロルタリドン、商品名:ハイグロトン、日本では2008年に販売中止)が他のサイアザイド系利尿薬よりも優れた降圧効果、そして心血管イベントの発生リスク低減効果が報告されています。しかし、いずれも実施された試験時期が古く、現在では異なる結果が示される可能性があります。

さて、本試験結果によれば、中央値2.4年の追跡調査において、クロルタリドン群とヒドロクロロチアジド群の間で主要評価項目(非致死的心筋梗塞、脳卒中、入院に至る心不全、不安定狭心症に対する緊急冠動脈血行再建術、および癌関連以外の死亡の複合)の発生にほとんど差がありませんでした。また、主要評価項目の個々の構成要素についても群間差がなかったようです。一方、高カリウム血症の発生率はクロルタリドン群で高いことが示されました。

ただし、本試験はもともとヒドロクロロチアジドを服用していた患者が対象であり、持ち越し効果の可能性を否定できません。また、退役軍人省の医療システムを利用していることから、試験参加者は男性が多いと考えられます。したがって、少なくとも平均年齢72歳の男性高血圧患者においては、クロルタリドンとヒドロクロロチアジドに差はなさそうです。

judges desk with gavel and scales

☑まとめ☑ 中央値2.4年の追跡調査において、Chlorthalidone群とヒドロクロロチアジド群の間で主要評価項目(非致死的心筋梗塞、脳卒中、入院に至る心不全、不安定狭心症に対する緊急冠動脈血行再建術、および癌関連以外の死亡の複合)の発生にほとんど差がなかった。

根拠となった試験の抄録

背景:高血圧症患者において、クロルタリドンがヒドロクロロチアジドより主要な心血管有害事象の予防に優れているかどうかは不明である。

方法:プラグマティック(実用的な)試験において、退役軍人省の医療システムの患者であり、ヒドロクロロチアジドの1日用量25mgまたは50mgの投与を受けていた65歳以上の成人を、ヒドロクロロチアジドによる治療を継続する群と、1日用量12.5mgまたは25mgのクロルタリドンに変更する群にランダムに割り付けた。主要評価項目は、非致死的心筋梗塞、脳卒中、入院に至る心不全、不安定狭心症に対する緊急冠動脈血行再建術、および癌関連以外の死亡の複合であった。また、安全性についても評価した。

結果:合計13,523例の患者がランダム化を受けた。平均年齢は72歳であった。ベースライン時、12,781例(94.5%)にヒドロクロロチアジド(25mg/日)が処方されていた。各群のベースライン収縮期血圧の平均は139mmHgであった。中央値2.4年の追跡調査において、クロルタリドン群(702例[10.4%])とヒドロクロロチアジド群(675例[10.0%])の間で主要評価項目の発生にほとんど差がなかった(ハザード比 1.04、95%信頼区間 0.94〜1.16;P=0.45)。主要転帰のいずれの構成要素の発生にも群間差は認められなかった。低カリウム血症の発生率は、ヒドロクロロチアジド群よりもクロルタリドン群で高かった(6.0% vs. 4.4%、P<0.001)。

結論:臨床で一般的に使用されている用量のサイアザイド系利尿薬を用いたこの大規模な実用的な試験において、クロルタリドンを投与された患者は、ヒドロクロロチアジドを投与された患者よりも主要な心血管予後イベントや非癌関連死亡の発生率が低くなかった。

資金提供:退役軍人協会共同研究プログラム

ClinicalTrials.gov番号:NCT02185417

引用文献

Chlorthalidone vs. Hydrochlorothiazide for Hypertension-Cardiovascular Events
Areef Ishani et al. PMID: 36516076 DOI: 10.1056/NEJMoa2212270
N Engl J Med. 2022 Dec 14. doi: 10.1056/NEJMoa2212270. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36516076/

コメント

タイトルとURLをコピーしました