フェイスマスクは手指と顔面の接触によるSARS-CoV-2感染リスクに影響するのか?
地域環境におけるフェイスマスクの使用は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2型(SARS-CoV-2)の感染とCOVID-19の発生を抑えるために用いられる公衆衛生対策の重層的アプローチに不可欠です(PMID: 33566056、PMID: 33431650、PMID: 34161818、PMID: 32461212、PMID: 32497510)。しかし、子供や学校でのフェイスマスクの使用は、利害関係者が潜在的な利益と否定的な結果をどう判断するかを反映した様々な管轄区域のアプローチにより、依然として論争の的となっています(PMID: 32388722)。
マスクの利点は、使用される素材や装着感によりますが、感染源の抑制や着用者の保護が挙げられます(PMID: 32497510、PMID: 32388722、OAHPP)。いくつかの研究において、マスクが安全衛生対策の一つであった学校では、二次的な感染率が低いことが実証されています(PMID: 33735161、PMID: 33764967、PMID: 33630823、PMID: 33507890、PMID: 32914746、PMID: 33301431)。さらに、疫学的研究により、学校でのマスキングを実施している地域では、アウトブレイク(PMID: 34591830)が少なく、SARS-CoV-2感染(PMID: 34591829)の発生率も低いことが示されています。
しかし、これらの利点は、潜在的な負の影響とともに評価される必要があります。潜在的な悪影響には、身体的悪影響(呼吸器系、皮膚系)、心理的、認知的、コミュニケーション上の影響などがあります(PMID: 32917303、OAHPP)。フェイスマスク着用により、子どもの手と手の接触が増え、自己感化やウイルス感染を引き起こす可能性が指摘されています(PMID: 18357546、PMID: 4350527、PMID: 22396651、PMID: 24034483)。
そこで今回は、模擬学校環境において、フェイスマスク着用が小児・青年の手と顔の接触に与える影響を評価したBack-to-School COVID-19 Simulation試験の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
合計174例の生徒がランダム化を受け、171例(マスク群:男性50.6%、対照群:男性52.4%)が2日目に登校しました。
マスク群 (/1時間/生徒1人) | 対照群 (/1時間/生徒1人) | 率比(RR) | |
手と顔の接触率 | 88.2 | 88.7 | RR 1.00 (95%CI 0.78〜1.28) P>0.99 |
手と粘膜の接触率 | 4.2 | 26.8 | RR 0.12 (95%CI 0.07〜0.21) |
手と粘膜以外の接触率 | 84.4 | 58.1 | RR 1.40 (95%CI 1.08〜1.82) |
手と顔の接触率は、マスク群と対照群で有意差はありませんでした(生徒1人当たり1時間当たり88.2件 vs. 88.7件;RR 1.00、95%CI 0.78〜1.28;P>0.99)。
対照群と比較すると、手と粘膜の接触率はマスク群で有意に低く(RR 0.12、95%CI 0.07〜0.21)、手と粘膜以外の接触率は高いことが示されました(RR 1.40、95%CI 1.08〜1.82)。
コメント
フェイスマスクを着用することで、手と顔の接触回数が増加することにより、感染リスクが増加する懸念があります。これは手指に付着したウイルスが、眼などの粘膜に接触することで、ウイルスが人体内に侵入し感染するためです。しかし、フェイスマスク着用が、手と顔あるいは手と粘膜の接触回数を増加させるのかについては充分に検証されていません。
さて、本試験結果によれば、手と顔の接触は、フェイスマスクの着用が義務付けられた学生とそうでない学生で差がありませんでした。また、手と粘膜の接触は、フェイスマスク群で低いことが示されました。
したがって、マスク着用が自己感化による感染リスクを高める可能性は低いことが示唆されたことになります。本試験は、カナダ・オンタリオ州トロントの2校で実施された結果ですので、他の国や地域でも同様の結果が示されるのかについては不明です。
とはいえ、実臨床でのマスク着用による感染リスク低減の結果も踏まえると、マスク着用により感染リスクが増加する可能性は低いと考えられます。
続報に期待。
✅まとめ✅ マスク着用が自己感化による感染リスクを高める可能性は低いことが示唆された。
根拠となった試験の抄録
試験の重要性:学校でのフェイスマスク着用は、SARS-CoV-2感染を減らすことができるが、手と顔の接触が増え、自己感化による感染リスクが高まる可能性がある。
試験の目的:学校でのマスク着用が児童の手指・顔面接触に及ぼす影響を評価する。
試験デザイン、設定および参加者:この前向きランダム化臨床試験は、2020年8月にカナダ・オンタリオ州トロントの2校で、保育園児から12年生(高校3年性)までを1:1の割合で、2日間の学校シミュレーションでマスク授業と対照授業のいずれかにランダムに振り分けた。授業は、アウトカムを正確に把握するために4つの角度からビデオ録画された。
介入:マスク群の参加者は、自分のマスクを持参し、常に着用するよう指示された。対照群に割り当てられた生徒は、常時マスクを着用する必要はなく(4年生以下)、また物理的距離を保てる教室内では着用する必要はなかった(5年生以上)。
主要アウトカムと測定法:主要アウトカムは、シミュレーション2日目の1時間あたりの生徒1人当たりの手と顔の接触回数とした。副次的アウトカムは、手と粘膜の接触、手と非粘膜の接触とした。混合ポアソン回帰モデルを用いて、年齢と性別で調整し、クラスに関するランダム切片をブートストラップした95%CIを用いて、率比(RR)を導出した。
結果:2日目に登校した生徒174例(マスク群:男性50.6%、対照群:男性52.4%)であった。手と顔の接触率は、マスク群と対照群で有意差はなかった(生徒1人当たり1時間当たり88.2件 vs. 88.7件;RR 1.00、95%CI 0.78〜1.28;P>0.99)。対照群と比較すると、手と粘膜の接触率はマスク群で有意に低く(RR 0.12、95%CI 0.07〜0.21)、手と粘膜以外の接触率は高かった(RR 1.40、95%CI 1.08〜1.82)。
結論と関連性:学校シミュレーションを用いた臨床試験において、手と顔の接触は、フェイスマスクの着用が義務付けられた学生とそうでない学生で差がなかったが、手と粘膜の接触は、フェイスマスク群で低かった。このことから、マスク着用が自己感化による感染リスクを高める可能性は低いことが示唆された。
臨床試験登録 ClinicalTrials.gov Identifier: NCT04531254.
引用文献
Effect of Wearing a Face Mask on Hand-to-Face Contact by Children in a Simulated School Environment: The Back-to-School COVID-19 Simulation Randomized Clinical Trial
Michelle Science et al. PMID: 36279142 DOI: 10.1001/jamapediatrics.2022.3833
JAMA Pediatr. 2022 Oct 24. doi: 10.1001/jamapediatrics.2022.3833. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36279142/
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