AKI発生と死亡リスクが増加するのは夏と冬どちらなのか?
急性腎障害(AKI)は、突然の腎機能低下を特徴とし、入院患者によく見られる疾患です(PMID: 23744003)。また、高齢や糖尿病などの危険因子を有する患者の急性疾患(心臓病や感染症など)の経過中に発症することがよくあります(PMID: 24445744)。AKI患者、特に急性腎代替療法(RRT)を必要とする重症AKI患者は、AKIでない患者よりも短期および長期の死亡率が高くなることが報告されています(PMID: 23744003、PMID: 27297949)。
病気の季節的なパターンを理解することは、臨床診療、病院の資源利用、地域社会での予防医療にとって重要です。いくつかの伝染病や非伝染病は、その発生率や疾患の特徴に季節的変動があることが知られています(PMID: 17222079、PMID: 28518176、PMID: 15693997)。例えば、心不全や肺炎は、北半球の国では冬に多くみられます(PMID: 17384442、PMID: 22894879)。
そこで今回は、日本の大手病院チェーンの大規模データベースを用いて、入院患者におけるAKI発症の季節変動を調査した研究結果をご紹介します。本試験では、患者の特徴や既知のAKIの危険因子を調整した上で、季節とAKIとの関連性を検討しました。さらに、AKI患者の重症度と30日死亡率が季節によってどのように異なるかについても検討されました。
試験結果から明らかになったことは?
対象:入院患者 | |
AKI発症 | 81,279/555,940例(14.6%) |
月(発生率) | 調整オッズ比(1月 vs. 6月) | |
AKI患者数が最も高い月 | 1月(16.7%) | 調整オッズ比 1.24 (95%信頼区間 1.17〜1.31) |
AKI患者数が最も低い月 | 6月(13.4%) | – |
555,940例の入院患者のうち、81,279例(14.6%)が急性腎障害(AKI)を発症していたことが確認されました。AKI患者の割合は1月が最も高く(16.7%)、6月が最も低いことが示されました(13.4%)。
サブグループ解析により、AKI発症の季節性は、高齢者における心血管および肺疾患の入院診断に関連した市中発症AKIによってもたらされていることが示唆されました。
AKIの調整オッズ比(1月 vs. 6月)は1.24(95%信頼区間 1.17〜1.31)でした。
30日死亡率 | |
春 | 16.4% |
夏 | 14.5% |
秋 | 15.6% |
冬 | 18.4% |
AKI患者は冬に多くの臓器不全を示し、その30日死亡率は春16.4%、夏14.5%、秋15.6%、冬18.4%であった。
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急性腎障害(AKI)は数時間から数日という短期間で急激に腎機能が低下する病態です。尿から老廃物を排泄できなくなったり、溢水になったりします。場合によっては、透析が必要になる場合があります。
AKI(急性腎障害)診療ガイドライン 2016によれば、AKIは以下の内のいずれかにより定義されます。
【KDIGO診療ガイドラインによるAKI診断基準と病期分類】
- sCr≧0.3mg/dLの変化(48時間以内)
- Crの基礎値から1.5倍上昇(7日以内)
- 尿量0.5mL/kg/時以下が6時間以上持続
sCr基準 | 尿量基準 | |
ステージ1 | sCr≧0.3mg/dLの変化 or sCr 1.5〜1.9倍上昇 | 0.5mL/kg/時未満 6時間以上 |
ステージ2 | sCr 2.0〜2.9倍上昇 | 0.5mL/kg/時未満 12時間以上 |
ステージ3 | sCr 3.0倍上昇 or sCr≧4.0mg/dLまでの上昇 or 腎代替療法開 | 0.3mL/kg/時未満 24時間以上 or 12時間以上の無尿 |
AKIを発症する要因は様々であり、一貫した結果が得られていませんが、心不全患者に併発することが知られています。またAKI発症に季節性が示される可能性があるものの充分に検討されていません。
さて、本試験結果によれば、AKIは入院患者に多くみられ、AKI患者は冬季に発生することが示されました。さらにAKIを発症した患者の30日死亡リスクは冬季に高い傾向が認められました。あくまでも相関関係が示されたに過ぎませんが、AKI発生は夏季よりも冬季の方が高いようです。
ちなみに2021年に報告されたイタリアの研究結果(PMID: 33451322)においても同様の傾向であり、冬季はAKIリスクの増加と関連していました(RR 1.16、95%CI 1.05〜1.29、p=0.003)。北半球の国として、日本とイタリアで一貫した結果が示されている点は結果の信頼性を高めると考えられます。
続報に期待。
✅まとめ✅ AKIは入院患者に多くみられ、AKI患者は冬季に重症化、死亡リスクが高くなる可能性が示された。
根拠となった試験の抄録
背景:疾患の季節性を理解することは、臨床診療、病院資源の利用、地域ベースの予防医療を改善するために重要である。しかし、急性腎不全(AKI)の季節性を調査した研究はない。
方法:日本の38の地域病院を含む徳洲会医療データベースにおいて、腎臓病に基づいてAKIを発症した入院患者を特定した。Improving Global Outcomesの血清クレアチニン基準を2012年1月から2014年12月まで実施した。入院患者のうちAKIを発症した患者の人数と割合を入院月別にプロットした。入院診断カテゴリー、AKI診断時期、年齢によるサブグループ解析を行った。また、患者特性やAKI危険因子を調整し、入院月とAKIの関連性を検討した。最後に、AKI患者の重症度と30日死亡率の季節変動を評価した。
結果:555,940例の入院患者のうち、81,279例(14.6%)がAKIを発症していたことが確認された。AKI患者の割合は1月が最も高く(16.7%)、6月が最も低かった(13.4%)。サブグループ解析により、AKI発症の季節性は、高齢者における心血管および肺疾患の入院診断に関連した市中発症AKIによってもたらされていることが示唆された。AKIの調整オッズ比(1月 vs. 6月)は1.24(95%信頼区間 1.17〜1.31)であった。AKI患者は冬に多くの臓器不全を示し、その30日死亡率は春16.4%、夏14.5%、秋15.6%、冬18.4%であった。
結論:AKIは入院患者に多くみられ、AKI患者は冬季に重症化するようである。
引用文献
Seasonality of acute kidney injury incidence and mortality among hospitalized patients
Masao Iwagami et al. PMID: 29462342 DOI: 10.1093/ndt/gfy011
Nephrol Dial Transplant. 2018 Aug 1;33(8):1354-1362. doi: 10.1093/ndt/gfy011.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29462342/
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