心筋症患者の除細動器植込み前の単形性心室頻拍に対する早期アブレーションは有効ですか?(RCT; PAUSE-SCD試験; Circulation. 2022)

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ICD植込み前の心室頻拍に対してカテーテルアブレーションを実施すると心血管イベントの発生が少ない?

植え込み型除細動器(ICD)は心室頻拍(VT)や心室細動といった命に関わる重症な不整脈を経験した患者、あるいはその可能性が高いと予測される患者が適応となります。これらの不整脈にはICDの他に薬物治療やカテーテルアブレーションなども行われますが、ICDが最も効果的と言われています。特に、心筋梗塞や心筋症が原因で心機能が著しく低下し、重症な不整脈が起こりやすい場合、ICD治療は従来の薬物治療と比べ、死亡率を23~55%低下することが報告されています。しかし、ICD治療を行った場合でも、突然死を完全に予防できるわけではありません。ICDによる電気治療が正常に行われても不整脈が続く場合や、一旦洞調律となっても繰り返し不整脈が発生する場合、または、不整脈をきっかけに心不全が悪化し死亡することが考えられます。

カテーテルアブレーションは不整脈の原因となる異常な電気信号のある部位を焼灼することになります。異常な部位をすべて焼灼できた、もしくは異常な電気信号伝達を防ぐ焼灼ができたと思われるまで、焼灼を何度か繰り返すことになります。

植え込み型除細動器(ICD)植え込み時のVTに対する第一選択療法としてのカテーテルアブレーションは、臨床ガイドラインに採用されていません。また、非虚血性心筋症患者におけるVTアブレーションの役割について、前向き試験で検証する必要性があります。

そこで今回は、ICD植込みの適応がある心筋症および単形性VT患者180例を登録した国際多施設共同ランダム化比較試験の結果をご紹介します。本試験では、早期アブレーション治療の役割を検討しました。121例の患者が、アブレーション+ICDと従来の内科的治療+ICDに1対1でランダムに割り付けられました。ICDを拒否した患者(47例)には、単独アブレーション治療後に前向き登録で追跡調査を行いました。本試験の主要評価項目は、VT再発、心血管系入院、死亡の複合エンドポイントでした。

試験結果から明らかになったことは?

ランダムに割り付けられた患者の平均年齢は55歳(四分位範囲 46〜64)、左室駆出率は40%(四分位範囲 30%〜49%)、81%が男性でした。基礎心疾患は虚血性心筋症が35%、非虚血性心筋症が30%、不整脈性心筋症が35%でした。アブレーションはICD植込みの中央値2日前に実施されました(四分位範囲 5日前~14日後)。

アブレーション群対照群ハザード比 HR
(95%CI)
主要評価項目49.3%65.5%HR 0.58
0.35〜0.96
P=0.04
VT再発31.7%50.8%HR 0.51
0.29〜0.90
P=0.02
心血管系入院32.0%33.7%HR 0.82
0.43〜1.56
P=0.55
死亡8.3%8.8%HR 1.40
0.38〜5.22
P=0.62

31ヵ月の時点で、主要転帰はアブレーション群の49.3%と対照群の65.5%で発生しました(ハザード比 0.58[95%CI 0.35〜0.96]; P=0.04)。観察された差は、アブレーション群におけるVT再発の減少によってもたらされました(ハザード比 0.51[95%CI 0.29〜0.90]; P=0.02)。

アブレーションを受けた患者では、ICDショック(10.0% vs. 24.6%; P=0.03)と抗頻拍ペーシング(16.2% vs. 32.8%; P=0.04)が対照群と比較して統計的に有意に減少していました。一方、心血管系の入院(32.0% vs. 33.7%; ハザード比 0.82[95%CI 0.43〜1.56]; P=0.55)および死亡率(8.9% vs. 8.8%; ハザード比 1.40[95%CI 0.38〜5.22]; P=0.62)に差は認められませんでした。

アブレーションに関連した合併症は8.3%の患者に発生しました。

コメント

心室頻拍(VT)や心室細動といった命に関わる重症な不整脈を経験した患者、あるいはその可能性が高いと予測される患者に対しては、薬物療法やカテーテルアブレーション、そしてICD植込みが実施されます。特に死亡リスク低下が大きいことからICD植込みが選択されています。しかし、ICD植込みでも突然死を完全に予防することができないことから、ICD植込み前のカテーテルアブレーション実施に関心が寄せられています。

さて、本試験結果によれば、様々な原因で心筋症を発症した患者において、ICD植込み時に早期カテーテルアブレーションを実施することにより、内科的療法+ICD植込みと比較して、VT再発、心血管系入院、死亡の複合主要転帰を有意に減少させることが示されました。この減少は、主にVT再発の減少に起因していました。

VT再発は心不全の悪化、これにより死亡することもあるため、本試験結果は貴重です。追試が求められますが、ICD植込みが適応となるような重度の心筋症患者に対しては、ICD植込み前にカテーテルアブレーションを実施した方が良いのかもしれません。

続報に期待。

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✅まとめ✅ 様々な原因で心筋症を発症した患者において、ICD植込み時に早期カテーテルアブレーションを実施することにより、VT再発、心血管系入院、死亡の複合主要転帰を有意に減少し、これは主にVT再発の減少に起因していた。

根拠となった試験の抄録

背景:植え込み型除細動器(ICD)植え込み時の心室頻拍(VT)に対する第一選択療法としてのカテーテルアブレーションは、臨床ガイドラインに採用されていない。また、非虚血性心筋症患者におけるVTアブレーションの役割について、プロスペクティブに検討する必要性がある。

方法:ICD植込みの適応がある心筋症および単形性VT患者180例を登録した国際多施設共同ランダム化比較試験を実施し、早期の第一選択アブレーション治療の役割を検討した。121例の患者が、アブレーション+ICDと従来の内科的治療+ICDに1対1でランダムに割り付けられた。ICDを拒否した患者(47例)には、単独アブレーション治療後に前向き登録で追跡調査を行った。
主要評価項目は、VT再発、心血管系入院、死亡の複合エンドポイントでした。

結果:ランダムに割り付けられた患者の平均年齢は55歳(四分位範囲 46〜64)、左室駆出率は40%(四分位範囲 30%〜49%)、81%が男性であった。基礎心疾患は虚血性心筋症が35%、非虚血性心筋症が30%、不整脈性心筋症が35%であった。アブレーションはICD植込みの中央値2日前に実施した(四分位範囲 5日前~14日後)。31ヵ月の時点で、主要転帰はアブレーション群の49.3%と対照群の65.5%で発生した(ハザード比 0.58[95%CI 0.35〜0.96]; P=0.04)。観察された差は、アブレーション群におけるVT再発の減少によってもたらされた(ハザード比 0.51[95%CI 0.29〜0.90]; P=0.02)。アブレーションを受けた患者では、ICDショック(10.0% vs. 24.6%; P=0.03)と抗頻拍ペーシング(16.2% vs. 32.8%; P=0.04)が対照群と比較して統計的に有意に減少していた。心血管系の入院(32.0% vs. 33.7%; ハザード比 0.82[95%CI 0.43〜1.56]; P=0.55)および死亡率(8.9% vs. 8.8%; ハザード比 1.40[95%CI 0.38〜5.22]; P=0.62)に差は認められなかった。アブレーションに関連した合併症は8.3%の患者に発生した。

結論:様々な原因で心筋症を発症した患者において、ICD植え込み時に早期カテーテルアブレーションを実施することにより、VT再発、心血管系入院、死亡の複合主要転帰を有意に減少させることができた。これらの知見は,ICD治療の減少によってもたらされたものである。

試験登録:Clinicaltrials.gov登録番号 NCT02848781

キーワード:カテーテルアブレーション、除細動器、埋込み型、頻拍、心室

引用文献

First-Line Catheter Ablation of Monomorphic Ventricular Tachycardia in Cardiomyopathy Concurrent With Defibrillator Implantation: The PAUSE-SCD Randomized Trial
Roderick Tung et al. PMID: 35507499 DOI: 10.1161/CIRCULATIONAHA.122.060039
Circulation. 2022 Jun 21;145(25):1839-1849. doi: 10.1161/CIRCULATIONAHA.122.060039. Epub 2022 May 4.
— 読み進める pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35507499/

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