SGLT2阻害薬であるダパグリフロジンは駆出率に関係なく心不全患者にとって有益なのか?
ナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害剤は、もともと2型糖尿病の治療薬として開発された血糖低下剤であり、2型糖尿病の有無にかかわらず、慢性心不全および左室駆出率低下(40%以下)患者や慢性腎臓病患者の死亡リスクおよびその他の有害事象のリスクを低減します(PMID: 31535829、PMID: 32865377、PMID: 32970396)。現在の臨床ガイドラインでは、慢性心不全で駆出率が低下している患者にはSGLT2阻害薬の使用が強く推奨されています(PMID: 35379503)。一方、心不全で左室駆出率が軽度あるいは保たれている患者に対する薬物治療の選択肢はほとんどありません(PMID: 31475794、PMID: 29431256)。
最近、SGLT2阻害薬であるエンパグリフロジンの投与により、左室駆出率が40%以上の心不全患者における心不全による入院または心血管死の複合リスクが減少することが示され、SGLT2阻害の有用性が左室駆出率にかかわらず、すべての心不全患者に及ぶ可能性が示唆されました(PMID: 34449189)。
心不全による入院の減少によってもたらされたこの効果は、駆出率が最も高い部分(65%以上)の患者では減弱しているようです(PMID: 34878502)。
心不全患者におけるSGLT2阻害薬の有用性については、駆出率が最も高い患者、入院中または入院後すぐに治療を開始した患者、以前に駆出率が低下しその後40%以上に改善した患者で有用性が保たれているかなど、いくつかの点でエビデンスにギャップが残っています。
そこで今回は、SGLT2阻害薬であるダパグリフロジンが、軽度の駆出率低下または駆出率が維持された患者の心不全悪化または心血管死のリスクを低減するという仮説を検証したDapagliflozin Evaluation to Improve the Lives of Preserved Ejection Fraction Heart Failure(DELIVER)試験の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
ダパグリフロジン群 | プラセボ群 | ハザード比 | |
主要アウトカム (心不全の悪化または心血管死の複合) | 512/3,131例 (16.4%) | 610/3,132例 (19.5%) | ハザード比 0.82 (95%CI 0.73〜0.92) P<0.001 |
心不全の悪化 | 368例 (11.8%) | 455例 (14.5%) | ハザード比 0.79 (95%CI 0.69~0.91) |
心血管死 | 231例 (7.4%) | 261例 (8.3%) | ハザード比 0.88 (95%CI 0.74~1.05) |
総死亡 | 497例 (15.9%) | 526例 (16.8%) | ハザード比 0.94 (95%CI 0.83〜1.07) |
中央値2.3年の間に、主要アウトカムはダパグリフロジン群では3,131例中512例(16.4%)、プラセボ群では3,132例中610例(19.5%)で発生しました(ハザード比 0.82、95%信頼区間[CI] 0.73〜0.92;P<0.001)。
心不全の悪化は、ダパグリフロジン群で368例(11.8%)、プラセボ群で455例(14.5%)に発生し(ハザード比 0.79、95%CI 0.69~0.91)、心血管死はそれぞれ231例(7.4%)、261例(8.3%)に発生しました(ハザード比 0.88、95%CI 0.74~1.05)。
総イベント数および症状負荷は、ダパグリフロジン群がプラセボ群より少ないことが示されました。結果は、左室駆出率が60%以上の患者と60%未満の患者で同様であり、糖尿病の有無など事前に特定したサブグループでも同様でした。
有害事象の発生率は両群で同程度でした。
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心不全に対するSGLT2阻害薬の有効性が示されています。これまでエンパグリフロジン(EMPEROR-Reduced試験)やダパグリフロジン(DAPA-HF試験)による心不全入院リスクの低下が示されていますが、いずれも左室駆出率が40%以下のHFrEF患者が対象となっていました。エンパグリフロジンでは、EMPEROR-preserved試験が行われ、駆出率が保たれたHFpEF患者においても心不全入院リスクの低減効果が示されました。一方、ダパグリフロジンについては臨床試験(DELIVER試験)の結果が待たれていました。
さて、本試験結果によれば、ダパグリフロジンは、心不全と駆出率の軽度低下または維持患者において、心不全の悪化または心血管死の複合リスクを減少させました。ただし、主に心不全の悪化リスクの低減効果が大きく影響しており、心血管死や総死亡に群間差は認められませんでした。試験期間は中央値で2.3年であるため、より長期に使用した場合の有効性・安全性の検証が求められます。
2022年8月現在のダパグリフロジンの適応は、駆出率が低下した心不全患者です。本DELIVER試験の結果により、適応範囲が拡大しそうですね。
続報に期待。
✅まとめ✅ ダパグリフロジンは、心不全と駆出率の軽度低下または維持の患者において、心不全の悪化または心血管死の複合リスクを減少させた。特に心不全の悪化リスクの低減効果が大きく、心血管死や総死亡に群間差は認められなかった。
根拠となった試験の抄録
背景:ナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬は、左室駆出率が40%以下の慢性心不全患者において、心不全による入院や心血管死のリスクを減少させる。左室駆出率が高い患者においてSGLT2阻害薬が有効であるかどうかは、まだあまり定かではない。
方法:左室駆出率が40%以上の心不全患者6,263例を、通常治療に加え、ダパグリフロジン(10mgを1日1回投与)またはマッチングプラセボを投与する群にランダムに割り付けた。主要評価項目は、心不全の悪化(心不全による予定外の入院または心不全による緊急受診と定義)または心血管死の複合とし、Time-to-Event解析で評価した。
結果:中央値2.3年の間に、主要転帰はダパグリフロジン群では3,131例中512例(16.4%)、プラセボ群では3,132例中610例(19.5%)で発生した(ハザード比 0.82、95%信頼区間[CI] 0.73〜0.92;P<0.001)。心不全の悪化は、ダパグリフロジン群で368例(11.8%)、プラセボ群で455例(14.5%)に発生し(ハザード比 0.79、95%CI 0.69~0.91)、心血管死はそれぞれ231例(7.4%)、261例(8.3%)に発生した(ハザード比 0.88、95%CI 0.74~1.05)。総イベント数および症状負荷は、ダパグリフロジン群がプラセボ群より少なかった。結果は、左室駆出率が60%以上の患者と60%未満の患者で同様であり、糖尿病の有無など事前に特定したサブグループでも同様であった。有害事象の発生率は両群で同程度であった。
結論:ダパグリフロジンは、心不全と駆出率の軽度低下または維持の患者において、心不全の悪化または心血管死の複合リスクを減少させた。
資金提供:アストラゼネカ社
ClinicalTrials.gov番号:NCT03619213
引用文献
Dapagliflozin in Heart Failure with Mildly Reduced or Preserved Ejection Fraction
Scott D Solomon et al. PMID: 36027570 DOI: 10.1056/NEJMoa2206286
N Engl J Med. 2022 Aug 27. doi: 10.1056/NEJMoa2206286. Online ahead of print.
— 読み進める www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2206286
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