メタボ健診は肥満と心血管の予防に対して効果がなさそう?(回帰不連続デザインを用いた後向き研究; BMJ 2022)

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メタボリックシンドロームに対する特定健診、特定保健指導は肥満や心血管イベントを低減あるいは予防できるのか?

肥満や糖尿病、高血圧などの肥満関連疾患は、多くの国々で疾病負担や医療費増加の主な原因となっています。米国では、肥満、糖尿病、高血圧に関連する年間医療費はそれぞれ1470億米ドル(PMID: 19635784)、2370億米ドル(PMID: 29567642)、1310億米ドル(PMID: 29848493)に上ります。さらに、肥満の人は冠動脈疾患、脳卒中、がんのリスクが高く、疾病負担と医療費の増加の一因となっています。世界レベルでは、社会人口統計学的な指標にかかわらず、ほとんどの国で肥満の有病率が上昇しており(PMID: 28604169)、年間400万人の死亡の原因となっており、その3分の2は心血管疾患によるものとされています。

この公衆衛生問題の大きさとこの問題に対処するための大きな努力にもかかわらず、人口レベルでの肥満の割合を効果的に減少させる政策や介入策は発見されていないのが現状です。

多くの国の政策立案者は、急速に患者数が増大する肥満による疾病負担と関連する医療費支出を抑制するための有望な介入策として、予防医療に注目しています。既存の介入の中でも、肥満と心血管危険因子に関する集団レベルの健康診断プログラムが注目され、中国(PMID: 31296584)、デンマーク(PMID: 28831535)、日本(厚生労働省)を含む多くの国で実施されています。その根底には、高リスク集団を特定し、彼らのライフスタイルを改善するための介入を提供したり、医師の治療を紹介することで、将来の心血管疾患の治療にかかる医療費を削減することができるという前提があります。しかし、このようなプログラムが医療利用や医療費に有効であることを示すエビデンスは弱く、一貫した結果は示されていません。

既存の研究では、デンマークの一地区で行われた研究(PMID: 15814585PMID: 16754583)(一般化には限界があります)、あるいは測定不能な交絡を十分に考慮しない観察研究(PMID: 25445334PMID: 28142031)(例えば、介入を受けることを自己選択した個人とそうでない個人の比較研究)などに限られています。したがって、集団レベルの健康診断で特定された高リスク集団を対象とした生活習慣病対策が、長期的に医療費削減に有効であるかどうかは、依然として不明です。

そこで今回は、集団レベルの保健指導介入が医療利用および医療費支出に及ぼす影響を検討した後向き研究の結果をご紹介します。本試験では、準実験的回帰不連続(RD)デザインを用いて、ウエスト周囲径の値が対象者のカットオフレベル以上の集団と下回っている集団が比較されました。RDデザインでは、カットオフレベル以上と下の集団は多くの特性において非常に類似しており、集団間の唯一の大きな違いは介入を受けたかどうかであったことから、国の保健指導介入の因果的影響を検証することができたものと考えられます。

試験結果から明らかになったことは?

スクリーニング参加者113,302例(年齢中央値 50.0歳、女性 11.9%)のうち、帯域幅(カットオフ値からウエスト周囲径±6cm)以内の51,213例を分析対象としました。

その結果、国の保健指導への割り当ては、外来受診日数の減少と関連していました(-1.3日;95%CI -11.4 ~ -0.5日;p=0.03)。

(医療利用, ITT解析)帯域幅平均帯域幅調整後の効果
(42,050例)
外来受診日数6.126.4日−1.3日
(−11.4 ~ −0.5)
P=0.03
薬剤使用(投薬)6.830.0%−3.8 pp
(−9.0 ~ +1.4)
P=0.15
入院6.914.4%−1.2 pp
(−7.2 ~ +4.1)
P=0.59
(医療費支出, ITT解析)帯域幅平均帯域幅調整後の効果
(42,050例)
医療費総額5.9US$ 3,816−US$ 1,138
(−4,506 ~ +932)
P=0.20
薬剤使用(投薬)5.7US$ 2,366+US$ 46
(−2,063 ~ +1,572)
P=0.79
入院6.3US$ 1,450−US$ 1,214
(−2932 ~ +68)
P=0.06

保健指導介入への割り付けが、投薬や入院、あるいは医療費支出の変化と関連しているという証拠は見いだせなかった

コメント

特定健診・特定保健指導が当たり前のように行われていますが、その効果については一貫した結果が得られていません。本試験のRD分析では、ウエスト周囲径を割り当て変数とされています。日本の保健指導介入では、ウエスト周囲径がカットオフ値(男性85cm、女性90cm)以上の参加者は、それ以下の参加者に比べて、保健指導介入を受ける可能性が高いと考えられます。

さて、本試験結果によれば、土木建設業を営む企業の健康保険に加入している現役世代の日本人男性において、国の保健指導介入は外来受診率の低下と関連する可能性があるが、投薬・入院の利用や医療費には変化がないことが示されました。

ただし、本試験において解析対象となったのは、年齢50.0(44.8~58.4)歳、ウエスト周囲径が85.1(82.5~88.0)cmの集団です。したがって、年齢、ウエスト周囲径がカットオフ値から大きく離れている集団や個人に対しては、本試験結果は当てはまらないと考えられます。また本試験の集団では、含まれた女性が11.9%であるため、ウエスト径がカットオフレベルに達していても女性集団に対する効果は明確でない可能性が高いと考えられます。

とはいえ、閉経前女性では、男性と比較して心血管イベントのリスクが低いことが知られています。したがって、本試験結果はある程度の確信性をもって適用できる可能性が高いと考えられます。

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☑まとめ☑ 土木建設業を営む企業の健康保険に加入している現役世代の日本人男性において、国の保健指導介入は外来受診率の低下と関連する可能性があるが、投薬・入院の利用や医療費には変化がないことが示された。

根拠となった試験の抄録

目的:肥満と心血管疾患の増加は、多くの国々で医療費の急激な増加に寄与している。しかし、肥満や心血管危険因子に対する集団レベルの保健指導介入が、医療利用や医療費の削減と関連しているかどうかはほとんど知られていない。本研究の目的は、日本で全国的に導入された集団レベルの保健指導介入が、医療利用および医療費支出に及ぼす影響を調査することであった。

試験デザイン:準実験的回帰不連続デザインによるレトロスペクティブ・コホート研究

試験設定:日本の全国規模の雇用型医療保険者。

試験参加者:40~74歳の国民健康保険検診プログラム参加者(2014年1月~2014年12月)。

予測因子:健康指導介入(健康的なライフスタイルに関するカウンセリング、および必要に応じて医師への紹介)への割り付けは、主に、少なくとも1つの心血管危険因子を有することに加えて、個人のウエスト周囲径がカットオフレベル超か未満かによって決定された。

主要および副次的なアウトカム評価項目:介入後3年間の医療利用(外来受診日数、投薬回数、入院回数)および医療費(総医療費、外来医療費、入院医療費)。

結果:スクリーニング参加者113,302例(年齢中央値 50.0歳、女性 11.9%)のうち、帯域幅(カットオフ値からウエスト周囲径±6cm)以内の51,213例を分析対象とした。その結果、国の保健指導への割り当ては、外来受診日数の減少と関連していた(-1.3日;95%CI -11.4 ~ -0.5日;p=0.03)。保健指導介入への割り付けが、投薬や入院、あるいは医療費支出の変化と関連しているという証拠は見いだせなかった

結論:土木建設業を営む企業の健康保険に加入している現役世代の日本人男性において、国の保健指導介入は外来受診率の低下と関連する可能性があるが、投薬・入院の利用や医療費には変化がないことが示された。

キーワード:医療経済学、内科学、予防医学、公衆衛生

利益相反に関する声明:競合する利益について申告なし。

引用文献

Impact of the national health guidance intervention for obesity and cardiovascular risks on healthcare utilisation and healthcare spending in working-age Japanese cohort: regression discontinuity design
Shingo Fukuma et al. PMID: 35906047 PMCID: PMC9345054 DOI: 10.1136/bmjopen-2021-056996
BMJ Open. 2022 Jul 29;12(7):e056996. doi: 10.1136/bmjopen-2021-056996.
— 読み進める bmjopen.bmj.com/content/12/7/e056996.long

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