新規のCOVID-19治療候補薬であるエンソビベップの有用性とは?
人類は、SARS-CoV-2による感染症(COVID-19)の脅威にさらされています。Afterコロナ、withコロナ時代と呼ばれる2022年において、依然として感染症治療薬の開発が求められています。
Ensovibep(MP0420, エンソビベプ, エンソビベップ)は、SARS-CoV-2感染症の治療薬として検討されている、新しいクラスとして設計されたアンキリンリピートタンパク質(ankyrin repeat protein)です。しかし、ヒトを対象とした本剤の効果検証は充分ではありません。
そこで今回は、COVID-19入院患者において、レムデシビルなどの標準治療に加え、エンソビベップが標準治療のみと比較して、臨床転帰を改善するかどうかを検討した二重盲検ランダム化比較試験(ACTIV-3/TICO試験)の結果をご紹介します。
本試験の参加者は、COVID-19で入院中の成人患者であり、エンソビベップ 600mgまたはプラセボを静脈内投与されました。本試験において、エンソビベップは、5日目の肺の序数点に基づいて早期の無益性が評価されました。主要アウトカムは、退院後、自宅または通常の居住地で14日間連続して過ごすことと定義した90日目までの回復持続期間でした。死亡、重篤な有害事象、末期臓器疾患、重篤な感染症を含む安全性の複合アウトカムが、90日目まで評価されました。
試験結果から明らかになったことは?
患者485例がランダムに割り付けられ、エンソビベップ(n=247)またはプラセボ(n=238)の投与を受けた後、独立データおよび安全性監視委員会は、早期無益性により登録を停止するよう勧告しました。5日目におけるエンソビベップ(vs. プラセボ)群の肺の転帰がより良好であることのオッズ比(OR)は 0.93(95%CI 0.67~1.30; P=0.68; OR>1でエンソビベップが有利)でした。
標準治療への エンソビベップ追加 | 標準治療への プラセボ追加 | ハザード比 (95%CI) | |
90日間の持続的回復の累積発生率 | 82%、 | 80% | サブハザード比 [sHR] 1.06 (0.88~1.28) |
90日目の主要複合安全性アウトカム | 78例(32%) | 70例(29%) | HR 1.07 (0.77~1.47) |
90日間の持続的回復の累積発生率は、エンソビベップで82%、プラセボで80%でした(サブハザード比 [sHR] 1.06 [CI 0.88~1.28]; sHR>1でエンソビペップが有利)。
90日目の主要複合安全性アウトカムは、エンソビベップ78例(32%)およびプラセボ70例(29%)で発生しました(HR 1.07[CI 0.77~1.47];HR<1でエンソビベップが有利)。
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引き続きCOVID-19治療薬の開発が求められています。現在は、レムデシビル(商品名:ベクルリー)やモルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ)、パクスロビド(商品名:パキロビッド)が使用されていますが、それぞれ課題が残っています。
さて、本試験結果によれば、新規クラスのアンキリンリピートタンパク質であるエンソビベップは、プラセボと比較して、レムデシビルを含む標準治療を受けたCOVID-19入院患者の臨床アウトカムを改善しませんでした。また、安全性に関する懸念も確認されませんでした。
本試験の限界としては、無益性のため早期に中止されたため、主要アウトカムに対する検出力が充分ではなかったことです。とはいえ、対象患者、試験背景を考慮すると、主要評価項目への影響はそこまで大きくないと考えられます。
今のところ、標準治療へのエンソビベップ追加は有用性が期待できません。
✅まとめ✅ 新規クラスのアンキリンリピートタンパク質であるエンソビベップは、プラセボと比較して、レムデシビルを含む標準治療を受けたCOVID-19入院患者の臨床アウトカムを改善しなかった;安全性に関する懸念は確認されなかった。
根拠となった試験の抄録
背景:Ensovibep(MP0420, エンソビベプ, エンソビベップ)は、SARS-CoV-2感染症の治療薬として検討されている、新しいクラスとして設計されたアンキリンリピートタンパク質(ankyrin repeat protein)である。
目的:COVID-19入院患者において、レムデシビルなどの標準治療に加え、エンソビベップが標準治療のみと比較して、臨床転帰を改善するかどうかを検討すること。
試験デザイン:二重盲検、ランダム化、プラセボ対照、臨床試験(ClinicalTrials.gov:NCT04501978)
試験設定:国際多施設共同試験
試験参加者:COVID-19で入院中の成人患者
介入:エンソビベップ 600mgまたはプラセボを静脈内投与
測定方法:エンソビベップは、5日目の肺の序数点に基づいて早期の無益性を評価した。主要アウトカムは、退院後、自宅または通常の居住地で14日間連続して過ごすことと定義した90日目までの回復持続期間とした。死亡、重篤な有害事象、末期臓器疾患、重篤な感染症を含む安全性の複合アウトカムが、90日目まで評価された。
結果:患者485例がランダムに割り付けられ、エンソビベップ(n=247)またはプラセボ(n=238)の投与を受けた後、独立データおよび安全性監視委員会は、早期無益性により登録を停止するよう勧告した。5日目におけるエンソビベップ(vs. プラセボ)群の肺の転帰がより良好であることのオッズ比(OR)は 0.93(95%CI 0.67~1.30; P=0.68; OR>1でエンソビベップが有利)であった。90日間の持続的回復の累積発生率は、エンソビベップで82%、プラセボで80%であった(サブハザード比 [sHR] 1.06 [CI 0.88~1.28]; sHR>1でエンソビベップが有利)。90日目の主要複合安全性アウトカムは、エンソビベップ78例(32%)およびプラセボ70例(29%)で発生した(HR 1.07[CI 0.77~1.47];HR<1でエンソビベップが有利)。
試験の限界:この試験は無益性のため早期に中止され、主要アウトカムに対する検出力が制限された。
結論:エンソビベップは、プラセボと比較して、レムデシビルを含む標準治療を受けたCOVID-19入院患者の臨床アウトカムを改善しなかった;安全性に関する懸念は確認されなかった。
主要な資金源:米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)
引用文献
Efficacy and Safety of Ensovibep for Adults Hospitalized With COVID-19 : A Randomized Controlled Trial
ACTIV-3/TICO Study Group* PMID: 35939810 DOI: 10.7326/M22-1503
Ann Intern Med. 2022 Aug 9. doi: 10.7326/M22-1503. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35939810/
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