重度の閉経後骨粗鬆症治療において、費用対効果が高いのはどちらか?
少子超高齢化社会の日本において、骨折を予防する戦略の確立は重要な課題の一つです。特に女性においては、閉経後に骨粗鬆症の発症リスク、これに伴う骨折リスクが大きく増加することから、骨折予防のために薬物治療が求められます。骨粗鬆症の治療は、診療ガイドラインの推奨や費用対効果の高さから、ビスホスホネート系薬を用いることが一般的です。しかし、骨過形成による骨折リスク増加について報告されていることから、治療開始後5〜10年で治療継続か中止か、他の治療薬へ変更するかなどについて検討します。
ビスホスホネート系薬による治療後に、ロモソズマブ(商品名:イベニティ)やテリパラチド(商品名:フォルテオ)が用いられますが、費用対効果について充分に検討されていません。
そこで今回は、ビスホスホネート系薬剤による治療歴のある日本人女性において、重度の閉経後骨粗鬆症治療として、アレンドロン酸に続いて投与されるロモソズマブとテリパラチドの費用対効果を評価した費用対効果分析の結果をご紹介します。
本試験では、Markovモデルを用いて、ロモソズマブ1年投与とテリパラチド2年投与の相対的費用対効果が評価されました(いずれもアレンドロン酸に続いて投与し、合計5年の治療期間)。平均年齢78歳、Tスコア2.5以下、脆弱性骨折の既往を有する女性コホートの転帰を生涯にわたりシミュレートしました。分析は、日本の医療制度の観点から行い、年率2%の割引率を使用しました。骨折の相対的発生率については、テリパラチドに対するロモソズマブの骨密度(BMD)の優位性を、骨粗鬆症治療試験のメタ回帰により得られた関係から、骨折の相対リスクに換算しました。アウトカムは、生涯コスト(2020年米ドル)と質調整生存年(QALYs)の観点から評価されました。
試験結果から明らかになったことは?
日本における重度の閉経後骨粗鬆症治療薬として、骨密度(BMD)有効性データを用いて、ロモソズマブとテリパラチド(いずれもアレンドロン酸と併用)の費用対効果を評価しました。その結果、ロモソズマブ/アレンドロン酸は、テリパラチド/アレンドロン酸に比べ、より低コストでより大きなヘルスベネフィットをもたらすことが示されました。
ロモソズマブ/アレンドロン酸 (vs. テリパラチド/アレンドロン酸) | |
コスト削減 | -5,134ドル/患者 |
QALYs | +0.045QALYs |
ベースケースの結果、テリパラチド/アレンドロン酸と比較して、ロモソズマブ/アレンドロン酸は患者一人当たり5,134ドルのコストを削減し、0.045QALYsを増加させることが示されました。
シナリオ分析と確率的感度分析により、結果はモデルの仮定と入力の不確実性に頑健であることが確認されました。
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平均年齢78歳、Tスコア2.5以下、脆弱性骨折の既往を有する女性コホートの転帰を生涯にわたりシミュレートした費用対効果分析の結果、ロモソズマブ(商品名:イベニティ)はテリパラチド(商品名:フォルテオ)と比較して、より低コストで、より大きな健康上の利益をもたらすことが示されました。具体的には、患者一人当たり5,134ドルのコストを削減し、0.045QALYsを増加させることが示されました。コストが低く、QALYsが増加したことから、ICERは算出せず、優位(dominant)でした。
ただし、本試験においては心血管安全性について評価されていません。添付文書上、心血管リスクについて記載はあるものの、主に海外で行われた臨床試験の結果に言及されています。これは、日本を含む国際共同試験においては、プラセボと比較して心血管リスクの増加が示されていないためです。しかし、添付文書の警告にも記載があるとおり、心血管リスクについては、可能性を否定できません。これは販売開始3ヵ月間で重篤な脳・心血管疾患が11例、因果関係が否定できない心血管事象による死亡が1例含まれていたことを受けて添付文書が改訂された際に追記されたものです。
本費用対効果分析では、心血管安全性について評価されていない可能性が高そうです。抄録のみで本文を確認できていないため結論づけられませんが、ロモゾズマブの費用対効果分析については心血管リスクについて検証する必要があります。
続報に期待。
☑まとめ☑ ロモソズマブ/アレンドロン酸は、テリパラチド/アレンドロン酸よりも低コストで、より大きな健康上の利益をもたらすことが示された。しかし、心血管安全性についての懸念が残る。
根拠となった試験の抄録
試験概要:本試験では、日本における重度の閉経後骨粗鬆症治療薬として、骨密度(BMD)有効性データを用いて、ロモソズマブとテリパラチド(いずれもアレンドロン酸と併用)の費用対効果を評価した。その結果、ロモソズマブ/アレンドロン酸は、テリパラチド/アレンドロン酸に比べ、より低いコストでより大きなヘルスベネフィットをもたらすことが示された。
はじめに:本研究は、ビスホスホネート系薬剤による治療歴のある日本人女性において、重度の閉経後骨粗鬆症治療として、アレンドロン酸に続いて投与されるロモソズマブとテリパラチドの費用対効果を評価することを目的とする。
方法:Markovモデルを用いて、ロモソズマブ1年投与とテリパラチド2年投与の相対的費用対効果を評価した(いずれもアレンドロン酸に続いて投与し、合計5年の治療期間)。平均年齢78歳、Tスコア2.5以下、脆弱性骨折の既往を有する女性コホートの転帰を生涯にわたりシミュレートした。分析は、日本の医療制度の観点から行い、年率2%の割引率を使用した。骨折の相対的発生率については、テリパラチドに対するロモソズマブの骨密度(BMD)の優位性を、骨粗鬆症治療試験のメタ回帰により得られた関係から、骨折の相対リスクに換算した。アウトカムは、生涯コスト(2020年米ドル)と質調整生存年(QALYs)の観点から評価された。
結果:ベースケースの結果、テリパラチド/アレンドロン酸と比較して、ロモソズマブ/アレンドロン酸は患者一人当たり5,134ドルのコストを削減し、0.045QALYsを増加させることが示された。シナリオ分析と確率的感度分析により、結果はモデルの仮定と入力の不確実性に頑健であることが確認された。
結論:ロモソズマブ/アレンドロン酸は、テリパラチド/アレンドロン酸よりも低コストで、より大きな健康上の利益をもたらすことが示された。
キーワード 骨密度,費用対効果,マルコフモデル,骨粗鬆症,Romosozumab,Teriparatide.
引用文献
Cost effectiveness of romosozumab versus teriparatide for severe postmenopausal osteoporosis in Japan
H Hagino et al. PMID: 33772328 DOI: 10.1007/s00198-021-05927-1
Osteoporos Int. 2021 Oct;32(10):2011-2021. doi: 10.1007/s00198-021-05927-1. Epub 2021 Mar 27.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33772328/
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