診療ガイドラインなどにおける推奨と利益相反の関係とは?
診療ガイドラインや諮問委員会の報告書における診断や治療の推奨は、患者のケアに重要な影響を与えます。同様に、社説などの意見記事や主要なオピニオンリーダーが執筆したナラティブレビューでの推奨も、臨床診療に影響を与える可能性があります。しかし、推奨を行うには判断が必要であり、懸念されるのは、利益相反がそのような推奨に影響を与える可能性があるかどうかです。
これらの推奨は、医薬品や機器産業と経済的な利害関係のある著者によって書かれることが多いことが知られています(PMID: 29362787、PMID: 28464118)。例えば、45報の臨床ガイドラインを調査したところ、著者の53%が金銭的な利益相反を抱えていました(PMID: 23642105)。
研究者は、専門分野や学術的な利益など、非金銭的な利益相反についても研究しているが、どのような利益や関係が非金銭的利益相反に該当するのか、その用語が適切かどうかについては議論があります(PMID: 28002462)。
金銭的な利益相反が研究結果の解釈に与える影響については、数多くの研究が行われています。あるCochraneの方法論レビューでは、主に臨床試験である一次研究において、企業からの資金提供と有利な結論の間に関連があることが報告されており(PMID: 28207928)、また、システマティックレビューにおける利益相反に関する別のCochrane methodology reviewでも同様の結果が報告されています(PMID: 31425611)。
今回ご紹介するのは、金銭的・非金銭的な利益相反(COI)が、診療ガイドライン、諮問委員会報告書、意見記事、ナラティブレビューにおける好ましい推奨(例:薬剤の推奨)とどの程度関連しているかを調査したシステマティックレビューの結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
106報の診療ガイドライン、1,809報の諮問委員会報告書、340報の意見記事、497報のナラティブレビューを分析した21件の研究が含まれました。未発表のデータは11件(完全データセット8件、要約データセット3件)でした。15件の研究では、比較した文書が利益相反以外の要因で異なる可能性があり(例えば、異なる集団に使用される異なる薬剤)、交絡のリスクが認められました。
利益相反と好ましい推奨 | |
診療ガイドライン | 相対リスク 1.26 (95%CI 0.93~1.69) 86件の4研究 |
諮問委員会報告書 | 相対リスク 1.20 (95%CI 0.99~1.45) 629件の4研究 |
意見記事 | 相対リスク 2.62 (95%CI 0.91~7.55) 284件の4研究 |
ナラティブレビュー | 相対リスク 1.20 (95%CI 0.97~1.49) 457件の4研究 |
全ての統合解析 | 相対リスク 1.26 (95%CI 1.09~1.44) |
利益相反と好ましい推奨との関連についての相対リスクは、診療ガイドラインでは1.26(95%信頼区間 0.93~1.69、診療ガイドライン86件の4研究)、諮問委員会報告書では1.20(0.99~1.45、諮問委員会報告書629件の4研究)、意見記事では2.62(0.91~7.55、意見記事284件の4研究)、ナラティブレビューでは1.20(0.97~1.49、457件の4研究)でした。4種類の文書をすべて合わせた分析でも、これらの結果は支持されました(1.26、1.09~1.44)。
専門的な利害関係を調査した1件の研究では、ガイドラインの著者に放射線科医を含むことと、乳癌のルーチンを推奨することの関連は相対リスク 2.10(95%信頼区間0.92~4.77;臨床ガイドライン12件)でした。
コメント
利益相反(conflicts of interest, COI)については、個人と所属団体の他、金銭的あるいは非金銭的に分けることができます。今回のシステマティックレビューでは金銭的利益相反が、各文書における好ましい推奨と関連するか検討しました。
さて、本試験結果によれば、利益相反が、診療ガイドライン、諮問委員会報告書、意見記事、ナラティブレビューにおける医薬品や機器の好ましい推奨と関連していることが示されました。ただし、個々の文書の相対リスクの区間推定(95%CI)を見てみると、1を下回っていますので、統計的解析では有意差が示されない可能性があります(※1を跨いでいても統計的に有意な差が得られる場合があります)。一方、統合解析において、95%CIは1.09~1.44ですので、全体でみてみると、利益相反が診療ガイドライン、諮問委員会報告書、意見記事、ナラティブレビューにおける医薬品や機器の好ましい推奨と関連していると解釈できます。
ここで注意したいのは、利益相反がなければ、中立公正な推奨になるのか?ということですが、これは必ずしも一致しません。そもそも資金が捻出できなければ、推奨そのものを作成できない場合が多分にあります。事実、今回のデータソースとなったEmbaseは有料サービスです。金銭的な利益相反があったとしても、これが明示されていれば、推奨内容を割り引いて捉えることができます。つまり、利益相反があることが良いのか悪いのか、という二値的な意見や対立は不要で、推奨内容がどの程度の妥当性なのか、一般的な集団における背景とどの程度一致しているのか、これらを思考するための判断材料にすれば良いと考えられるのではないでしょうか。
✅まとめ✅ 利益相反が、診療ガイドライン、諮問委員会報告書、意見記事、ナラティブレビューにおける医薬品や機器の好ましい推奨と関連していることを示していると解釈される。
根拠となった試験の抄録
目的:診療ガイドライン、諮問委員会報告書、オピニオンピース、ナラティブレビューにおける利益相反と好ましい推奨の関係を調査すること。
試験デザイン:システマティックレビュー。
適格基準:診療ガイドライン、諮問委員会報告書、意見記事(例:社説)、またはナラティブレビューにおいて、利益相反と医薬品または機器の好ましい推奨(例:医薬品を推奨すること)の関連を比較した研究。
データソース:PubMed、Embase、Cochrane Methodology Register(創刊から2020年2月まで)、参考文献リスト、Web of Science、灰色文献(grey literature)
データ抽出と解析:2名の著者が独立してデータを抽出し、研究の方法論的質を評価した。プールされた相対リスクと95%信頼区間は、ランダム効果モデルを用いて推定した(相対リスク>1は、利益相反のある文書が、利益相反のない文書よりも好ましい推奨をする頻度が高いことを示す)。金銭的利益相反と非金銭的利益相反は別々に分析し、4種類の文書は別々に(事前計画)、そして統合して(ポストホック)分析された。
結果:106報の診療ガイドライン、1,809報の諮問委員会報告書、340報の意見記事、497報のナラティブレビューを分析した21件の研究が含まれた。未発表のデータは11件(完全データセット8件、要約データセット3件)であった。15件の研究では、比較した文書が利益相反以外の要因で異なる可能性があり(例えば、異なる集団に使用される異なる薬剤)、交絡のリスクが認められた。利益相反と好ましい推奨との関連についての相対リスクは、診療ガイドラインでは1.26(95%信頼区間 0.93~1.69、診療ガイドライン86件の4研究)、諮問委員会報告書では1.20(0.99~1.45、諮問委員会報告書629件の4研究)、意見記事では2.62(0.91~7.55、意見記事284件の4研究)、ナラティブレビューでは1.20(0.97~1.49、457件の4研究)であった。4種類の文書をすべて合わせた分析でも、これらの結果は支持された(1.26、1.09~1.44)。専門的な利害関係を調査した1件の研究では、ガイドラインの著者に放射線科医を含むことと、乳癌のルーチンを推奨することの関連は相対リスク2.10(95%信頼区間0.92~4.77;臨床ガイドライン12件)であった。
結論:本研究の結果は、利益相反が、診療ガイドライン、諮問委員会報告書、意見記事、ナラティブレビューにおける医薬品や機器の好ましい推奨と関連していることを示していると解釈される。このレビューの限界は、含まれる研究における交絡のリスクと、各文書タイプの個々の分析における統計的不正確さである。また、非金銭的利益相反が推奨に影響を及ぼすかどうか定かではない。
系統的レビュー登録:Cochrane Methodology Review Protocol MR000040
引用文献
Association between conflicts of interest and favourable recommendations in clinical guidelines, advisory committee reports, opinion pieces, and narrative reviews: systematic review
Camilla H Nejstgaard et al. PMID: 33298430 PMCID: PMC8030127 DOI: 10.1136/bmj.m4234
BMJ. 2020 Dec 9;371:m4234. doi: 10.1136/bmj.m4234.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33298430/
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