HFrEF患者における利尿薬の使用と新規利尿薬投与に関連する臨床成績(2試験の事後解析; JACC Heart Fail. 2022)

photography of waterfalls between trees 02_循環器系
Photo by Rifqi Ramadhan on Pexels.com
この記事は約7分で読めます。
ランキングに参加しています!応援してもよいよという方はポチってください!

ベースラインで利尿剤を服用していないHFrEF患者は、利尿剤を使用している患者と比較して予後が良好?

駆出率低下型の心不全(HFrEF)患者を対象とした試験において、ベースラインで利尿剤を服用していない患者は最大で20%いることが報告されています。しかし、利尿薬を服用していない患者の実態はほとんど知られていません。

そこで今回は、ベースラインで利尿薬を服用していないHFrEF患者および利尿薬服用開始後のアウトカム(転帰)を検討した事後解析の結果をご紹介します。対象となった試験はATMOSPHERE(Aliskiren Trial of Minimizing Outcomes for Patients With Heart Failure)とPARADIGM-HF(Prospective Comparison of ARNI With ACEI to Determine Impact on Global Mortality and Morbidity in Heart Failure Trial)であり、HFrEF患者を対象に併合解析が行われました。ベースラインで利尿剤を服用中の患者と服用していない患者の患者特性およびアウトカムが比較され、さらに追跡期間中に利尿剤投与を開始した患者と、利尿剤投与を中止したままの患者が比較されました。転帰としては症状(Kansas City Cardiomyopathy Questionnaire Clinical Summary Score [KCCQ-CSS])、心不全悪化による入院、死亡率、腎機能(推定糸球体濾過量勾配)が検討されました。

試験結果から明らかになったことは?

https://www.jacc.org/doi/10.1016/j.jchf.2022.01.020より引用

ベースライン時、15,415例中3,079例(20%)の利尿剤非服用HFrEF患者は、HFプロファイルがより軽度で、神経ホルモンの活性化が少なく、腎機能がより良好でした。

利尿剤非服用HFrEF患者は、利尿剤服用患者に比べ、主要アウトカム(HFによる入院または心血管死)を経験する確率が低く(調整済みHR 0.77、95%CI 0.74~0.80、P<0.001)、原因を問わず死亡する確率も低いことが示されました。

利尿剤の開始は、その後の死亡リスクが高く(調整後 HR 2.05、95%CI 1.99〜2.11、P<0.001)、KCCQ-CSSと推定糸球体濾過量の減少が大きいことが示されました。

利尿薬開始の最も強い予測因子は、N末端プロB型ナトリウム利尿ペプチドの高値、高い体格指数、高齢、糖尿病歴、KCCQ-CSSの悪化でした。

PARADIGM-HFにおいて、サクビトリル/バルサルタンで治療された患者では、利尿剤の投与を開始した患者が少ないことが示されました(OR 0.72、95%CI 0.58〜0.88、P=0.002)。

コメント

心不全患者ではβ遮断薬に加えて利尿薬が使用されることが多いですが、過去の大規模臨床試験において、利尿薬を使用しないHFrEF患者が約20%いたことが明らかになっています。しかし、利尿薬を使用していない患者の転帰については充分に検討されていません。

さて、本試験結果によれば、利尿剤を服用していない、あるいは服用を中止したHFrEF患者では、利尿剤を投与された患者や投与を開始した患者に比べ、心不全による入院または心血管死、総死亡リスクが低い可能性が示されました。ただし、事後解析の結果であることから、これらのアウトカムの発生リスクが高い患者集団において、利尿薬が使用されていた可能性が高いです(因果の逆転、逆因果)。

つまり、心機能の低下を抑え、利尿薬の導入を遅らせることができれば、患者アウトカムを良好に保つことができると言えます。当然のことではありますが、現在の治療だけでは困難なケースもあります。SGLT2阻害薬やARNIなどの比較的新しい薬剤の使用と、利尿剤導入タイミング、そして患者アウトカムとの関係性についての検証が求められます。

続報に期待。

body of water during dawn

✅まとめ✅ 利尿剤を服用していない、あるいは服用を中止したHFrEF患者では、利尿剤を投与された患者や投与を開始した患者に比べ、良好な転帰を辿るかもしれない。

根拠となった試験の抄録

背景:駆出率低下型心不全(HFrEF)試験において、ベースラインで利尿剤を服用していない患者は最大で20%いるが、その実態はほとんど知られていない。

目的:本研究の目的は、利尿薬を服用していないHFrEF患者および利尿薬服用開始後の転帰を検討することである。

方法:ATMOSPHERE(Aliskiren Trial of Minimizing Outcomes for Patients With Heart Failure)試験とPARADIGM-HF(Prospective Comparison of ARNI With ACEI to Determine Impact on Global Mortality and Morbidity in Heart Failure Trial)試験を合わせて、ベースラインで利尿剤を服用中の患者と服用していない患者の患者特性およびアウトカムが比較された。また、利尿剤投与を開始した患者と、追跡期間中に利尿剤投与を中止したままの患者を比較した。症状(Kansas City Cardiomyopathy Questionnaire Clinical Summary Score [KCCQ-CSS])、心不全悪化による入院、死亡率、腎機能(推定糸球体濾過量勾配)を検討した。

結果:ベースライン時、15,415例中3,079例(20%)の利尿剤非服用HFrEF患者は、HFプロファイルがより軽度で、神経ホルモンの活性化が少なく、腎機能がより良好であった。利尿剤非服用HFrEF患者は、利尿剤服用患者に比べ、主要アウトカム(HFによる入院または心血管死)を経験する確率が低く(調整済みHR 0.77、95%CI 0.74~0.80、P<0.001)、原因を問わず死亡する確率も低かった。利尿剤の開始は、その後の死亡リスクが高く(調整後 HR 2.05、95%CI 1.99〜2.11、P<0.001)、KCCQ-CSSと推定糸球体濾過量の減少が大きかった。利尿薬開始の最も強い予測因子は、N末端プロB型ナトリウム利尿ペプチドの高値、高い体格指数、高齢、糖尿病歴、KCCQ-CSSの悪化であった。PARADIGM-HFでは、サクビトリル/バルサルタンで治療された患者では、利尿剤の投与を開始した患者は少なかった(OR 0.72、95%CI 0.58〜0.88、P=0.002)。

結論:利尿剤を服用していない、あるいは服用を中止したHFrEF患者では、利尿剤を投与された患者や投与を開始した患者に比べ、良好な転帰を示した。

キーワード:ATMOSPHERE、PARADIGM-HF、利尿剤投与開始、利尿剤投与、心不全

引用文献

Clinical Outcomes Related to Background Diuretic Use and New Diuretic Initiation in Patients With HFrEF
James P Curtain et al. PMID: 35654526 DOI: 10.1016/j.jchf.2022.01.020
JACC Heart Fail. 2022 Jun;10(6):415-427. doi: 10.1016/j.jchf.2022.01.020. Epub 2022 Apr 6.— 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35654526/

関連記事

【心不全(HFrEF)患者におけるSGLT2阻害薬であるダパグリフロジンの効果は、利尿薬の併用で変化しますか?(DAPA-HFの事後解析; Circulation. 2020)】

【HFrEF心不全患者におけるアルダクトン®️の効果はどのくらいですか?(RCT; NEJM 1999)】

コメント

タイトルとURLをコピーしました