虚血性脳卒中の初発リスクと抗ドーパミン作用の制吐剤使用に関連性はありますか?(フランス人口ベース研究; 自己コントロール研究; BMJ. 2022)

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抗ドーパミン作用性制吐剤の脳卒中発症リスクはどのくらいなのか?

中枢性抗ドーパミン作用を有する抗精神病薬による虚血性脳卒中のリスクは、大規模な観察研究で、特に高齢者や認知症の集団において強調されています(PMID: 18755769PMID: 15668211PMID: 22033997)。そのリスクは投与開始時にかなり高く、使用開始月には12倍になり、時間の経過とともに徐々に低下し、投与3ヵ月後にはベースラインまで低下します(PMID: 18635700PMID: 19304861PMID: 22877922)。ドーパミン受容体拮抗作用は、抗精神病薬の作用を決定する主な要因です。抗精神病薬は他のさまざまな受容体(ムスカリン作動性、ヒスタミン作動性、セロトニン作動性、アドレナリン作動性)も遮断しますが、脳卒中を引き起こすメカニズムとして、このドーパミン拮抗作用に関連する可能性があります(PMID: 22877922)。

抗精神病薬以外のドーパミン受容体拮抗薬、例えば抗ドーパミン作用性制吐剤の脳卒中発症リスクについては、充分に検証されていません。制吐剤は末梢性D2受容体拮抗薬であり、血液脳関門の外側にある化学受容体トリガーゾーンに直接作用します。しかし、メトクロプラミドのように血液脳関門を通過し、低活性の中枢性抗ドーパミン薬となる制吐剤もあります。また、血管は血液脳関門の外側にあるため、血液脳関門を通過する必要のないメカニズムで脳卒中の発生が引き起こされることもあります。

制吐剤は、一般診療所において、様々な原因による悪心・嘔吐の治療(片頭痛、化学療法または放射線療法、術後)に広く使用されています。抗ドーパミン作用を有する抗精神病薬に関連する虚血性脳卒中のリスクがよく知られており、制吐剤が広く使用されていることから、虚血性脳卒中と制吐剤の関連性を実際の環境で評価することが求められます。

そこで今回は、フランス全国の保険償還医療システムデータベースであるSystème National des Données de Santé(SNDS)のデータを用いた症例-時間-対照研究(自己コントロール研究)の結果をご紹介します。

試験結果から明らかになったことは?

脳卒中の発症が確認された2,612例のうち、リスク期間に1,250例、基準期間に1,060例が制吐剤を使用していました。

(制吐剤を使用した5,128例および対照13,165例の比較)調整オッズ比
脳卒中の発症3.12
(95%信頼区間 2.85〜3.42

同時期に制吐剤を使用した5,128例および対照13,165例を比較したところ、調整オッズ比は3.12(95%信頼区間 2.85〜3.42)でした。年齢、性別、認知症の既往で層別化した解析でも同様の結果が得られました。

脳卒中の発症リスク
ドンペリドン調整オッズ比 2.51
(95%信頼区間 2.18~2.88
メトピマジン(日本未承認)調整オッズ比 3.62
(95%信頼区間 3.11~4.23
メトクロプラミド調整オッズ比 3.53
(95%信頼区間 2.62~4.76

制吐剤で層別化した分析の調整オッズ比は、ドンペリドン2.51(2.18~2.88)、メトピマジン(日本未承認)3.62(3.11~4.23)、メトクロプラミド3.53(2.62~4.76)でした。感度分析により、リスクは使用開始後数日間においてより高くなることが示唆されました。

コメント

これまでの報告から、抗ドーパミン作用を有する抗精神病薬に関連する虚血性脳卒中のリスクがよく知られています。また抗ドーパミン作用を有する制吐剤が広く使用されていることから、虚血性脳卒中と制吐剤使用の関連性について関心が寄せられています。

さて、本試験結果によれば、制吐剤使用による虚血性脳卒中のリスク上昇が報告されました。リスクが最も高かったのは、メトピマジン(日本未承認)とメトクロプラミドであり、比較的ドンペリドンのリスクは低いようでした。しかし、ドンペリドンの調整オッズ比は2.51(95%信頼区間 2.18~2.88)であり、決してリスクがないわけではありません。

また、本研究で用いられたデータベースは、1日あたりの処方量や処方期間に関する情報を含んでいません。そのため、抗ドーパミン作用を有する制吐剤使用による脳卒中リスクが、用量依存的に増加するか否かについては不明です。また虚血性脳卒中のサブタイプに関する情報も含まれていないため、脳卒中の前駆症状である嘔気が制吐剤の使用につながった可能性、つまり因果の逆転を排除しきれません。さらに過去にパーキンソン病患者における死亡リスクを検証した研究結果では、ドンペリドン使用により死亡リスク増加の可能性が示されています。

制吐剤はさまざまな疾患に伴う嘔気・嘔吐に使用されることから、どのような患者に、どの薬剤を使用する方が良いのか、更なる検証が求められます。

続報に期待。

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✅まとめ✅ 制吐剤使用による虚血性脳卒中のリスク上昇が報告された。リスクが最も高かったのは、メトピマジン(日本未承認)とメトクロプラミドであった。

根拠となった試験の抄録

目的:抗ドーパミン作用のある制吐剤の使用に関連した虚血性脳卒中のリスクを推定すること。

試験デザイン:症例-時間-対照研究(Case-time-control study)。

試験設定:フランス全国の保険償還医療システムデータベースであるSystème National des Données de Santé(SNDS)のデータ

試験参加者:2012年から2016年の間に初回の虚血性脳卒中を発症し、脳卒中発症前70日間に何らかの制吐剤の償還が1回以上あった18歳以上が対象であった。各患者について、リスク期間(脳卒中前 -14 ~ -1日)とマッチさせた3つの参照期間(-70 ~ -57日、-56 ~ -43日、-42 ~ -29日)で制吐剤償還の頻度を比較した。対照群として、年齢、性別、虚血性脳卒中の危険因子を脳卒中患者とマッチングさせた21,859例のランダム抽出の非イベント者を用い、制吐剤使用の時間的傾向をコントロールした。

主要アウトカム評価項目:制吐剤の使用と虚血性脳卒中のリスクとの関連は、脳卒中患者と対照群で評価した曝露のオッズ比の比率を推定することで評価された。解析は、時間的に変化する交絡因子(抗凝固薬、抗血小板薬、血栓促進薬または血管収縮薬)を調整した。

結果:脳卒中の発症が確認された2,612例のうち、リスク期間に1,250例、基準期間に1,060例が制吐剤を使用していた。同時期に制吐剤を使用した5,128例および対照13,165例を比較したところ、調整オッズ比は3.12(95%信頼区間 2.85〜3.42)であった。年齢、性別、認知症の既往で層別化した解析でも同様の結果が得られた。制吐剤で層別化した分析の調整オッズ比は、ドンペリドン2.51(2.18~2.88)、メトピマジン(日本未承認)3.62(3.11~4.23)、メトクロプラミド3.53(2.62~4.76)であった。感度分析により、リスクは使用開始後数日間においてより高くなることが示唆された。

結論:フランス全国の包括的な診療報酬データを用いたこの自己対照研究では、最近の制吐剤使用による虚血性脳卒中のリスク上昇が報告された。最も高かったのは、メトピマジン(日本未承認)とメトクロプラミドであった。

引用文献

Risk of first ischaemic stroke and use of antidopaminergic antiemetics: nationwide case-time-control study
Anne Bénard-Laribière et al. PMID: 35321876 DOI: 10.1136/bmj-2021-066192
BMJ. 2022 Mar 23;376:e066192. doi: 10.1136/bmj-2021-066192.
— 続きを読む www.bmj.com/content/376/bmj-2021-066192

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