日本人ACS患者におけるクロピドグレルベースのDAPT 1~2ヵ月 vs. DAPT 12ヵ月(非盲検RCT; STOPDAPT-2 ACS; JAMA Cardiol. 2022)

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日本人ACS患者におけるDAPT期間は1〜2ヵ月と12ヵ月、どちらが良いのか?

急性冠症候群(ACS)患者は、慢性冠症候群(CCS)患者と比較して、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後の心血管イベントの長期リスクが高いと考えられてきた。そのため、PCI後の二重抗血小板療法(DAPT)の推奨期間は、ACS患者ではCCS患者よりも長く設定されていました。最新の欧米ガイドラインでは、PCI後の推奨DAPT期間は、ACS患者では基本的に12ヵ月であるのに対し、CCS患者では6ヵ月となっています(PMID: 27026020PMID: 28886622)。ACS患者における特定のDAPT期間12ヵ月のエビデンスは、1990年代後半に実施された試験から得られたものです(PMID: 11519503PMID: 11520521)。しかし、DAPTの長期化に伴う出血性イベントの増加に対する懸念がますます高まっています。ACS患者であっても、出血リスクが高い場合には、DAPTの期間を短縮することが既に推奨されています(PMID: 31116032PMID: 32173684PMID: 32860058)。

最近、合計3万人以上の患者を登録した5つの臨床試験(GLOBAL LEADERSSTOPDAPT-2SMART-CHOICETWILIGHTTICO)により、ACSおよびCCS患者において、PCI後の超短期(1~3ヵ月)DAPTとその後のP2Y12阻害剤単剤療法は、長期(12~15ヵ月)DAPTと比較して心血管イベントを増やさず出血イベントを抑制するという有益性が示唆されました(GLOBAL LEADERSSTOPDAPT-2SMART-CHOICETWILIGHTTICOPMID: 33284979PMID: 34135011)。これらの試験では、ほとんどのACS患者が1〜3ヵ月でDAPTを停止した後、チカグレロル単剤で治療を受けています。しかし、ACS患者において、チカグレロルおよびプラスグレルのクロピドグレルに対する優越性が示された試験にもかかわらず、クロピドグレルの使用は世界中で依然として高く、ACS患者における非常に短期間のDAPT後のクロピドグレル単剤療法はまだ十分に検討されていません(STOPDAPT-2SMART-CHOICE)。

そこで今回は、ACS患者を対象に、1~2ヵ月のDAPT後のクロピドグレル単剤投与について、12ヵ月のアスピリンとクロピドグレルによるDAPT継続投与と比較して、安全性と有効性を検討したSTOPDAPT-2 ACS試験の結果をご紹介します。本試験の主要評価項目は12ヵ月後の心血管系イベント(心血管死、心筋梗塞[MI]、いずれかの脳卒中、確定ステント血栓症)または出血(Thrombolysis in MI major or minor bleeding)の複合で、ハザード比(HR)スケールでの非劣性マージンは50%でした。

試験結果から明らかになったことは?

Comparison of Clopidogrel Monotherapy After 1 to 2 Months of DAPT With 12 Months of DAPT in Patients With Acute Coronary Syndrome
https://jamanetwork.com/journals/jamacardiology/fullarticle/2789701?guestAccessKey=6f30a640-3c6c-4cda-9499-34d3a7c35424より引用

ランダム化された4,169例のうち、33例が同意を取り下げた。対象となった4,136例のうち、平均(SD)年齢は66.8(11.9)歳、856例(21%)が女性、2,324例(56%)がST上昇型MI、826例(20%)が非ST上昇型MIであった。合計4,107例(99.3%)が2021年6月に1年間のフォローアップを完了しました。

1~2ヵ月のDAPT群12ヵ月のDAPT群絶対差
ハザード比
非劣性のP値
主要エンドポイント65/2,058例
(3.2%)
58/2,057例
(2.8%)
0.37%[95%CI -0.68% 〜 1.42%
HR 1.14[95%CI 0.80〜1.62
P=0.06
心血管系エンドポイント56例
(2.8%)
38例
(1.9%)
0.90%[95%CI -0.02% ~ 1.82%
HR 1.50[95%CI 0.99〜2.26
出血エンドポイント11例
(0.5%)
24例
(1.2%)
-0.63%[95%CI -1.20% ~ -0.06%
HR 0.46[95%CI 0.23~0.94

主要エンドポイントについて、1~2ヵ月のDAPTは12ヵ月のDAPTに対して非劣性ではありませんでした。1~2ヵ月のDAPT群では2,058例中65例(3.2%)に、12ヵ月のDAPT群では2,057例中58例(2.8%)に発生し増した(絶対差 0.37%[95%CI -0.68% 〜 1.42%];HR 1.14[95%CI 0.80〜1.62]; 非劣性に対するP=0.06 )。

主要な副次的心血管系エンドポイントは、1~2ヵ月のDAPT群では56例(2.8%)、12ヵ月のDAPT群では38例(1.9%)で発生しました(絶対差 0.90%[95%CI -0.02% ~ 1.82%];HR 1.50[95%CI 0.99〜2.26] )。主な副次的出血エンドポイントは、1~2ヵ月のDAPT群で11例(0.5%)、12ヵ月のDAPT群で24例(1.2%)に発生しました(絶対差 -0.63%[95%CI -1.20% ~ -0.06%]、HR 0.46[95%CI 0.23~0.94])。

コメント

ACS患者におけるPCI後のDAPT実施期間については、諸外国で12ヵ月が推奨されていますが、日本人においては明確なエビデンスがありません。慢性冠症候群患者を含めたPCI患者を対象とした試験において、より短期間のDAPT実施の方がリスクベネフィットにおいて優れていることが報告されています。

さて、日本人ACS患者を対象に、1~2ヵ月のDAPT後のクロピドグレル単剤投与について、12ヵ月のアスピリンとクロピドグレルによるDAPT継続投与と比較した試験結果によれば、1~2ヵ月のDAPT後のクロピドグレル単剤投与は出血イベントの減少にもかかわらず、心血管イベントの数値的増加を伴い、12ヵ月のDAPTに対する非劣性を証明することができませんでした。ただし、出血リスクについては短期間DAPTの方が発生率が低いことから、より出血リスクの高い患者においては短期間DAPTの方が良いかもしれません。また心血管系イベントの絶対差は0.90%[95%CI -0.02% ~ 1.82%]であることから、そこまで大きな差ではないと考えられます。区間推定値が広い点も気にかかります。本試験結果のみで、PCIを受けたACS患者においてDAPT実施期間12ヵ月を推奨できません。

続報に期待。

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✅まとめ✅ PCIが成功したACS患者において、1~2ヵ月のDAPT後のクロピドグレル単剤療法は、出血イベントの減少にもかかわらず、心血管イベントの数値的増加を伴い、12ヵ月のDAPTに対する非劣性を証明することができなかった。しかし、リスクベネフィットの観点から追試が求められる。

根拠となった試験の抄録

試験の重要性:急性冠症候群(ACS)患者において、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後の短期間の二重抗血小板療法(DAPT)後のクロピドグレル単剤療法は、まだ十分に検討されていない。

目的:ACS患者において、心血管イベントと出血イベントの複合エンドポイントについて、1~2か月のDAPTが12か月のDAPTと比較して非劣性であるという仮説を検証する。

試験デザイン、設定、参加者:本多施設共同オープンラベルランダム化臨床試験は、2015年12月から2020年6月にかけて、日本国内の96施設でコバルトクロム製エベロリムス溶出ステントを用いたPCIが成功したACS患者4,169名を登録した。これらのデータは、2021年6月から7月にかけて解析された。

介入:患者をアスピリンとクロピドグレルによるDAPT 1~2ヵ月後にクロピドグレル単剤療法(n=2,078)または12ヵ月のDAPT(n=2,091)のいずれかにランダムに割り付けた。

主要アウトカムと測定法:主要評価項目は12ヵ月後の心血管系イベント(心血管死、心筋梗塞[MI]、いずれかの脳卒中、確定ステント血栓症)または出血(Thrombolysis in MI major or minor bleeding)の複合で、ハザード比(HR)スケールでの非劣性マージンは50%であった。主な副次的評価項目は、一次評価項目のうち心血管系と出血のコンポーネントであった。

結果:ランダム化された4,169例のうち、33例が同意を取り下げた。対象となった4,136例のうち、平均(SD)年齢は66.8(11.9)歳、856例(21%)が女性、2,324例(56%)がST上昇型MI、826例(20%)が非ST上昇型MIであった。合計4,107例(99.3%)が2021年6月に1年間のフォローアップを完了した。
主要エンドポイントについて、1~2ヵ月のDAPTは12ヵ月のDAPTに対して非劣性ではなく、1~2ヵ月のDAPT群では2,058例中65例(3.2%)に、12ヵ月のDAPT群では2,057例中58例(2.8%)に発生した(絶対差 0.37%[95%CI -0.68% 〜 1.42%];HR 1.14[95%CI 0.80〜1.62]; 非劣性に対するP=0.06 )。主要な副次的心血管系エンドポイントは、1~2ヵ月のDAPT群では56例(2.8%)、12ヵ月のDAPT群では38例(1.9%)で発生した(絶対差 0.90%[95%CI -0.02% ~ 1.82%];HR 1.50[95%CI 0.99〜2.26] )。主な副次的出血エンドポイントは、1~2ヵ月のDAPT群で11例(0.5%)、12ヵ月のDAPT群で24例(1.2%)に発生した(絶対差 -0.63%[95%CI -1.20% ~ -0.06%]、HR 0.46[95%CI 0.23~0.94])。

結論と関連性:PCIが成功したACS患者において、1~2ヵ月のDAPT後のクロピドグレル単剤療法は、出血イベントの減少にもかかわらず、心血管イベントの数値的増加を伴い、純臨床利益に関して標準の12ヵ月DAPTに対する非劣性を証明することができなかった。有効性と安全性の結果が異なることから、さらなる臨床試験の必要性が示唆された。

試験登録:ClinicalTrials.gov Identifiers: NCT02619760およびNCT03462498

引用文献

Comparison of Clopidogrel Monotherapy After 1 to 2 Months of Dual Antiplatelet Therapy With 12 Months of Dual Antiplatelet Therapy in Patients With Acute Coronary Syndrome: The STOPDAPT-2 ACS Randomized Clinical Trial
Hirotoshi Watanabe et al. PMID: 35234821 DOI: 10.1001/jamacardio.2021.5244
JAMA Cardiol. 2022 Mar 2. doi: 10.1001/jamacardio.2021.5244. Online ahead of print.
— 読み進める jamanetwork.com/journals/jamacardiology/fullarticle/2789701

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