Triple Whammy トリプル・ワーミーによる急性腎障害発症の好発時期は2週間?(JADER; PLoS One. 2022)

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Triple Whammy トリプル・ワーミーによる急性腎障害発症リスクとその好発期間とは?

最近のいくつかの研究で、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)やアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)などのレニン-アンジオテンシン系阻害薬(RASI)と利尿薬、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を併用した場合の急性腎障害(AKI)のリスクについて報告されました。このような薬剤の組み合わせは、「Triple Whammy(TW)」と呼ばれることがあります(PMID: 10772593PMID: 15676048PMID: 11130355PMID: 23299844PMID: 26300514PMID: 25874600)。Lapiらは、この3剤併用療法は、ACEIおよびARBと利尿剤の併用療法と比較して、AKIの発生率が増加すると報告しています(率比 1.31、95%信頼区間(CI) 1.12〜1.53)。また、使用開始後30日間のリスクが最も高いことが報告されています(率比 1.82、95%CI 1.35〜2.46)(PMID: 23299844) 。

オーストラリアとニュージーランドの規制当局は、すでにTWを避けることを推奨しています。2018年には、厚生労働省が高齢者において、この3剤併用療法を使用しないよう提唱しています。このように、TWによるAKIリスクはよく知られていますが、薬剤投与開始からAKI発症までのタイミングは評価されていません。Jeanらは、フランスのファーマコビジランスデータベースを用いて、TWとAKIの関連を証明しました(PMID: 24826803)。この報告は3年間の薬物有害事象(ADE)に基づくもので、3種類の薬剤の有害事象の報告オッズ比(ROR)は、1種類または2種類の薬剤のRORより有意に高いことが示されました。しかし、AKI症例数(n=837)が限られているため、併用療法の多様性やADEが発生するまでの期間については検討されていません。これらの情報は、患者への情報提供やADEsの早期発見のために必要です。したがって、この情報を得るためには、より大規模なデータベースの解析が必要であると考えられます。

ファーマコビジランスの拠点となるADE報告書はいくつかの国や地域で整備されており、特定のADEに関する多くの薬理疫学的調査で利用されています。今回ご紹介するのは、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)のJADER(Japanese Adverse Drug Event Report)データベースを用いて、TW投与開始からAKI発症までの時間について解析した試験結果です。

試験結果から明らかになったことは?

AKIは18,415例で報告され、そのうち7,466例はTriple Whammy薬剤を使用していました。トリプル・ワーミーに該当する薬剤のすべての組み合わせは、AKI発症のオッズ比が高いことと関連していました。

ワイブル解析では、トリプル・ワーミーのほとんどの組み合わせパターンでAKI発症までの期間が早いことが明らかとなりました。

AKI発症までの期間
(中央値)
トリプル・ワーミー
(NSAIDs+RAS+利尿薬)
8日
NSAIDsにRASを追加7日
NSAIDsに利尿薬を追加9日
利尿薬にNSAIDsを追加6日
NSAIDs単独9日

Kaplan-Meier法では、AKI発症までの期間はNSAIDsを使用した症例で非常に短く、発症の中央値は、3剤の併用で8日、NSAIDsとレニン・アンジオテンシン系阻害剤(RAS)の併用で7日、NSAIDsと利尿剤の併用で9日、利尿剤とNSAIDsの併用で6日、NSAIDs単独では9日でした。

コメント

厚生労働省は2018年、高齢者において、トリプル・ワーミー(の3剤併用療法)を使用しないよう提唱しています(厚生労働省)。一方で、高齢者はAKI発症リスクとして様々な背景・要因を有していることから、トリプル・ワーミーとAKI発症との因果関係を検証するのは困難です。

さて、本試験結果によれば、Kaplan-Meier法では、AKI発症までの期間はNSAIDsを使用した症例で非常に短く、発症の中央値は3剤併用で8日でした。また、いずれか2剤の併用、そしてNSAIDs単独使用においてもAKI発症までの期間は9日以内であることが示されました。あくまでもAKI発症リスクとしてNSAIDs使用によるシグナルが示されたに過ぎません。つまり、因果関係ではなく相関関係です。他の交絡因子が潜んでいる可能性は十分にあります。今回用いられたJADERのデータに含まれている70歳以上の割合は53.4%です。年齢による層別解析が実施されていないため、どのような要因が関連しているのかについては不明です。

とは言え、NSAIDsについては、すべての併用パターンあるいは単独使用でAKI発症リスクとの関連性が示されています。不必要にNSAIDsを使用することは避けた方が良いと考えられます。どのような患者でNSAIDsを使用し、これに伴うAKI発症リスクをどのように低下させるか検討する必要があると考えられます。

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✅まとめ✅ トリプル・ワーミーに伴うAKIは、特にNSAIDsを併用した場合、治療初期2週間以内に発生しやすいかもしれない。

根拠となった試験の抄録

背景:レニン-アンジオテンシン系阻害剤、利尿剤、非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)からなる「Triple Whammy(トリプル・ワーミー)」に伴う急性腎障害(AKI)が報告されている。これまで、有害事象報告データベースを用いて「トリプル・ワーミー」とAKI発症までの時間について調査した報告はない。本研究の目的は、AKI発症までの時間と “トリプル・ワーミー” との関係を明らかにすることであった。

方法:日本の有害事象報告データベース(JADER)に登録されたAKI症例を解析した。データはKaplan-Meier法、一般化Wilcoxon検定、Weibull分布を用いて解析した。

結果:AKIは18,415例で報告され、そのうち7,466例はTriple Whammy薬剤を使用していた。トリプル・ワーミーのすべての組み合わせは、AKIを報告するための有意に高いオッズ比と関連していた。ワイブル解析では、トリプル・ワーミーのほとんどの組み合わせのパターンでAKI発症が早かった。Kaplan-Meier法では、AKI発症までの治療期間はNSAIDsを使用した症例で非常に短く、発症の中央値は、3剤の併用で8日、NSAIDsとレニン・アンジオテンシン系阻害剤の併用で7日、NSAIDsと利尿剤の併用で9日、利尿剤とNSAIDsの併用で6日、NSAIDs単独では9日であった。

結論:トリプル・ワーミーに伴うAKIは、特にNSAIDsを併用した場合、治療初期に発生しやすいと言われている。最初の2週間はAKI発生に注意し、患者をモニターする必要がある。

引用文献

Time until onset of acute kidney injury by combination therapy with “Triple Whammy” drugs obtained from Japanese Adverse Drug Event Report database
Yuki Kunitsu ey al. PMID: 35139129 PMCID: PMC8827454 DOI: 10.1371/journal.pone.0263682
PLoS One. 2022 Feb 9;17(2):e0263682. doi: 10.1371/journal.pone.0263682. eCollection 2022.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35139129/

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