2型糖尿病に対するインスリン治療と急性冠症候群後の主要有害心血管イベントのリスクとの関係性は?(RCTの事後解析; BETonMACE試験; Cardiovasc Diabetol. 2021)

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インスリン使用による心血管イベントの発生リスクはどのくらいなのか?

急性冠症候群(ACS)患者は、主要な有害心血管イベント(MACE)の発生リスクがより高いことが報告されています。2型糖尿病患者はACS患者の約30%を占め、2型糖尿病を有さない患者に比べてMACE再発のリスクが最大で2倍となることが報告されています(PMID: 16954134PMID: 31272931PMID: 31475799)。

2型糖尿病患者の約25%では、高血糖をコントロールするために慢性的なインスリン治療が必要とされています(PMID: 24915263)。ACSを有する2型糖尿病患者では、約35%が慢性的なインスリン治療を受けています(PMID: 24682069PMID: 26630143PMID: 32219359)。 MACEの既往を有さない、あるいは安定した冠動脈疾患を有する2型糖尿病患者では、エビデンスに基づく心血管治療を行っているにもかかわらず、インスリン使用はMACEの発生・再発および死亡のリスク上昇と関連していることが報告されています(PMID: 29187288PMID: 25236509PMID: 19788429PMID: 31311382)。 しかし、インスリン治療がACS後の心血管系リスクの上昇とどの程度関連しているかは不明です。 さらに、ACS後のMACEを減少させる糖尿病治療薬は証明されていません。

安定した患者において良好な心血管効果を示した薬剤であるメトホルミン、ナトリウム-グルコースループトランスポーター2(SGLT2)阻害剤について、ACS発症後の患者を対象とした研究は実施されておらず、ACS発症後に研究された他のクラスの薬剤[グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬、ジペプチド-4阻害剤]については、利益を示すことができませんでした(PMID: 26630143PMID: 23992602)。

BET(Bromodomain and Extra-Terminal)タンパク質は、遺伝子転写のエピジェネティックな制御因子です。アパベタロンは、炎症、内皮機能障害、血栓症、血管石灰化に関与する経路に潜在的に有益な効果を有する、選択的なBETタンパク質阻害剤です(PMID: 32324495PMID: 30476723PMID: 24248379)。これらの傷害的なプロセスは、ACS患者の予後にとって重要です(PMID: 24902970)。第2相臨床試験では、アパベタロンが、特に2型糖尿病患者において、MACEに対して好ましい影響を与える可能性が示唆されました(PMID: 29027131)。したがって、第3相BETonMACE試験(PMID: 32219359)は、2型糖尿病と最近のACSを有する患者において、アパベタロンとプラセボを比較するようにデザインされました。

今回ご紹介するのは、BETonMACEのデータを用いて、エビデンスに基づく心血管系治療を受けている患者コホートにおいて、インスリン使用とACS後のMACEリスクとの関連を明らかにした事後解析の結果をご紹介します。

試験結果から明らかになったことは?

中央値26.5ヵ月間追跡した2,418例中、829例(34.2%)にインスリン治療が行われました。

冠動脈血行再建術、集中的なスタチン治療、二重抗血小板療法などのエビデンスに基づいた治療が多く行われたにもかかわらず、プラセボ群における3年間のMACE発生率は、インスリン治療を受けた患者(20.4%)は受けていない患者(12.8%、P=0.0001)と比較して有意に高いことが示されました。

インスリン治療は、人口統計学的変数、臨床変数、治療変数で調整した後も、MACEのリスクと強く関連していました(HR 2.10、95%CI 1.42〜3.10、P=0.0002)。心不全による入院についても同様の結果でした(HR 2.34、95%CI 1.19〜4.60、P=0.01)。

アパベタロンは、インスリン治療を受けている患者と受けていない患者で、MACEに対して一貫して良好な効果を示しました。

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あくまでも事後解析の結果であり、群間のランダム化は破綻しています。そのため患者背景に群間差が認められています。特に2型糖尿病罹患年数は、インスリン治療群では12.6年、受けていない群では6.4年でした。また心筋梗塞、PCI、CABGを経験している患者率、空腹時血糖およびHbA1cもインスリン治療群の方が高いです。そのため、インスリン使用群では、心血管イベントが発生しやすい患者が多く含まれていることになります。つまり、インスリンを使用したために心血管イベントの発生率が高くなったのか、心血管イベントの発生率が高かった患者でインスリンを使用していたのか、このままでは不明です。そこで本試験では、年齢、性別、人種、糖尿病罹病期間、HbA1c、スタチンの高用量使用、MI/PCI/CABGの既往、心不全の既往だけでなく、メトホルミン、スルホニルウレア、SGLT2i、GLP-1 RAの使用状況についても群間で調整しています。

さて、試験結果によれば、インスリン治療は、MACEおよび心不全による入院リスクと強く関連していました。前述の試験の制限はあるものの、ある程度信頼性の高い仮説生成であると考えられます。

過去の研究報告の結果も踏まえると、インスリンの使用は過血糖の早期コントロールに使用し、その後は漸減し経口薬に切り替えた方が良いと考えられます。インスリンを長期間にわたって継続使用することは避けた方が良いと考えられます。

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✅まとめ✅ インスリン治療とMACEリスクとの強い関連は、MACEと関連する他の特徴を調整した後でも持続するようであった。

根拠となった試験の抄録

背景:安定した2型糖尿病(T2D)患者において、インスリン治療は主要な有害心血管イベント(MACE)のリスク上昇と関連している。急性冠症候群(ACS)およびT2D患者は、エビデンスに基づいた治療にもかかわらず、MACE再発のリスクが特に高い。インスリン治療を受けている最近のACS患者において、このリスクがどの程度まで拡大するかは不明である。我々は、インスリン使用とMACEリスクの関係、およびBET(bromodomain and extra-terminal)蛋白阻害剤であるアパベタロンによるリスク修飾を検討した。

方法:解析は、T2D、低HDLコレステロール、およびACSを有する患者において、アパベタロンとプラセボを比較したBETonMACE第3相試験のデータを使用した。主要評価項目であるMACE(心血管死、心筋梗塞、脳卒中)は、インスリン治療と割り付けられた試験薬によって検討された。多変量Cox回帰を用いて、インスリンの使用がMACEリスクと独立して関連しているかどうかを検討した。

結果:中央値26.5ヵ月間追跡した2,418例中、829例(34.2%)にインスリン治療が行われた。冠動脈血行再建術、集中的なスタチン治療、二重抗血小板療法などのエビデンスに基づいた治療が多く行われたにもかかわらず、プラセボ群における3年間のMACE発生率は、インスリン治療を受けた患者(20.4%)は受けていない患者(12.8%、P=0.0001)と比較して有意に高いことが示された。インスリン治療は、人口統計学的変数、臨床変数、治療変数で調整した後も、MACEのリスクと強く関連していた(HR 2.10、95%CI 1.42〜3.10、P=0.0002)。アパベタロンは、インスリン治療を受けている患者と受けていない患者で、MACEに対して一貫して良好な効果を示した。

結論:T2D、低HDLコレステロール、ACSを有するインスリン治療患者は、エビデンスに基づく最新の治療法を使用しているにもかかわらず、MACE再発の高リスクにあることがわかった。インスリン治療とMACEリスクとの強い関連は、MACEと関連する他の特徴を調整した後でも持続する。このリスクを軽減するための新たな治療法のニーズが満たされていない。

試験登録:ClinicalTrials.gov NCT02586155(2015年10月26日登録)

キーワード:急性冠症候群、BETタンパク質、糖尿病、エピジェネティクス

引用文献

Relation of insulin treatment for type 2 diabetes to the risk of major adverse cardiovascular events after acute coronary syndrome: an analysis of the BETonMACE randomized clinical trial
Gregory G Schwartz et al. PMID: 34158057 PMCID: PMC8218391 DOI: 10.1186/s12933-021-01311-9
Cardiovasc Diabetol. 2021 Jun 22;20(1):125. doi: 10.1186/s12933-021-01311-9.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34158057/

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