COVID-19患者に対する回復期血漿は有効なのか?
2019年末に最初のSARS-CoV-2感染が確認されて以来、COVID-19のパンデミックは世界中で2億人以上の感染者と450万人の死者を出しています(worldmeter)。予防戦略が最も重要ですが、感染した個人に対する効果的な治療アプローチが必要です。
SARS-CoV-2感染症は、感染者の一部が入院を必要とする重症肺炎を発症するなど、その予後に大きなばらつきがあります。 COVID-19のパンデミックの初期には、回復期のCOVID-19血漿(CCP)が有望な治療法として認識されました。 他の感染症(PMID: 33653885、PMID: 32525844、PMID: 33564204、PMID: 32634589)および以前のコロナウイルスパンデミック(PMID: 15214887、PMID: 15616839)での回復期血漿の使用は生物学的に妥当であり、初期の観察研究では有益性の可能性が示唆されていました(PMID: 32253318、PMID: 32348485、PMID: 32219428)。治療法が限られており、臨床的ニーズが高いことから、米国では、拡大アクセスプログラム(EAP)または緊急使用許可(EUA)により、COVID-19の入院患者にCCPが広く使用されるようになりました(PMID: 32525844、preprint)。これらのメカニズムにより、50万人以上の入院患者がCCPを利用できるようになり、2020年秋には米国のCOVID-19入院患者の最大40%がCCPを投与されるようになりました(PMID: 34085928)。米国FDAのEAPによる入院患者のサブコホートの観察的分析では、早期に高力価の血漿を投与された患者に有益性がある可能性が示唆されました(PMID: 33523609)。しかし、有効性に関するランダム化比較試験の結果はまちまちであるか、有効性が限定的であることが示されています(PMID: 33093056、PMID: 32581264、PMID: 33974559、PMID: 33232588、PMID: 34000257、PMID: 33947446)。
そこで今回は、COVID-19肺炎の重症入院患者80例を対象に、最大2単位のCCPと標準治療を用いた治療と、標準治療単独の有効性を比較したランダム化比較試験(PennCCP2試験)の結果をご紹介します。
本試験における有効性の主要評価項目は、臨床的重症度スコアの比較でした。主な副次的評価項目は、14日および28日の死亡率、14日および28日のWHO8点満点スコア、酸素補給または機械換気の期間、呼吸器SARS-CoV-2 RNA、抗SARS-CoV-2抗体でした。
試験結果から明らかになったことは?
中央値で症状発生から6日目と入院1日目にCOVID-19肺炎と確定した入院成人80例が登録され、60%が抗SARS-CoV-2抗体陽性でした。参加者は、中央値で3つの合併症(重症COVID-19の危険因子と免疫抑制を含む)を有していました。
回復期血漿群 | 標準治療単独群 | オッズ比 (95%CI) | |
臨床的重症度スコア | 中央値 7 (IQR 2.75〜12.5) | 中央値 10 (IQR 5.5〜30) | – |
28日死亡率 | 2例 (5.0%) | 10例 (25.6%) | 0.156 (0.015〜0.814) P=0.013 |
14日死亡率 | 1例 (2.5%) | 2例 (5.1%) | 0.479 (0.008〜9.558) P=0.615 |
CCP治療は安全であり、臨床的重症度スコア(中央値[MED]および四分位範囲[IQR]10 [5.5〜30] vs. 7 [2.75〜12.25]、P=0.037 )および28日死亡率(n=10、26% vs. n=2、5%、P=0.013)において有意に有益であることが示されました。
コメント
COVID-19患者における回復期血漿の有効性については、疾患重症度評価のバラツキ、疾患の重症度を分けて解析しきれていないこと、サンプル数不足による検出力低下、背景治療のバラツキ等により質の高い試験結果が得られていません。
さて、本試験結果によれば、血清反応陰性患者に対する入院早期の回復期血漿2単位の投与は、標準治療単独と比較して、臨床的重症度スコアおよび28日目の死亡率に有意な効果が認められました。サンプルサイズは全体で80例(評価項目の解析では79例)ですので、一般化可能性は低いかもしれません。
本試験に組み入れられたのは、重症度分類であるWHO8スコアの5に該当する患者が53.2%、6に該当する患者が41.8%でした。また81.0%でレムデシビル、83.5%でステロイドが使用されていました。したがって酸素投与を必要とする中等症(厚生労働省の定義する中等症IIに該当)から重症のCOVID-19患者に対しては、回復期血漿の使用を考慮して良いのかもしれません。
続報に期待。
WHO8 スコアの定義
スコア4:入院中だが、酸素補給を必要としない。
スコア5:入院中で、酸素投与を必要とする。
スコア6:入院中で、高流量酸素または非侵襲的換気を行っている。
✅まとめ✅ 大多数の血清反応陰性患者に対する入院早期の回復期血漿2単位の投与は、標準治療単独と比較して、臨床的重症度スコアおよび28日目の死亡率に有意な効果が認められた。
根拠となった試験の抄録
背景:COVID-19に対する抗体を用いた戦略は、疾病の予防と早期治療に有望である。COVID-19回復期血漿(CCP)は広く使用されているが、肺炎の入院患者におけるその有用性を支持するランダム化試験の結果は限られている。ここでは、重症で入院中のCOVID-19肺炎の成人患者におけるCCPの有効性を評価する。
方法:我々は、COVID-19肺炎で入院中の成人80例を対象に、最大2単位の地元産CCP+標準治療と標準治療単独を比較するランダム化対照試験(PennCCP2)を実施した。有効性の主要評価項目は、臨床的重症度スコア*の比較だった。主な副次的評価項目は、14日および28日の死亡率、14日および28日のWHO8点満点スコア、酸素補給または機械換気の期間、呼吸器SARS-CoV-2 RNA、抗SARS-CoV-2抗体だった。
*NEWS:6つの生理学的パラメータの合計スコア。パラメータは呼吸数、酸素飽和度、収縮期血圧、脈拍数、意識レベルまたは新規の混乱、体温だった。
結果:中央値で症状発生から6日目と入院1日目にCOVID-19肺炎と確定した入院成人80例が登録され、60%が抗SARS-CoV-2抗体陽性であった。参加者は、中央値で3つの合併症(重症COVID-19の危険因子と免疫抑制を含む)を有していた。CCP治療は安全であり、臨床的重症度スコア(中央値[MED]および四分位範囲[IQR]10 [5.5〜30] vs. 7 [2.75〜12.25]、P=0.037 )および28日死亡率(n=10、26% vs. n=2、5%、P=0.013)において有意に有益であった。
結論:大多数の血清反応陰性患者に対し、入院早期に地元産のCCPを2単位投与したところ、臨床的重症度スコアおよび28日目の死亡率に有意な効果が認められた。
臨床試験登録:ClinicalTrials.gov NCT04397757
資金提供:University of Pennsylvania.
キーワード:適応免疫、COVID-19、臨床試験
引用文献
A randomized controlled study of convalescent plasma for individuals hospitalized with COVID-19 pneumonia
Katharine J Bar et al. PMID: 34788233 PMCID: PMC8670841 (available on 2022-03-15) DOI: 10.1172/JCI155114
J Clin Invest. 2021 Dec 15;131(24):e155114. doi: 10.1172/JCI155114.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34788233/
関連記事
【COVID-19患者に対する回復期血漿または高免疫性免疫グロブリンの効果はどのくらいですか?(SR&MA; CDSR 2020)】
【重度または生命を脅かす疾患を合併するCOVID-19患者に対する標準治療への回復期血漿療法の追加効果はどのくらいですか?(Open-RCT; 早期終了; JAMA 2020)】
【COVID-19に対する回復期血漿輸血(CPT)の効果は現段階では評価できない?(システマティックレビュー; J Med Virol. 2020)】
コメント