COVID-19に対し、メトホルミンはリポジショニング・ドラッグとなり得るのか?
メトホルミンは、肝性糖産生を抑制して血糖値を下げる作用があることから、2型糖尿病治療薬として最も多く処方されている薬です。メトホルミンは、血糖降下作用に加えて、TNFα、アディポカイン、IL-6のレベルを低下させ、IL-10のレベルを上昇させることが、実験的研究および2型糖尿病患者で行われた研究の両方で観察されています(PMID: 28579457、PMID: 28811714、PMID: 26873871)。
循環アディポカインの減少に伴う効果は、炎症反応の程度を最小限に抑え、その結果、病気の重症化を抑制する可能性があります(PMID: 32973814)。
レトロスペクティブな観察研究からのエビデンスは、メトホルミンがCOVID-19の患者に臨床的に有益であることを示唆しています。ある観察研究では、メトホルミンを投与された患者における死亡率の低さが示されましたが、入院数は同程度でした。また、別の研究では、COVID-19で入院した肥満または2型糖尿病の女性において、メトホルミンは死亡率の低下と有意に関連していることが明らかにされました(PMID: 33521772)。COVID-19入院患者を対象とした別のレトロスペクティブ・コホート研究では、メトホルミン服用者はアシドーシスの発生率が有意に高いことが示されたものの、28日間のCOVID-19死亡率に有意差は認められませんでした(PMID: 32861268)。
これらの重要な知見が観察的証拠に限られていることを考慮すると、COVID-19患者、特にメトホルミン使用が一般的である外来患者におけるメトホルミンの有効性を検証するランダム化試験の必要性がありますが、充分に検討されていません。また、外来患者においてCOVID-19を早期に治療することは、疾患の進行を防ぐための鍵となる可能性があります(PMID: 33051827)。
そこで今回は、COVID-19進行による入院を予防するための多くの再利用療法の有効性を評価するため、ブラジル・ミナスジェライス州で実施されたプラセボ対照ランダム化適応プラットフォーム試験(TOGETHER試験)の結果をご紹介します。今回の試験では、メトホルミンとプラセボの臨床評価を比較しています。
試験結果から明らかになったことは?
TOGETHER試験は2020年6月2日に開始され、2021年1月15日から患者をメトホルミンにランダムに割り付けました。2021年4月3日、データ・安全性モニタリング委員会は、無益性のためメトホルミン群への登録を中止するよう勧告しました。
418例の参加者を募集し、215例をメトホルミン群に、203例をプラセボ群にランダムに割り付けました。参加者の半数以上(56.0%)は50歳以上、57.2%は女性、年齢の中央値は52歳でした。
(ITT解析) | メトホルミン群 | プラセボ群 | 相対リスク |
28日目における 主要アウトカム発生率 | 15.8% (34/215例) | 13.8% (28/203例) | 1.14 (95%BCrI 0.73〜1.81) |
28日目に主要アウトカムを示した患者の割合は、メトホルミン群とプラセボ群で差がなく(相対リスク[RR]1.14[95%信頼区間 0.73〜1.81] )、優越確率は0.28でした。
7日目までのウイルスクリアランス(オッズ比[OR] 0.99、95%信頼区間 0.88〜1.11)、その他の副次的アウトカムについてもメトホルミン群とプラセボ群で有意差は認められませんでした。
コメント
SARS-CoV-2感染によるCOVID-19罹患数は、SARS-CoV-2亜種の出現により増減を繰り返しています。ワクチンの開発が成功したことにより、COVID-19重症化がある程度抑えられていますが、早期に治療を開始できる薬剤の開発が求められています。
ドラッグ・リポジショニングとは、他の疾患に対して開発された薬剤を、承認された適応とは異なる疾患へ応用することです。これにより、薬剤の開発費削減・開発期間の短縮が見込めます。メトホルミンは様々な作用機序を有しており、現在においても完全には解明されていません。
さて、本試験結果によれば、COVID-19外来患者に対するメトホルミン使用は、プラセボと比較してCOVID-19悪化による救急搬送や入院リスクの低減に関して臨床的利益をもたらしませんでした。抗炎症作用を期待していたのかもしれませんが、感染症などの急速に増悪する炎症に対しては、短期的使用では効果が得られなかったと考えられます。
ちなみに本試験では、ワクチン接種者は除外されています。また試験期間中に流行していたのは、α、β、γのようです。したがって、他の集団や条件におけるメトホルミンの効果については不明です。
✅まとめ✅ COVID-19外来患者に対するメトホルミン使用は、プラセボと比較してCOVID-19悪化による救急搬送や入院リスクの低減に関して臨床的利益をもたらさなかった。
根拠となった試験の抄録
背景:観察研究では、COVID-19の治療においてメトホルミンの治療的役割が想定されている。我々は、メトホルミンが初期のCOVID-19の高リスク患者に対して有効な治療法であるかどうかについて、外来患者を対象に適応プラットフォーム臨床試験で検討した。
方法:TOGETHER試験は、ブラジルで実施されたプラセボ対照ランダム化プラットフォーム臨床試験である。対象者は、SARS-CoV-2の抗原検査が陽性である症状のある成人である。50歳以上、または疾患重症化のリスクファクターが判明している適格患者を登録した。患者は、プラセボまたはメトホルミン(750mgを1日2回、10日間投与、またはプラセボを1日2回、10日間投与)のいずれかにランダムに割り付けられた。
主要評価項目は、ランダム化後28日目におけるCOVID-19による6時間以上の緊急入院,またはCOVID-19による3次病院への転院と定義された入院であった。副次的評価項目は、7日目のウイルスクリアランス、入院までの期間、死亡率、副作用とした。ベイズの枠組みを用いて、プラセボと比較した介入の成功確率を決定した。
所見:TOGETHER試験は2020年6月2日に開始された。2021年1月15日から患者をメトホルミンにランダムに割り付けた。2021年4月3日、データ・安全性モニタリング委員会は、無益性のためメトホルミン群への登録を中止するよう勧告した。
418例の参加者を募集し、215例をメトホルミン群に、203例をプラセボ群にランダムに割り付けた。参加者の半数以上(56.0%)は50歳以上、57.2%は女性であった。年齢の中央値は52歳であった。
28日目に主要アウトカムを示した患者の割合は、メトホルミン群とプラセボ群で差がなく(相対リスク[RR]1.14[95%信頼区間 0.73〜1.81] )、優越確率は0.28であった。7日目までのウイルスクリアランス(オッズ比[OR] 0.99、95%信頼区間 0.88〜1.11)、その他の副次的アウトカムについてもメトホルミン群とプラセボ群で有意差は認められなかった。
解釈:このランダム化試験において、メトホルミンは、COVID-19外来患者に対して、COVID-19の悪化による救急搬送や入院の必要性の低減に関して、プラセボと比較していかなる臨床的利益ももたらさなかった。また、その他の副次的な臨床結果についても、メトホルミンとプラセボの間に差は認められなかった。
キーワード:ブラジル、COVID-19、入院、メトホルミン、外来患者、ランダム化臨床試験.
引用文献
Effect of early treatment with metformin on risk of emergency care and hospitalization among patients with COVID-19: The TOGETHER randomized platform clinical trial
Gilmar Reis et al. PMID: 34927127 PMCID: PMC8668402 DOI: 10.1016/j.lana.2021.100142
Lancet Reg Health Am. 2022 Feb;6:100142. doi: 10.1016/j.lana.2021.100142. Epub 2021 Dec 14.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34927127/
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