COVID-19に対する初の経口治療薬が英国で承認された
2021年11月4日に英国の医薬品医療製品規制庁(Medicines and Healthcare products Regulatory Agency, MHRA)は、世界で初めて新型コロナウイルスの飲む治療薬を承認したと発表しました。承認された抗ウイルス剤「Lagevrio」(一般名:モルヌピラビル)は、重症化のリスクが高い*軽度〜中等度のCOVID-19患者の入院および死亡のリスクを低減する上で、安全かつ有効であると評価されました。臨床試験の結果、モルヌピラビルは、軽度〜中等度のCOVID-19を有するリスクの高い非入院の成人患者において、入院または死亡のリスクを50%減少させる効果があることが明らかとなりました。
*重症化リスク因子:肥満、高齢(60歳以上)、糖尿病、心臓病など
モルヌピラビルについて
モルヌピラビルは、Ridgeback Biotherapeutics社とMerck Sharp & Dohme社(MSD)が開発した抗ウイルス薬であり、SARS-CoV-2の複製を阻害することで抗ウイルス作用を発揮します。これにより、COVID-19の重症度を軽減します。COVID-19に対する治療的効果を検証した臨床試験(MOVE-OUT)のデータによると、モルヌピラビルは感染の初期段階で服用すると最も効果的であることから、MHRAはCOVID-19検査で陽性となった後、症状が出てから5日以内にできるだけ早く使用することを推奨しています。
COVID-19の家庭内での感染拡大を防止するための有効性と安全性を評価している世界的な多施設共同ランダム化二重盲検プラセボ対照第3相試験であるMOVE-AHEAD試験においても、曝露後の予防薬として評価されているとのことです(MSD)。
モルヌピラビルの有効性・安全性を検証したMOVE-OUT試験の結果は論文化されていない(2021年11月5日現在)
MOVE-OUT試験(開発コード:MK-4482-002)(NCT04575597)は、実験室で確認された軽度〜中等度のCOVID-19を有する非入院の成人患者を対象にモルヌピラビルの治療的使用による有効性・安全性の検証を目的としたグローバル第3相、ランダム化、プラセボ対照、二重盲検、多施設共同試験です。本試験に登録された患者は、SARS-CoV-2に対するワクチン接種を受けておらず、疾患の転帰が増悪する可能性の高い危険因子*を少なくとも1つ有しており、ランダム化前の5日以内に症状が発現していました。MOVE-OUTの主要評価項目は、プラセボと比較したモルヌピラビルの有効性を、ランダム化時点から29日目までに入院および/または死亡した被験者の割合で評価することとしています。
本試験は、ブラジル、カナダ、チリ、コロンビア、フランス、ドイツ、グアテマラ、メキシコ、フィリピン、ロシア、南アフリカ、スペイン、台湾、ウクライナ、英国、米国などで実施されたようです(MSD)。ラテンアメリカ、ヨーロッパ、アフリカでの参加者は、それぞれ56%、23%、15%でした。
本試験において、Delta(デルタ)、Gamma(ガンマ)、Mu(ミュー)の3つの変異株は、中間解析時においてベースラインウイルス変異株の約80%を占めていました。
*疾患予後不良の最も一般的な危険因子:肥満、高齢(60歳以上)、糖尿病、心臓病
モルヌピラビル群、プラセボ群における29日目までに入院および/または死亡した被験者の割合については公表されていなさそうです。公表されている情報として、軽度〜中等度のCOVID-19を有するリスクの高い非入院成人患者におけるモルヌピラビル使用は、プラセボと比較して、入院または死亡のリスクを50%減少させる効果が示されています。
臨床試験の結果について、論文化が待たれるところですが、かなり期待の持てる結果です。持続的な安定した医療を提供するためにも、病床逼迫の解消の一手として経口COVID-19治療薬は今後も開発が進んでいくと考えられます。
追加情報:ファイザー社製の経口COVID-19治療薬の結果も公表された
米国ファイザー社が開発したCOVID-19治療薬(Paxlovid, パクスロヴィド)が、重症患者の入院や死亡のリスクを89%減少することが臨床試験の結果から明らかになりました。治療薬としては、かなり有望な試験結果です。このため臨床試験は早期中止となっています。この結果は、MHRAがMerck Sharp and Dohme(MSD)社の治療薬を承認した翌日である11月5日に発表されました。英国政府は、モルヌピラビルとパクスロヴィドをすでに発注しているようです(BBC News)。
臨床試験で対象となったのは、最近SARS-CoV-2に感染したハイリスク患者*1,219例でした。臨床試験の中間解析データによると、パクスロヴィドを投与された患者の0.8%が入院したのに対し、プラセボまたはダミー錠剤を投与された患者の7%が入院しました。試験参加者はCOVID-19の症状が始まってから3日以内に治療を受けました。
☆入院リスク:相対リスク減少率 0.89%、絶対リスク減少 6.2%、NNT=17(試験期間不明)
*試験参加者全員がCOVID-19の軽度〜中等度の症状を有していた。高齢者あるいは基礎疾患を有しており、COVID-19による重篤な疾患リスクが高いと考えられた。
プラセボを投与された群では患者7例が死亡したのに対し、パクスロヴィドを投与された群では死亡が確認されませんでした。一方、症状が現れてから5日以内に治療を受けた場合、パクスロヴィド群では患者の1%が入院し、死亡した患者はいませんでした。一方、プラセボ群では、入院した患者は6.7%、死亡した患者は10例でした。
ファイザー社では、COVID-19リスクが低い集団や、家庭内ですでにウイルスに感染している集団への影響についても研究しているとのことです(BBC News)。
臨床試験の結果から、パクスロヴィドは、重症化のリスクが高い患者に対して、症状が出た直後に使用することを目的としています。モルヌピラビルと同様に、SARS-CoV-2の複製を阻害することで抗ウイルス作用を発揮します。どうやら、低用量のリトナビルと併用することで、パクスロヴィドが体内に長く留まり、治療効果が上がったようです。1日2回、3錠を5日間服用するようです。こちらの臨床試験の結果についても論文化が待たれます。
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