過活動膀胱に対するビベグロンと抗ムスカリン薬単剤療法を比較すると?
過活動膀胱(OAB)は、尿路感染症や他の基礎疾患がないにもかかわらず、切迫感の尿失禁を伴う尿意切迫感を特徴とし、通常、頻回の排尿と夜間頻尿を伴う疾患です(PMID: 31804751)。OABは多因子性の一般的な健康障害であり、生活の質(QOL)への悪影響や莫大な経済的負担を伴い、成人の有病率は世界中で10%~20%とされています(PMID: 31930360、PMID: 31856122)。OABの第一選択薬は、抗ムスカリン薬(ソリフェナシン、イミダフェナシン、フェソテロジン、オキシブチニン、トルテロジンなど)です(PMID: 31416636)。それにもかかわらず、抗ムスカリン薬は、効果が不充分であったり、目のかすみ、便秘、口渇などの有害事象(AE)のために、短期間の継続使用となっています(PMID: 31720732)。
いくつかの臨床試験では、OAB患者において、12週間のビベグロンの投与が有効であり、忍容性が高いことが示されています(PMID: 27965369)。
また、Shiら(PMID: 32421908)は、システマティックレビューとプール解析を行い、プラセボと比較して、ビベグロン75mgまたは100mg/日がOAB症状を統計的に有意に改善することを示しました。しかし、抗ムスカリン薬と比較した場合のビベグロンのメリット・デメリットに着目した論文はほとんどありませんでした。OAB治療におけるビベグロンと抗ムスカリン薬の役割の違いを比較することは重要です。
そこで今回は、OAB患者の治療におけるビベグロンと抗ムスカリン薬の効率性と安全性にアクセスし、OAB患者の薬の選択プロセスを支援することを目的としたシステマティックレビュー・メタ解析の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
合計1,751例の患者が参加した3件のRCTが、システマティックレビュー・メタ解析の対象となりました。
平均差 ビベグロン vs. 抗ムスカリン薬 | |
排尿回数/日の平均値 | MD -0.19 (95%CI -0.45 〜 0.07) P = 0.16 |
切迫性エピソード/日の平均値 | MD -0.30 (95%CI -0.59 〜 -0.01) P=0.05 |
切迫性失禁/日の平均値 | MD -0.15 (95%CI -0.32 〜 0.03) P=0.11 |
平均失禁エピソード数/日 | MD -0.21 (95%CI -0.50 〜 0.07) P=0.14 |
平均排尿量 | MD 8.40 (95%CI 2.11 〜 14.69) P=0.009 |
解析の結果、排尿回数の平均値(MD -0.19, 95%CI -0.45 〜 0.07, P=0.16)、切迫性エピソードの平均値(MD -0.30, 95%CI -0.59 〜 -0.01, P=0.05)、切迫性失禁の平均値(MD -0.15, 95%CI -0.32 〜 0.03, P=0.11)、平均失禁エピソード数/日(MD -0.21, 95%CI -0.50 〜 0.07, P=0.14)は、OAB治療の観点からは、ビベグロンと抗ムスカリン薬に有意な差はないことが示されました。
また、平均排尿量(MD 8.40, 95%CI 2.11 〜 14.69, P=0.009)については、ビベグロンを投与した患者では、抗ムスカリン薬と比較して排尿量が有意に増加しました。
口渇および薬物関連の治療上緊急性のある有害事象(TEAE)については、ビベグロンは抗ムスカリン薬単剤療法よりも優れた忍容性を示しました。また、重篤な有害事象(SAE)および有害事象による中止については、両群間に有意な差は認められませんでした。
コメント
過活動膀胱(OAB)の治療薬であるβ3-アドレナリン受容体作動薬は、抗コリン作用を有していないことから使用量が増加しています。日本ではミラベグロン(ベタニス®️)およびビベグロン(ベオーバ®️)が承認されていますが、安全性プロファイルに差が示されており、より安全性が高いのはビベグロンとされています。
さて、本試験結果によれば、OABに対するビベグロン使用は、抗ムスカリン薬単剤療法と比較して、排尿回数、切迫性エピソード、切迫性失禁、平均失禁エピソード数において有意な差がありませんでした。一方、平均排尿量については、ビベグロンで有意な増加が示されました。さらに口渇および薬物関連の治療上緊急性のある有害事象の発生について、ビベグロンで少ないことが示されました。
有効性・安全性に優れていることから、抗ムスカリン薬単剤療法よりもビベグロンを使用した方が良いと考えられますが、症状や治療コストなど、患者背景により優先される薬剤に差が生じると考えられます。また今回のメタ解析に含まれたのは3件のランダム化比較試験(計1,751例)ですので、追試が待たれると考えられます。どのような患者集団において、抗ムスカリン薬を使用すべきなのかに注目したいところです。
続報に期待。
✅まとめ✅ 過活動膀胱におけるビベグロンの治療効果は抗ムスカリン薬単剤療法と同様であるが、ビベグロンは有害事象リスクを増加させなかった。
根拠となった試験の抄録
背景:ビベグロンは、過活動膀胱(OAB)の治療薬として実証されている新規のβ3-アドレナリン受容体作動薬である。我々は、過活動膀胱に対するビベグロンと抗ムスカリン薬単剤療法の効果を評価するため、メタ解析を行った。
方法:EMBASE、MEDLINE、Cochrane Controlled Trials Registerを用いて、OABに対するビベグロンと抗ムスカリン薬単剤療法のランダム化比較試験(RCT)を系統的に検索した。データの解析にはRevMan version 5.3.0.を使用した。
結果:合計1,751例の患者が参加した3件のRCTが、システマティックレビュー・メタ解析の対象となった。
有効性の評価項目:平均排尿回数/日(P=0.16)、平均切迫感エピソード数/日(P=0.05)、平均切迫性失禁エピソード数/日(P=0.11)、平均失禁エピソード数/日(P=0.14)から、ビベグロンと抗ムスカリン薬はOAB治療の観点からは有意な差がないことが示された。平均排尿量/排尿1回は、両群間で明確な差が見られた(P = 0.009)。
口渇および薬物関連の治療上緊急性のある有害事象(TEAE)については、ビベグロンは抗ムスカリン薬単剤療法よりも優れた認容性を示した。また、重篤な有害事象(SAE)および有害事象による中止については、両群間に有意な差は認められなかった。
結論:ビベグロンの治療効果は抗ムスカリン薬単剤療法と同様であるが、ビベグロンはAEリスクを増加させない。
引用文献
Systematic review and meta-analysis of the efficacy and safety of vibegron vs antimuscarinic monotherapy for overactive bladder
Shunye Su et al. PMID: 33592817 PMCID: PMC7870164 DOI: 10.1097/MD.0000000000023171
Medicine (Baltimore). 2021 Feb 5;100(5):e23171. doi: 10.1097/MD.0000000000023171.
— 続きを読む pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33592817/
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