日本の糖尿病患者でのSGLT2阻害薬使用による尿路感染症リスクはどのくらいですか?(日本の人口データコホート研究; Diabetes Obes Metab. 2021)

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日本の糖尿病患者におけるSGLT2阻害薬の使用は尿路感染症リスクとなるのか?

ナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬は、血糖降下作用に加えて、心臓や腎臓などの臓器保護作用を有していることが報告されています。一方、副作用として正常血糖ケトアシドーシスや尿路感染症(UTI)が報告されており、早期発見と早急な対応が求められます。とは言え、日本人において、これらの副作用の報告数は少なく、臨床試験における副作用発現の把握が求められます。

そこで今回は、日本の全国行政請求データベースを用い、糖尿病におけるビグアナイド系薬剤の使用に対するSGLT2阻害剤の使用に関連するUTI発生リスクについて検証した、人口ベースのコホート研究の結果をご紹介します。本試験は、対象試験のエミュレーションフレームワークを用いて評価しており、これは観察研究のデータから、その理想のランダム化比較試験(RCT)を模倣(エミュレート)していくことで、観察研究の質を高めていこうというアプローチです。

試験結果から明らかになったことは?

SGLT2阻害剤の新規使用者11,364例、DPP-4阻害剤の新規使用者9,035例、ビグアナイド剤の新規使用者10,359例を対象としました。

SGLT2阻害剤投与群
(vs. ビグアナイド薬投与群)
DPP-4阻害剤投与群
(vs. ビグアナイド薬投与群)
粗HR 1.14(95%信頼区間[CI] 1.05〜1.24)粗HR 1.13(95%CI 1.04〜1.23)
ITT集団HR 0.94(95%CI 0.86〜1.03)HR 0.85(95%CI 0.77〜0.94)
PP集団HR 0.90(95%CI 0.78〜1.03)HR 0.83(95%CI 0.71〜0.95)
薬剤使用と尿路感染症リスク

SGLT2阻害剤投与群とビグアナイド薬投与群を比較すると、SGLT2阻害剤投与群の粗HRは1.14(95%信頼区間[CI] 1.05〜1.24)、ITT集団のHRは0.94(95%CI 0.86〜1.03)、PP集団のHRは0.90(95%CI 0.78〜1.03)でした。

DPP-4阻害剤投与群は、粗HRが1.13(95%CI 1.04〜1.23)、ITT集団のHRが0.85(95%CI 0.77〜0.94)、PP集団のHRが0.83(95%CI 0.71〜0.95)でした。

コメント

観察研究から得られた結果は、因果関係まで述べられません。ハーバード公衆衛生大学院(疫学)のHernan教授らは、観察データを用いてある曝露の効果を検証したいとき「どのようなRCTを実施することができれば理想的にその効果を検証することが可能か」をイメージするように推奨しています。今回の試験は、エミュレーションフレームワークを使用しており、これは試験デザインである観察研究をRCTへ近づけるためのアプローチです。

さて、本試験結果によれば、SGLT2阻害剤とDPP-4阻害剤、いずれの使用においても尿路感染症のリスクは増加しませんでした。日本人では、そもそも尿路感染症の発症リスクが低い可能性、尿路感染症について注意喚起されている可能性が考えられます。とは言え、引き続きSGLT2阻害薬使用者における尿路感染症についてのモニタリングは必要と考えられます。

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✅まとめ✅ SGLT2阻害剤やDPP-4阻害剤の使用は、ビグアナイド系薬剤の使用と比較してUTIのリスクを増加させなかった。

根拠となった試験の抄録

目的:人口ベースのコホート研究において、糖尿病におけるビグアナイド系薬剤の使用に対するナトリウム-グルコース・コトランスポーター-2(SGLT2)阻害剤の使用に関連する尿路感染症(UTI)発生リスクを、対象試験のエミュレーションフレームワークを用いて評価する。

方法:日本の全国行政請求データベースを用いて、2014年4月から2015年3月の間にSGLT2阻害薬、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP-4)阻害薬、ビグアナイド薬のいずれかを調剤された40歳以上の患者のコホートを構築した。計算を容易にするために、SGLT2阻害薬ユーザーの100%、DPP-4阻害薬ユーザーの3%、ビグアナイド薬ユーザーの20%をランダムに抽出し、新たに抗糖尿病薬を開始した集団を分析した。UTIのintention-to-treat(ITT)ハザード比(HR)は、その後の治療変更を無視したIPT(inverse probability of treatment)加重Coxの比例ハザードモデルを用いて推定した。治療の重み付けは、患者の性別、年齢、投薬、病歴、入院歴を用いて計算した。また、非ランダムな治療変更を調整したIPTおよび逆打ち切り確率加重Coxモデルを用いて、per-protocol(PP)HRを推定した。

結果:SGLT2阻害剤の投与開始者11,364例、DPP-4阻害剤の投与開始者9,035例、ビグアナイド剤の投与開始者10,359例を対象とした。SGLT2阻害剤投与群とビグアナイド薬投与群を比較すると、SGLT2阻害剤投与群の粗HRは1.14(95%信頼区間[CI] 1.05〜1.24)、ITT集団のHRは0.94(95%CI 0.86〜1.03)、PP集団のHRは0.90(95%CI 0.78〜1.03)であった。 DPP-4阻害剤開始者は、粗HRが1.13(95%CI 1.04〜1.23)、ITT集団のHRが0.85(95%CI 0.77〜0.94)、PP集団のHRが0.83(95%CI 0.71〜0.95)であった。

結論:SGLT2阻害剤やDPP-4阻害剤の使用は、ビグアナイド系薬剤の使用と比較してUTIのリスクを増加させなかった。また、治療法の変更を考慮しても、推定効果に大きな影響はなかった。

キーワード:抗糖尿病薬、因果推論、コホート研究、観察研究、薬剤疫学、リアルワールドデータ、泌尿器科

引用文献

Sodium-glucose cotransporter-2 inhibitors and the risk of urinary tract infection among diabetic patients in Japan: Target trial emulation using a nationwide administrative claims database
Yoshinori Takeuchi et al. PMID: 33606891 DOI: 10.1111/dom.14353
Diabetes Obes Metab. 2021 Jun;23(6):1379-1388. doi: 10.1111/dom.14353. Epub 2021 Mar 8.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33606891/

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