開発中の週1回インスリン製剤の臨床試験が発表された
米国糖尿病学会および欧州糖尿病学会の標準治療ガイドラインでは、2型糖尿病患者が個別の血糖値目標に到達しない場合、治療を拡大することが推奨されています。 これらの推奨事項にもかかわらず、2型糖尿病の管理には臨床的な惰性が非常に多く、インスリン治療の開始が最も遅れていることが報告されています(1種類以上の経口糖尿病薬による治療開始からインスリン治療開始までの期間の中央値は1.2~4.9年)。
これまでのデータによると、2型糖尿病患者は一般的に、現在の1日1回の治療法よりも少ない注射回数と高い柔軟性を望んでいることが示されています(PMID: 21199266)。 インスリン イコデック(提案されている国際的な非独占的名称)は、週1回投与の基礎インスリンアナログ製剤であり、糖尿病患者の治療のために開発されています。最大濃度到達時間が16時間、半減期が約1週間であることから、週1回の注射に適した薬物動態および薬力学的プロファイルを有しています(237-OR)。
しかし、実際の血糖値やHbA1cコントロールについて、既存薬との比較は充分に行われていません。そこで今回は、1日1回投与のインスリン グラルギンU100と比較検討した第2相臨床試験の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
患者247例が、イコデックまたはグラルギンの投与にランダム割り付けされ(1:1)、ランダム化後のベースライン特性は両群で類似していました。
ベースラインからのHbA1c値の推定平均変化量は、26週目にはイコデック群で -1.33%、グラルギン群で -1.15%となり、推定平均値はそれぞれ6.69%、6.87%であり、ベースラインからの変化量の推定群間差は -0.18%ポイント(95%CI -0.38~0.02、P=0.08)でした。
観察された重症度レベル2(血糖値 54mg/dL未満)またはレベル3(重度の認知機能障害)の低血糖症の発生率は低かったようです(イコデック群:0.53件/患者・年、グラルギン群:0.46件/患者・年、推定率比:1.09、95%CI 0.45~2.65)。
イコデック | グラルギン | |
ベースラインのHbA1c (平均値) | 8.09% | 7.96% |
ベースラインから26週目の HbA1c値の推定変化量 (平均値) | -1.33% | -1.15% |
重症度レベル2または レベル3の低血糖症の発生率 | 0.53件/患者・年 | 0.46件/患者・年 |
インスリン関連の主要な有害事象にグループ間の差はなく、過敏症や注射部位反応の発生率も低かった。ほとんどの有害事象は軽度であり、治験薬に関連すると判断された重篤な事象はなかった。
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インスリン グラルギン(ランタス®️)の重大な副作用に、注射部位の浮腫、疼痛、そう痒感、硬結(発生頻度 0.1〜5%未満)が報告されています。注射回数が増加することで相対的に増加することは想像にかたくありません。
さて、試験結果によれば、インスリン週1回投与製剤であるイコデック投与は、1日1回投与であるグラルギンと比較して、HbA1c値の推定平均変化量に大きな差はありませんでした。また低血糖や他の主要な有害事象に群間差はなく、過敏症や注射部位反応の発生率も全体的に低いことが明らかになりました。とはいえ試験期間は26週間ですので、より長期の試験では発生率は増える可能性が高いと考えられます。
より長期の試験結果が待たれるところですが、非常に有用な結果です。週1回で治療が行えることは糖尿病患者にとっての朗報です。続報に期待。
✅まとめ✅ 2型糖尿病患者において、インスリン イコデックの週1回投与は、インスリン グラルギンU100の1日1回投与と同等の血糖降下作用と安全性プロファイルを有していた。
根拠となった論文の抄録
背景:2型糖尿病患者においては、基礎インスリンの注射回数を減らすことで、治療の受け入れやアドヒアランスが促進されるのではないかと考えられている。インスリン イコデック(icodec)は、週1回の投与を目的とした基礎インスリンアナログ製剤であり、糖尿病治療薬として開発中である。
方法:長期のインスリン治療歴がなく、メトホルミン(±ジペプチルペプチダーゼ4阻害剤)を服用していて、2型糖尿病のコントロールが不十分(HbA1c 7.0~9.5%)な患者を対象に、週1回投与のインスリン イコデックの有効性と安全性を、1日1回投与のインスリン グラルギンU100と比較して検討するため、26週間のランダム化二重盲検二重ダミー第2相試験を実施した。
主要評価項目は、ベースラインから26週目までのHbA1c値の変化であった。また、低血糖やインスリン関連の有害事象などの安全性についても評価した。
結果:患者247例が、イコデックまたはグラルギンの投与にランダム割り付けされた(1:1)。ベースラインの特性は両群で類似しており、ベースラインのHbA1cの平均値は、イコデック群で8.09%、グラルギン群で7.96%であった。ベースラインからのHbA1c値の推定平均変化量は、26週目にはイコデック群で -1.33%、グラルギン群で -1.15%となり、推定平均値はそれぞれ6.69%、6.87%であった。
ベースラインからの変化量の推定群間差は -0.18%ポイント(95%CI -0.38~0.02、P=0.08)であった。観察された重症度レベル2(血糖値 54mg/dL未満)またはレベル3(重度の認知機能障害)の低血糖症の発生率は低かった(イコデック群:0.53件/患者・年、グラルギン群:0.46件/患者・年、推定率比:1.09、95%CI 0.45~2.65)。
インスリン関連の主要な有害事象にグループ間の差はなく、過敏症や注射部位反応の発生率も低かった。ほとんどの有害事象は軽度であり、治験薬に関連すると判断された重篤な事象はなかった。
結論:2型糖尿病患者において、インスリン イコデックの週1回投与は、インスリン グラルギンU100の1日1回投与と同等の血糖降下作用と安全性プロファイルを有していた(資金提供:Novo Nordisk社、NN1436-4383、ClinicalTrials.gov番号:NCT03751657)。
引用文献
Once-Weekly Insulin for Type 2 Diabetes without Previous Insulin Treatment
Julio Rosenstock et al. NN1436-4383 Investigators PMID: 32960514 DOI: 10.1056/NEJMoa2022474
N Engl J Med. 2020 Nov 26;383(22):2107-2116. doi: 10.1056/NEJMoa2022474. Epub 2020 Sep 22.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32960514/
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