アミロイドβに対するモノクローナル抗体はアルツハイマー病の進行を抑止できますか?(第3相RCTのSR&MA; Ageing Res Rev. 2021)

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認知症に対する薬剤の開発中止が相次ぐ

認知症とは、脳の病気や障害など様々な原因により、認知機能が低下し、日常生活全般に支障が出てくる状態です。主な初期症状としては、もの忘れ、理解力・判断速度の低下、集中力・作業能力の低下、
精神的混乱や落ち込みなどです。

超高齢化社会に伴い、認知症患者の増加していることから、既存薬よりも高い効果を有する新薬開発が望まれています。2013年に英国で開かれた主要8ヵ国(G8)認知症サミットにおいて、各国閣僚が「2025年までに根本的な治療法を見いだす」と共同宣言を出しました。

既存薬としては、認知症症状を和らげたり、抑えたりする対症療法がメインです。一方、アミロイドベータ(Aβ)の蓄積を防いだり除去したりして進行を抑える認知症の根本治療薬は、これまで承認されていませんでした。2010年代に入り、製薬企業のファイザーやロシュ、イーライリリーなどが相次いで治験の中止を発表しました。これは、期待した効果がみられなかったり、介入群で認知機能が低下していたり、また脳に浮腫が起きるなどの副作用も報告されたためです。認知症の新薬開発が進まない理由について、脳内でAβが蓄積し始めてから認知症の症状が出るまでに長期間かかることがあげられます。つまり、神経細胞が破壊されてから蓄積したAβを取り除く薬剤を使用しても、時既に遅しというわけです。そこで近年では、認知症の病態ステージのうち早期に薬剤を投与する必要があるとされています。

そこで今回は、Aβに対するモノクローナル抗体の効果を検証した第3相ランダム化比較試験のメタ解析の結果をご紹介します。

試験結果から明らかになったことは?

本研究では、17件の研究(患者12,585例)が含まれました。

モノクローナル抗体使用は、認知機能評価項目であるADAS-Cog(SMD = -0.06、95%CI -0.10 〜 -0.02、I2=0%)および MMSE(SMD = 0.05、95%CI 0.01〜0.09、I2=0%)を小さな効果量で改善しましたが、認知・機能評価項目であるCDR-SOB(SMD = -0.03、95%CI -0.07 〜0.01、I2=18%)は改善しませんでした。

認知機能評価項目標準化された平均差
(SMD)
I2 統計量
ADAS-Cog-0.06
(95%CI -0.10 〜 -0.02
0%
MMSE0.05
(95%CI 0.01〜0.09
0%
CDR-SOB-0.03
(95%CI -0.07 〜0.01)
18%

また、アミロイドPETの標準取込み値比,SUVR(SMD = -1.02、95%CI -1.70 〜 -0.34、I2=95%)および脳脊髄液,CSFのp181-tau(SMD = -0.87、95%CI -1.32 〜 -0.43、I2=89%)を大きな効果サイズで減少させました。また、アミロイド関連画像異常(ARIA)リスクを大きな効果量で増加させました(RR=4.30、95%CI 2.39〜7.77、I2=86%)。アミロイドPETのSUVRを減少させる抗体の効果は、ADAS-Cogを改善する効果と相関していました(r=+0.68、 p=0.02)。

バイオマーカー標準化された平均差
(SMD)
I2 統計量
アミロイドPETの標準取込み値比-1.02
(95%CI -1.70 〜 -0.341
95%
脳脊髄液のp181-tau-0.87
(95%CI -1.32 〜 -0.43
89%
リスク比(RR)
アミロイド関連画像異常リスク4.30
(95%CI 2.39〜7.77
86%

個々の薬剤によるサブグループ解析では、Aducanumab(アデュカヌマブ)はADAS-Cog、CDR-SOB、ADCS-ADLを小さな効果量で改善し、アミロイドPET SUVRとCSFのp181-tauを大きな効果量で減少させました。Solanezumab(ソラネズマブ)は、ADAS-CogとMMSEを小さな効果量で改善し、CSFのAβ1-40レベルを中程度の効果量で増加(改善)させました。Bapineuzumab(バピニューズマブ)、Gantenerumab(ガンテネルマブ)、Crenezumab(クレネズマブ)は、いずれの臨床転帰も改善せず、バピニューズマブとガントネルマブは、CSFのp181-tauをそれぞれ小さな効果量と大きな効果量で減少させました。ソラネズマブを除くすべての薬剤はARIAリスクを増加させました。

コメント

2021年6月7日、米食品医薬品局(FDA)はアルツハイマー病治療薬としてアデュカヌマブ(米国製品名:Aduhelm)を迅速承認しました。ただし、FDAは承認に際し、臨床的ベネフィットを明確にするために新たなランダム化比較試験の実施を求めています。臨床的ベネフィットが確認されなかった場合、FDAは承認を取り下げる手続きを開始することができるとしています。

アデュカヌマブの処方時の警告としては、MRIで確認されるアミロイド関連画像異常(ARIA)が明記されました。ARIAは無症候性で一時的なものが多いことが報告されていますが、頭痛や錯乱、めまい、視覚障害、吐き気などの症状を伴うケースもあります。また、血管浮腫や蕁麻疹などの過敏症反応のリスクについても警告に明記され、注意喚起されています。最も一般的な副作用は、ARIA、頭痛、転倒、下痢、および錯乱/せん妄/精神状態の変化/見当識障害とされています。

さて、本試験結果によれば、モノクローナル抗体は、認知機能評価項目であるADAS-Cog(SMD = -0.06)および MMSE(SMD = 0.05)を小さな効果量で改善しましたが、認知・機能評価項目であるCDR-SOB(SMD = -0.03)は改善しませんでした。いずれも改善度はかなり小さく、実臨床で有益であると結論づけるのは困難であると考えます。一方、ARIAのリスク増加は、試験間の異質性はあるものの、リスク比が4.30(95%CI 2.39〜7.77)と有意に増加しています。

根本的な治療が望まれている中で、薬剤のリスク・ベネフィット、そして費用対効果の検証が不充分であると考えられます。続報を待ちたい。

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✅まとめ✅ Aβに対するモノクローナル抗体は、全薬剤をプールした場合、効果量の小さい臨床的改善、効果量の大きいバイオマーカーの改善、および特徴的な有害事象であるARIAのリスク増大を誘発することがわかった。

根拠となった試験の抄録

目的:アルツハイマー型認知症(Alzheimer’s disease, AD)において、アミロイドベータ(amyloid-β, Aβ)に対するモノクローナル抗体が認知機能、アミロイドPETなどのバイオマーカーおよびアミロイド関連画像異常(amyloid-related imaging abnormalities, ARIA)などの有害事象のリスクに及ぼす影響を検討する。

方法:Pubmed、Web of Science、ClinicalTrials.gov、灰色文献*から第3相RCTを検索し、ランダム効果メタアナリシスを行った。
*灰色文献:https://pharmacyebmrozero.com/2020/01/03/gray-literature-%e7%81%b0%e8%89%b2%e6%96%87%e7%8c%ae%e3%81%a8%e3%81%af%e4%bd%95%e3%81%a7%e3%81%99%e3%81%8b%ef%bc%9f%ef%bc%88greynets-business-report-2019%ef%bc%89/

結果:17件の研究(患者12,585例)が含まれた。抗体は、認知機能評価項目であるADAS-Cog(SMD = -0.06 [95%CI -0.10 〜 -0.02I2=0%)および MMSE(SMD = 0.05、95%CI 0.01〜0.09I2=0%)を小さな効果量で改善したが、認知・機能評価項目であるCDR-SOB(SMD = -0.03、95%CI -0.07 〜0.01I2=18%)は改善しなかった。
さらに、抗体はアミロイドPETのSUVR(SMD = -1.02、95%CI -1.70 〜 -0.34I2=95%)およびCSFのp181-tau(SMD = -0.87、95%CI -1.32 〜 -0.43、I2=89%)を大きな効果サイズで減少させた。また、ARIAのリスクを大きな効果量で増加させた(RR=4.30、95%CI 2.39〜7.77I2=86%)。アミロイドPETのSUVRを減少させる抗体の効果は、ADAS-Cogを改善する効果と相関していた(r=+0.68、 p=0.02)。
個々の薬剤によるサブグループ解析では、Aducanumab(アデュカヌマブ)はADAS-Cog、CDR-SOB、ADCS-ADLを小さな効果量で改善し、アミロイドPET SUVRとCSFのp181-tauを大きな効果量で減少させた。Solanezumab(ソラネズマブ)は、ADAS-CogとMMSEを小さな効果量で改善し、CSFのAβ1-40レベルを中程度の効果量で増加(改善)させた。Bapineuzumab(バピニューズマブ)、Gantenerumab(ガンテネルマブ)、Crenezumab(クレネズマブ)は、いずれの臨床転帰も改善しなかった。バピニューズマブとガントネルマブは、CSFのp181-tauをそれぞれ小さな効果量と大きな効果量で減少させた。ソラネズマブを除くすべての薬剤はARIAリスクを増加させた。

  • ADAS-cog:PMID: 6496779
  • MMSE:https://pharmacyebmrozero.com/2021/01/19/%e8%aa%8d%e7%9f%a5%e6%a9%9f%e8%83%bd%e6%a4%9c%e6%9f%bb%e3%81%a7%e3%81%82%e3%82%8bmmse%e3%81%ae%e7%89%b9%e5%be%b4%e3%81%a8%e3%81%af%ef%bc%9f/
  • CDR-SOB:PMID: 7104545

結論:ADの第3相臨床試験を対象とした本メタアナリシスでは、Aβに対するモノクローナル抗体は、全薬剤をプールした場合、効果量の小さい臨床的改善、効果量の大きいバイオマーカーの改善、および特徴的な有害事象であるARIAのリスク増大を誘発することがわかった。
個々の薬剤では、Aducanumab(アデュカヌマブ)が最も良好な効果を示し、次いでSolanezumab(ソラネズマブ)が良好な効果を示した。
これらの結果は、抗Aβモノクローナル抗体をAD治療薬として継続的に開発することを中程度に支持するものである。

キーワード:アルツハイマー病、アミロイドベータ、メタアナリシス、モノクローナル抗体

引用文献

Effects of monoclonal antibodies against amyloid-β on clinical and biomarker outcomes and adverse event risks: A systematic review and meta-analysis of phase III RCTs in Alzheimer’s disease
Konstantinos I Avgerinos et al. PMID: 33831607 PMCID: PMC8161699 (available on 2022-07-01) DOI: 10.1016/j.arr.2021.101339
Ageing Res Rev. 2021 Jul;68:101339. doi: 10.1016/j.arr.2021.101339. Epub 2021 Apr 5.
— 続きを読む pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33831607/

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