COVID-19によるICU入院患者の血栓イベント、体外式膜酸素療法、死亡率に対する中間用量と標準用量の予防的抗凝固療法の効果はどのくらいですか?(INSPIRATION trial; JAMA2021)

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COVID-19では血栓塞栓症リスクの増加が報告されている

COVID-19患者において、血栓塞栓症のリスク増加が報告されています。これはサイトカインストームと呼ばれる免疫の異常反応により引き起こされていると考えられています。

サイトカインの働きで血管の透過性が上がり、血液が漏れないように止血作用を有する血小板も血管内に入ってきます。さらに他の細胞も血管内に集まってきているため、血小板で細胞と細胞が結びつけられて血塊ができてしまいます。それが血栓となり、他の場所に飛んで血管を詰まらせることがあります。

したがって、抗凝固薬の投与によりCOVID-19の血栓イベントや重症化リスク、死亡リスクの抑制が期待できます。そこで今回は、COVID-19によるICU入院患者の血栓イベント、体外式膜酸素療法、死亡率に対する中間用量(体重換算用量)と標準用量(40mg/日)の予防的抗凝固療法の効果を検証した研究結果をご紹介します。

サイトカインストーム発生の機序としては、次のように考えられています;
ウイルスや細菌感染のみならず外傷により引き起こされる肺の損傷はACE2-AngII-AT1Rシグナルを活性化するとともに、自然免疫系を活性化し、その結果としてTNFα/IL-1β-NF-kBとIL-6-STAT3が相乗的に働きIL-6 アンプ活性化を介して制御されないサイトカイン産生を誘導してサイトカインストームに至ると考えられています。

研究結果から明らかになったことは?

イランの学術施設10施設で実施された本試験結果によれば、患者 600例のうち、562例(93.7%)が主要解析対象となりました。主要評価項目である複合アウトカム(静脈または動脈血栓症、体外式膜灌流による治療、または30日以内の死亡率)の発生は、エノキサパリン中間用量(体重換算用量:1mg/kg/日)投与群では126例(45.7%)、エノキサパリン標準用量(40mg/日)投与群では126例(44.1%)に発生しました。
☆リスク差 1.5%(95%CI -6.6%~9.8%)、オッズ比 1.06(95%CI 0.76~1.48)、P=0.70

大出血については、中間用量投与群で7例(2.5%)、標準用量の予防投与群で4例(1.4%)に発生しました。
☆リスク差 1.1%(片側97.5%CI -∞~3.4%)、オッズ比 1.83(片側97.5%CI 0.00~5.93)、非劣性 P>0.99

重度の血小板減少症は、中用量投与群に割り付けられた患者にのみ発生しました(6例 vs. 0例、リスク差 2.2%、95%CI 0.4%〜3.8%、P=0.01)。

本試験では、プラセボ群が設定されていないため、そもそもCOVID-19患者に対する抗凝固療法がどの程度、有効であるのか不明です。COVID-19に対する抗凝固療法の効果について検証された試験では、いずれも後ろ向き研究ばかりです。前向きの試験実施が求められます。

本試験では、抗凝固療法とスタチン療法、プラセボを設定した2×2ファクトリアルデザイン試験が実施されているようですので、今後の試験報告に期待したいところです。

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✅まとめ✅ ICU入院COVID-19患者において、エノキサパリンを用いた体重換算用量の予防的抗凝固療法は、標準用量(40mg/日)と比較して、静脈・動脈血栓症、体外式膜酸素供給による治療、30日以内の死亡率の複合アウトカムに有意な差をもたらさなかった。

根拠となった論文の抄録

試験の重要性:COVID-19重症患者では、血栓症がよく報告されている。抗血栓薬による予防強度の目安となるデータは限られている。

目的:集中治療室(ICU)のCOVID-19患者を対象に、中用量と標準用量の抗凝固薬の予防投与の効果を評価する。

試験デザイン、設定、参加者:COVID-19でICUに収容された成人患者を対象に、中用量と標準用量の予防的抗凝固療法(第1仮説)およびスタチン療法とプラセボ(第2仮説、本稿では報告せず)を比較する、2×2ファクトリアルデザインの多施設共同ランダム化試験をイランの学術施設10施設で実施した。患者は2020年7月29日から2020年11月19日の間に募集された。30日間の主要アウトカムの最終追跡日は2020年12月19日であった。

介入:中間用量(エノキサパリン,1 mg/kg/日)(n=276) vs 標準的な予防的抗凝固療法(エノキサパリン,40 mg/日)(n=286)で,体重とクレアチニンクリアランスに応じて変更した。割り付けられた治療法は、30日後のフォローアップが完了するまで継続することが計画された。

主要評価項目と測定:有効性の主要評価項目は、適格基準を満たし、割り付けられた治療を少なくとも 1 回受けたランダム化患者を対象に、静脈または動脈血栓症、体外式膜灌流による治療、または30日以内の死亡率の複合とした。
事前に規定された安全性は、Bleeding Academic Research Consortiumによる大出血(タイプ3または5の定義)、非劣性を示すパワーポイント(オッズ比に基づく非劣性マージン1.8)、および重度の血小板減少症(血小板数20×103/µL未満)だった。すべての結果は盲検で判定された。

結果:ランダム化された患者 600例のうち、562例(93.7%)が主要解析対象となった(年齢中央値[四分位範囲]、62歳[50~71歳]、237例[42.2%]の女性)。
主要評価項目は、中間用量投与群では126例(45.7%)、標準用量投与群では126例(44.1%)に発生した(絶対リスク差 1.5%[95%CI -6.6%~9.8%]、オッズ比 1.06[95%CI 0.76~1.48]、P=0.70)。
大出血は、中間用量投与群で7例(2.5%)、標準用量の予防投与群で4例(1.4%)に発生し(リスク差 1.1%[片側97.5%CI -∞~3.4%];オッズ比 1.83[片側97.5%CI 0.00~5.93])、非劣性基準を満たさなかった(非劣性 P>0.99)。重度の血小板減少症は、中用量群に割り付けられた患者にのみ発生した(6例 vs. 0例、リスク差 2.2%[95%CI 0.4%〜3.8%]、P=0.01)。

結論と関連性:COVID-19でICU入院患者において、中用量の予防的抗凝固療法は標準用量の予防的抗凝固療法と比較して、調整された静脈・動脈血栓症、体外式膜酸素供給による治療、30日以内の死亡率の複合の主要アウトカムに有意な差をもたらさなかった。
これらの結果は、COVID-19でICUに入院した非選択的な患者に対して、中用量の予防的抗凝固療法を日常的に経験的に使用することを支持するものではない。

引用文献

Effect of Intermediate-Dose vs Standard-Dose Prophylactic Anticoagulation on Thrombotic Events, Extracorporeal Membrane Oxygenation Treatment, or Mortality Among Patients With COVID-19 Admitted to the Intensive Care Unit: The INSPIRATION Randomized Clinical Trial
INSPIRATION Investigators PMID: 33734299 DOI: 10.1001/jama.2021.4152
JAMA. 2021 Mar 18. doi: 10.1001/jama.2021.4152. Online ahead of print.

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