Effect of Genotype-Guided Oral P2Y12 Inhibitor Selection vs Conventional Clopidogrel Therapy on Ischemic Outcomes After Percutaneous Coronary Intervention: The TAILOR-PCI Randomized Clinical Trial
Naveen L Pereira et al.
JAMA. 2020 Aug 25;324(8):761-771. doi: 10.1001/jama.2020.12443.
PMID: 32840598
PMCID: PMC7448831 (available on 2021-02-25)
Trial registration: ClinicalTrials.gov Identifier: NCT01742117.
試験の重要性
経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後、クロピドグレルによる治療を受けたCYP2C19*2あるいは*3の機能欠損(LOF)バリアントを有する患者では、虚血性イベントのリスクが増加する。
P2Y12阻害薬経口投与の遺伝子型選択が虚血転帰を改善するかどうかは不明である。
目的
PCI後のCYP2C19 LOFキャリアにおける虚血アウトカムに対する遺伝子型誘導経口P2Y12阻害薬戦略の効果を明らかにする。
試験デザイン、設定、参加者
急性冠症候群(ACS)または安定型冠動脈疾患(CAD)に対するPCIを受けた患者5,302例を対象としたオープンラベル ランダム化臨床試験。
2013年5月から2018年10月までに米国、カナダ、韓国、メキシコの40施設で患者が登録された。追跡調査の最終日は2019年10月。
介入
遺伝子型誘導群にランダム割り付けされた患者(n = 2,652)は、ポイントオブケアの遺伝子型検査を受けた。
CYP2C19 LOFキャリアにはチカグレロル、非キャリアにはクロピドグレルが処方された。
従来型群にランダム化された患者(n = 2,650)にはクロピドグレルが処方され、12ヵ月後にジェノタイピングを受けた。
主要アウトカムおよび測定法
主要エンドポイントは、12ヵ月後の心血管死、心筋梗塞、脳卒中、ステント血栓症、重度の再発性虚血を複合したものであった。
副次的エンドポイントは12ヵ月目の大または軽度の出血であった。
一次解析はCYP2C19 LOFバリアントを有する患者を対象とし、二次解析はランダム化されたすべての患者を対象とした。
本試験の検出力は85%であり、最小ハザード比は0.50であった。
結果
・ランダム化された5,302例(年齢中央値 62歳、女性 25%)のうち、82%がACS、18%が安定したCADであり、94%が試験を終了した。
・CYP2C19 LOFバリアントを有する1,849例のうち、遺伝子型誘導療法に割り付けられた903例中764例(85%)にチカグレロルが投与され、通常療法に割り付けられた946例中932例(99%)にクロピドグレルが投与された。
・主要エンドポイントは、12ヵ月時点でCYP2C19 LOFキャリア903例中35例(4.0%)が遺伝子型誘導療法群で、946例中54例(5.9%)が通常療法群で発現した。
★ハザード比[HR] 0.66、95%CI 0.43〜1.02;P=0.06
・事前に指定された11の副次的エンドポイントのいずれも、CYP2C19 LOFキャリアの大出血または軽度出血を含む、12ヵ月目における遺伝子型誘導群(1.9%)と従来療法群(1.6%)の有意差を示差なかった。
★HR 1.22、95%CI 0.60〜2.51;P = 0.58
・ランダム化された全患者のうち、主要エンドポイントは遺伝子型誘導群2,641例中113例(4.4%)、従来療法群2,635例中135例(5.3%)に発現した。
★HR 0.84、95%CI 0.65〜1.07;P=0.16
結論と関連性
PCIを受けているACSおよび安定したCADを有するCYP2C19 LOFキャリアのうち、経口P2Y12阻害薬を遺伝子型ガイド下で選択した場合、従来のクロピドグレルによるポイントオブケアなしの治療と比較して、事前に指定された解析計画および12ヵ月時点で検出するためにパワーを与えられた治療効果に基づく複合エンドポイントである心血管死、心筋梗塞、脳卒中、ステント血栓症、重度の再発性虚血において、統計学的に有意な差は認められなかった。
コメント
オーダメイド医療の一環として、遺伝子型検査が行われています。クロピドグレルは血小板膜上のアデノシン二リン酸(ADP)受容体のうちP2Y12受容体を阻害することで血小板凝集抑制作用を発現することが報告されています。クロピドグレルはプロドラッグであり、活性代謝物がP2Y12受容体に不可逆に結合することで作用を発現します。
クロピドグレルは上部消化管で吸収され、85%は肝臓でエラスターゼにより不活性代謝物へと代謝され、残りの15%が肝臓の薬物代謝酵素であるcytochrome P450(CYP450)により、2段階の代謝経路を経て活性代謝物へと代謝されます。
この薬物代謝に関与しているCYP450として1A2、2B6、3A、2C9、2C19が報告されていますが、特にCYP2C19による代謝が主であることが報告されています。また、CYP2C19で代謝されるプロトンポンプ阻害薬との相互作用の報告があるが、臨床上での薬効には大きな影響がないといわれています。
以前からCYP2C9の遺伝子多型により、クロピドグレルの効果が減少する可能性が報告されていました。ただし、これまでの研究では、スクリーニングあるいはベースライン時の遺伝子アレルを考慮していませんでした。
さて、今回の研究結果によれば、経口P2Y12阻害薬を遺伝子型誘導下で選択した場合と、選択しなかった場合では、治療の有効性に差はありませんでした(主要アウトカムのハザード比[HR] =0.66、95%CI 0.43〜1.02;P=0.06)。ただし、減少傾向ではあるため、今後の臨床試験により結果が覆る可能性はあります。ちなみにNNTは53。
安全性の副次的アウトカムについても差がありませんでした(HR =1.22、95%CI 0.60〜2.51;P = 0.58)。
本試験結果は、代謝経路からも納得のできる結果であると考えられます。クロピドグレルがCYP2C19で代謝されるのは全体の約15%であり、かつ欧米人におけるPoor Metabolizer(PM)型は3~5%です。欧米人におけるクロピドグレルの有効性・安全性においては、遺伝的多型の影響を受けにくいと考えます。
一方、日本人における18~23%がPM型である可能性を考慮すると、経口P2Y12阻害薬を遺伝子型誘導下で選択した方が良いのかもしれません。しかし、クロピドグレルがCYP2C19で代謝されるのは全体の約15%であることがどの程度、影響を及ぼすのかは不明です。
日本を含むアジア諸国における今後の検討結果が待たれます。
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