血液培養サンプルはなぜ2本だと不十分なのか?
論文1:Detection of Bloodstream Infections in Adults: How Many Blood Cultures Are Needed?
Andrew Lee et al.
J Clin Microbiol, 45 (11), 3546-8 Nov 2007
PMID: 17881544
PMCID: PMC2168497
DOI: 10.1128/JCM.01555-07
背景
成人の菌血症および真菌血症の検出には、20mlの血液培養を2~3回行えば十分であることがいくつかの報告で示されているが、最近の研究(F. R. Cockerillら、Clin. Infect. Dis. 38:1724-1730、2004年)では、血液培養2回では感染の80%しか検出できず、血液培養3回ではエピソードの96%しか検出できないことが明らかとなった。
目的
本研究では、Cockerillらによる研究がより広く適用できるかどうかを判断するために、大学病院2施設のデータを再検討した。
ロバート・ウッド・ジョンソン大学病院とデューク大学医療センターで2004年1月1日から2005年12月31日までに成人の入院患者から得られたすべての血液培養を評価した。
24時間以内に患者1人当たり3回以上の血液培養が行われた例はすべて対象とした。除外基準を満たした患者の医療記録をレトロスペクティブにレビューし、血液培養陽性の臨床的意義(真の感染かコンタミか)を判断した。データを分析して、24 時間の間に連続して得られた血液培養の累積感度を決定した。
結果
・24時間以内に3回以上の血液培養を行った非感染エピソード629例のうち、460例(73.1%)が最初の血液培養で検出され、564例(89.7%)が最初の2回の血液培養で検出され、618例(98.2%)が最初の3回の血液培養で検出され、628例(99.8%)が最初の4回の血液培養で検出された。
・24時間以内に得られた血球培養数が4回以上であった351例のうち、1回目の血球培養で257例(73.2%)、2回目の血球培養で308例(93.9%)、3回目の血球培養で340例(96.9%)、4回目の血球培養で350例(99.7%)が検出されていた。
・非抗菌性エピソードのうち、黄色ブドウ球菌は初回の血液培養での検出率が高かった(初回の血液培養での検出率は約90%)。
・3回以上の血液培養が得られた多微生物エピソードは58件であった。1回目の血液培養で検出されたのは47例(81.0%)、2回目の血液培養で検出されたのは54例(93.1%)、3回目の血液培養で検出されたのは58例(100%)であった。
結論
以上の結果から、24時間以内に血液培養を2回行うことで、成人の血流感染症の約90%が検出されることが明らかとなった。99%以上の検出率を達成するためには、血液培養4回が必要になるかもしれない。
事実上すべての血流感染は血液培養2~3回で検出できるという以前からの公理は、もはや有効ではないかもしれないが、得られた「最初の」血液培養の定義にも依存しているかもしれない。
論文2:A Comparative Study to Determine the Recovery Rate of Microorganisms of Bloodstream Infections: Two Versus Three Blood Culture Specimens
Teerarat Shanthachol et al.
J Med Assoc Thai, 95 (8), 1053-8 Aug 2012
PMID: 23061310
研究の目的
微生物を検出するために、従来のシステムよりも感度の高い自動化された連続監視型血液培養システムが開発されている。これらの自動化システムを用いて24時間以内に得られた血液培2~3検体の方が微生物の回収率が高いかどうかは不明であるが、本研究では、血液培養検体の微生物回収率を比較することを目的とした。
本研究では、2検体と3検体の血液培養を用いて、血流感染症(BSI)の微生物の回収率を比較することを目的とした。
材料と方法
2010年10月1日〜2011年3月31日までの間に、タイ・バンコクのキング・チュラロンコン記念病院の内科病棟、集中治療室、救急室で血液培養を必要とする患者を対象に、プロスペクティブな研究者盲検試験を実施した。
各患者から24時間以内に血液培養3検体を採取した。各検体を好気性の血液培養ブロス(TREK Diagnostics, Cleveland, OH, US)に接種(塗擦)し、37℃で7日間培養した。
結果
・患者568人のうち、24時間以内に血液培養3回が得られた非抗菌性エピソードは116例(20.4%)であった。
・真性病原体エピソードは70例(12.3%)、汚染(コンタミ)エピソードは46例(8.1%)であった。
・真性病原体の回収率は、1回目、2回目。3回目の血液培養検体でそれぞれ75.7%(53株)、87.1%(61株)、100%(70株)であった(1回目、2回目、3回目の血液培養検体での回収率の間にp<0.05)。
・グラム陽性菌は25株(35.7%)、グラム陰性菌は38株(58.6%)、真菌は4株(5.7%)であった。
・グラム陽性菌25株のうち、黄色ブドウ球菌が最も多く(10株、14.3%)、次いで肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)(5株、7.1%)、エンテロコッカス・ファエカリス(Enterococcus faecalis)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase-negative Staphylococcus)(各3株、10%)の順であった。
・グラム陰性菌38種の中では、大腸菌が最も多く(13株、18.6%)、次いで緑膿菌(8株、11.4%)、肺炎球菌(6株、8.6%)が分離されていた。
・血液培養2検体を用いた微生物の回収率の感度は85.7%、特異度は92.3%であった。血液培養3検体を用いた微生物の回収率の感度は100%、特異度は90.8%であった。
結論
以上の結果から、血液培養検体を用いた微生物の回収率は、感度100%、特異度90.8%であった。著者らの知る限りでは、本研究はVersaTREK血液培養システムを用いて2検体と3検体の血液培養を行った場合のBSI微生物の回収率を比較した初めての前向き研究である。回収率99%以上を達成するためには血液培養3検体が必要である。
コメント
感染症疑いの症例において、サンプル採取の本数が重要になることがある。理由はコンタミの可能性を限りなく排除するためである。
これは血液サンプルに限った話ではなく、サンプル採取が必要である検査全般に言えることである。ただし、今後テクノロジーが進化し続けていくことで、サンプル採取に関わるコンタミネーション(汚染)等のテクニカルな問題は解決できると考えられる。
さて、今回紹介した研究論文2報によれば、少なくとも血液採取は3回行った方が良さそう。場合によっては4回採取した方が良いのかもしれないが、患者および医療従事者の負担を考えると、4回実施する益は少ないように考える。また血液サンプル4回採取について検討した研究は後向き研究、血液サンプル2回と3回を比較検討した研究は前向き研究。
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