JAMA. 2007 Mar 28;297(12):1319-31. Epub 2007 Mar 25.
Konstam MA et al.
PMID: 17384437
【試験の背景】
バソプレシンは心不全における体液貯留を仲介する。バソプレシンV2受容体遮断薬であるトルバプタン(サムスカ®️)は心不全の管理に有望である。
【目的】
心不全で入院した患者で開始されたトルバプタンの効果を調査すること。
【試験デザイン、設定、および参加者】
心不全転帰試験におけるバソプレシン拮抗作用の有効性トルバプタンによるランダム化二重盲検プラセボ対照試験(EVEREST)。
長期治療を目的とした本試験は、2003年10月7日から2006年2月3日までの間に、北アメリカ、南アメリカ、およびヨーロッパの359施設において心不全で入院した2つの短期臨床状態研究内のランダムに選ばれた患者4,133人を含んだ。
【介入】
入院後48時間以内に、患者は標準的な治療法に加えて、1日1回30mgの経口トルバプタン(n = 2,072)またはプラセボ(n = 2,061)を最低60日間ランダムに割り付けられた。
【主なアウトカムと測定】
二重の主要評価項目は、全死亡(優位性および非劣性)と心血管死または心不全の入院(優位性のみ)でした。
副次的評価項目には、呼吸困難、体重、および浮腫の変化が含まれていた。
【結果】
・追跡期間9.9ヵ月(中央値)の間に、トルバプタン群の537人(25.9%)およびプラセボ群の543人(26.3%)が死亡した。
ハザード比 =0.98, 95%信頼区間[CI] 0.87〜1.11; P = 0.68
・死亡率の差の信頼上限は、指定された非劣性マージンの1.25以内だった(P <0.001)。
・心血管死または心不全による入院の複合は、トルバプタン群の871人(42.0%)およびプラセボ群の829人(40.2%)で発生した。
ハザード比 =1.04, 95%CI 0.95〜1.14; P = 0.55
・心血管死亡、心血管死または入院、心不全悪化の副次的評価項目にも差はなかった。
・トルバプタンは、1日目の患者が評価した呼吸困難、1日目の体重、および7日目の浮腫の二次評価項目を有意に改善した。
・低ナトリウム血症の患者では、血清ナトリウム濃度が有意に上昇した。
・カンザスシティ心筋症質問票の全体的な要約スコアは、外来1週目では改善されなかったが、体重と血清ナトリウムへの影響は退院後も長く続いた。
・トルバプタンは喉の渇きと口渇の増加を引き起こしたが、主な有害事象の頻度は2つのグループで同様であった。
【結論】
心不全で入院した患者の急性治療を開始したトルバプタンは、長期死亡率または心不全に関連した罹患率に影響を及ぼさなかった。
【PICOTS】
P:左室駆出率の減少(40%)、心肥大の兆候、NYHAクラスIII / IVの症状、48時間以内の慢性HF増悪のための入院を認めた18歳以上の患者(実際に組み入れられた参加者は約65歳)
I :標準治療+トルバプタン 30 mg/d
C:標準治療+プラセボ
O:全死亡(優位性および非劣性)と心血管死または心不全の入院(優位性のみ)
副次的評価項目には、呼吸困難、体重、および浮腫の変化が含まれた
T:ランダム化比較試験、二重盲検、多施設、介入、予後
S:北アメリカ、南アメリカ、およびヨーロッパの20ヵ国、359施設
【批判的吟味】
・ランダム割付されているか? → ⭕️
・ベースラインは同等か? → ⭕️ NYHA Ⅲ(約60%)〜Ⅳ(約40%)
・ITT解析か? → ⭕️
・脱落はどのくらいか? → 試験全体で21.9%(両群で差はなさそう:トルバプタン 22.4% vs. プラセボ 21.4%)
・マスキングされているか? → ⭕️ 患者、治療者、アウトカム評価者。またinteractive voice response systemを用いているためconcealmentされていると判断した
・症例数は充分か? → ⭕️? 1,065例の死亡が発生するようにデザインされ(α =0.05, β =90%)、1,081例が死亡。しかし、組み入れ必要な例数は記載なし。
・結果は?
(Table 2:本文より引用)
追跡期間=中央値9.9ヶ月
一次アウトカム
☆総死亡:ARR = 0.4%, NNT = 250
☆心血管死および心不全増悪による入院:ARR = -1.8%, NNH = 56
二次アウトカム
☆心血管死および心血管による入院:ARR = -2.1%, NNH = 48
☆心血管死:ARR = -0.5%, NNH = 200
☆心不全増悪(死亡、入院、臨時受診):ARR = -0.7%, NNH = 143
【コメント】
サムスカ®️使用は、総死亡や心血管死および心不全による増悪においてプラセボと非劣性。正直微妙な結果。あくまで仮説生成ですが、副次アウトカムでプラセボよりリスク増加が示されている点が気になりますね。
続報を待ちたい。
定義 | LVEF | 説明 |
LVEFの低下した心不全 (heart failure with reduced ejection fraction; HFrEF) | 40%未満 | 収縮不全が主体. これまでの研究では標準的心不全治療下でのLVEF低下例がHFrEFとして組み入れられている. |
LVEFが軽度低下した 心不全 (heart failure with midrange ejection fraction; HFmrEF) | 40%以上 50%未満 | 境界型心不全. 臨床的特徴や予後は研究が不十分であり,治療選択は個々の病態に応じて判断する. |
LVEFの保たれた心不全 (heart failure with preserved ejection fraction; HFpEF) | 50%以上 | 拡張不全が主体. 診断は心不全と同様の症状をきたす他疾患の除外が必要である.有効な治療が十分には確立されていない. |
LVEFが改善した心不全 (heart failure with preserved ejection fraction, improved; HFpEF improved またはheart failure with recovered EF; HFrecEF) | 40%以上 | LVEFが40%未満だった患者が治療経過で改善した患者群.HFrEFとは予後が異なる可能性が示 唆されているが,さらなる研究が必要である. |
出典:急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)より抜粋
]]>
コメント