消化管内ナトリウム/水素交換体アイソフォーム3(NHE3)阻害剤であるテナパノールの開発が進んでいる
慢性腎臓病の治療のために透析を受けている患者さんは、高リン酸血症である可能性が高いと言われています(PMID: 32386937)。高リン酸血症は、血管、心臓弁、心筋などの軟部組織の石灰化に重要な役割を果たしており、これらの患者の心血管死亡率の独立した危険因子であることが示されています(PMID: 19478096、PMID: 17928470、PMID: 31138150、PMID: 30970562、PMID: 20466670)。高リン酸血症の管理には、血液透析回数の増加、食事によるリン酸塩制限、リン酸塩吸着剤(以下、吸着剤)療法などがありますが、その効果は中程度であり、実施するのは困難です(DOPPS、PMID: 31440695、PMID: 30013329、PMID: 30132304)。
消化管内ナトリウム/水素交換体アイソフォーム3(NHE3)の阻害剤であるテナパノール塩酸塩(Tenapanor; 以下、テナパノール)は、細胞間リン酸輸送を抑制し、高リン酸血症の管理を容易にすることが示されています(PMID: 30158152)。維持透析を受けている患者(CKDステージ5D)において、テナパノールは単剤で血清リン濃度を有意に低下させました(PMID: 28159782、PMID: 30846557)。したがって、テナパノールは、リン酸結合を持たないユニークな作用機序により、リン酸吸着剤との二重治療の一環として、血清リン濃度を低下させられる可能性があります。
そこで今回は、維持透析患者の高リン血症に対するテナパノール30mg(1日2回)の安全性および有効性を、安定用量のリン酸吸着剤との併用において、プラセボと比較検討したAMPLIFY試験の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
ランダム化された患者236例のうち、235例(99.6%)が完全な解析対象となり、その中にはテナパノール+リン吸着剤群の119例とプラセボ+リン吸着剤群の116例が含まれていました。合計228例(96.6%)の患者が4週間の治療期間を完了しました。
テナパノール+リン吸着剤群 (FAS*解析:116例) | プラセボ+リン吸着剤群 (119例) | |
ベースラインから4週目までの 血清リン濃度の平均変化量 | -0.84mg/dL (P<0.001) | -0.19mg/dL |
試験薬の投与中止 | 3.4% (5/117例) | 1.2% (2/119例) |
全解析対象者(平均年齢 54.5歳、女性 40.9%)のうち、テナパノール+リン吸着剤群は、プラセボ+リン吸着剤群に比べて、ベースラインから4週目までの血清リン濃度の平均変化量が大きいことが明らかとなりました(-0.84 vs. -0.19 mg/dL、P<0.001)。
最も多く報告された有害事象は下痢でした。テナパノール+リン吸着剤群で119例中4例(3.4%)、プラセボ+リン吸着剤群で116例中2例(1.7%)が、試験薬の投与を中止しました。
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消化管内ナトリウム/水素交換体アイソフォーム3(NHE3)の阻害剤であるテナパノールの開発が進んでいます。これまでのリン酸吸着剤とは異なる作用機序を有しており、消化管のNHE3を阻害することで、H+を細胞内にとどまらせ、リン酸の吸収を抑制します。
さて、試験結果によれば、テナパノール+リン吸着剤の併用療法は、プラセボ+リン吸着剤と比較して、ベースラインから4週目までの血清リン濃度を有意に低下させました(-0.84 vs. -0.19 mg/dL、P<0.001)。Add-onにも関わらず、リン濃度の低下は大きいと考えられます。ただし。血管の石灰化には長期間を要することから、より長期的な薬剤の有効性の検証が待たれます。少なくとも52週間程度のより長期間における検証が求められると考えられます。
副作用の下痢については、標準治療へのテナパノール追加群で40.2%(47/117例)、プラセボ追加群で6.7%(8/119例)でした。投与時の注意喚起および投与後の継続的なモニタリングが必要であると考えられます。一方、重篤な有害事象は2.6%と4.2%、重篤な副作用は両群とも0%と、大きな差は認められませんでした。いずれにせよ、長期的な安全性検証が求められます。
✅まとめ✅ 維持透析患者において、テナパノールとリン酸塩結合剤の併用療法は、リン酸塩結合剤単独療法と比較して、高リン酸血症のコントロールを改善した。
根拠となった試験の抄録
背景:高リン酸血症は、維持透析を受けている患者の心血管疾患の罹患率および死亡率と関連している。維持透析患者の高リン酸血症に対して、作用機序の異なる2つの治療法(細胞間リン酸吸収阻害剤であるテナパノールとリン酸結合剤)を併用することが、安全かつ有効であるかどうかは不明である。
方法:この二重盲検第Ⅲ相試験では、リン酸塩吸着剤(セベラマー、非セベラマー、セベラマー+非セベラマー、複数の非セベラマー吸着剤)による治療を受けているにもかかわらず、高リン血症(本試験では血清リン5.5~10mg/dLと定義)を有する維持透析患者236例が登録された。これらの被験者を、テナパノール30mgを1日2回経口投与する群とプラセボを4週間投与する群にランダムに割り付けた。
有効性の主要評価項目は、ベースラインから4週目までの血清リン濃度の変化であった。
結果:ランダム化された患者236例のうち、235例(99.6%)が完全な解析対象となり、その中にはテナパノール+リン吸着剤群の116例とプラセボ+リン吸着剤群の119例が含まれていた。合計228例(96.6%)の患者が4週間の治療期間を完了した。
全解析対象者(平均年齢 54.5歳、女性 40.9%)のうち、テナパノール+リン吸着剤群は、プラセボ+リン吸着剤群に比べて、ベースラインから4週目までの血清リン濃度の平均変化量が大きかった(-0.84 vs. -0.19 mg/dL、P<0.001)。
最も多く報告された有害事象は下痢であった。テナパノール+リン吸着剤群で119例中4例(3.4%)、プラセボ+リン吸着剤群で116例中2例(1.7%)が、試験薬の投与を中止した。
結論:維持透析患者において、テナパノールとリン酸塩結合剤の併用療法は、リン酸塩結合剤単独療法と比較して、高リン酸血症のコントロールを改善した。
臨床試験の登録名・登録番号:AMPLIFY・NCT03824587
キーワード:FGF23、NHE3 透析、高リン血症、リン酸塩結合剤、リン酸塩取り込み、リン、テナパノール
引用文献
A Randomized Trial of Tenapanor and Phosphate Binders as a Dual-Mechanism Treatment for Hyperphosphatemia in Patients on Maintenance Dialysis (AMPLIFY) – PubMed
Pablo E Pergola et al. PMID: 33766811 PMCID: PMC8259655 (available on 2022-06-01) DOI: 10.1681/ASN.2020101398
J Am Soc Nephrol. 2021 Jun 1;32(6):1465-1473. doi: 10.1681/ASN.2020101398. Epub 2021 Mar 25.
— 続きを読む pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33766811/
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