The current status of treatment-related severe hypoglycemia in Japanese patients with diabetes mellitus: A report from the committee on a survey of severe hypoglycemia in the Japan Diabetes Society
Mitsuyoshi Namba et al.
J Diabetes Investig. 2018 Mar 2;9(3):642-656. doi: 10.1111/jdi.12790. Online ahead of print.
PMID: 29498232
PMCID: PMC5934273
DOI: 10.1111/jdi.12790
Keywords: Insulin; Severe hypoglycemia; Sulfonylureas.
背景
糖尿病の薬物療法は飛躍的に進歩したものの、高齢化が進む中で薬物療法を受けている糖尿病患者の低血糖のリスクが懸念されるようになってきた。これを受けて、日本糖尿病学会(Japan Diabetes Society, JDS)では、臨床現場における重症低血糖症の現状に関する調査を開始した。
方法
2015年7月、JDS科学調査・研究倫理委員会の承認を受けて、JDSが糖尿病教育のために認定した医療機関631施設を代表するエグゼクティブ・エデュケーターに、調査案への参加を呼びかけた。このうち、本調査への参加を希望する者には、各医療機関の倫理的承認を得るために必要な申請書が送付され、承認後、関連する臨床データをリンクされていない匿名のウェブベースの登録簿に入力した。
今回の調査は、JDS科学調査・研究委員会の全額出資によるものである。
参加したすべての施設から施設別情報(医療施設データベース)を収集し、参加したすべての患者からインフォームドコンセントを得た後、症例登録(臨床症例データベース)を開始した。
重症低血糖症を「治療のために他人の介助を必要とする低血糖症状の存在、好ましくは発症/診断時または呈示時の静脈血糖値が明らかに60mg/dL未満(毛細血管全血糖値50mg/dL未満)」と定義し、今回の調査は2014年4月1日から2015年3月31日までの間に実施され、その間に合計193施設から施設別情報が収集され、113施設から合計798例の症例報告が収集された。
結果
・193施設のうち、149施設が救急科を併設していると報告しており、これらの施設まで救急搬送を必要とした患者数の中央値は年間4,962例で、そのうち重度の低血糖症患者は0.34%(17例)であった。回答施設では年間2,237例の重症低血糖症患者を受け入れており、1施設あたりの受け入れ患者数は6.5例であった。
・重症低血糖症で入院した患者は1,171例で、1施設あたりの入院患者数は4.0例であり、年間重症低血糖症で受診した患者の52.3%を占めていた。
・調査で収集した798例の症例報告を検討したところ、1型糖尿病240例、2型糖尿病480例、その他の糖尿病78例であった。
・ 2型糖尿病患者は、1型糖尿病患者(54.0 [41.0〜67.0])よりも有意に高齢であることが示された(中央値[四分位の範囲] 77.0 [68.0〜83.0])(P < 0.001);およびBMIは、2型糖尿病患者(22.0 [19.5〜24.8] kg/m2 )は、1型糖尿病患者(21.3 [18.9〜24.0] kg/m2 )よりも有意に高いことが示された(P=0.003)。
・また推定糸球体濾過率(eGFR)中央値は、2型糖尿病患者(50.6[31.8-71.1] mL/min/1.73m2)が1型糖尿病患者(73.3 [53.5-91.1]mL/min/1.73m2)に比べて有意に低いことが明らかになった(P<0.001)。また、重症低血糖症発症時のHbA1c値の中央値は、全例で7.0(6.3~8.1)%、1型糖尿病患者で7.5(6.9~8.6)%、2型糖尿病患者で6.8(6.1~7.6)%であり、2型糖尿病患者では低血糖症発症時のHbA1c値が有意に低かった(P<0.001)。
・重症低血糖の前駆症状は、全例の35.5%、1型糖尿病患者の35.6%、2型糖尿病患者の28.9%に認められ、症候性低血糖の発現率は1型糖尿病患者(41.0%)が2型糖尿病患者(56.9%)に比べ有意に低かった。
・2型糖尿病患者の使用した抗糖尿病薬は、インスリン製剤(292例;うちスルホニルウレア併用29例)(60.8%)、SU(インスリン非併用159例)(33.1%)、インスリン製剤・SUなし(29例)(6.0%)であった。
・調査対象となった798例のうち、296例(37.2%)は、以前に重症低血糖症で救急搬送を必要としたことがあることが示された。
結論
今回の調査により、わが国における治療関連の重症低血糖症の現状が初めて明らかになり、重症低血糖症のリスクが高い患者や重症低血糖症の既往歴のある患者に対しては、低血糖症教育のみならず、糖尿病治療の最適化を通じた低血糖症予防対策の実施が急務であることが明らかになった。
コメント
糖尿病治療における低血糖は、薬物療法が進歩した現在においても懸念されます。特に高齢化社会である日本では、低血糖のリスクが懸念されます。一方、海外では低血糖、特に重症低血糖が転倒や心血管イベント、死亡のリスク増加となる可能性が報告されています。
ちなみに厚生労働省の調査結果によれば、本調査期間における推定の糖尿病患者数は316万6千人でした(2014〜2015年)。
さて、日本糖尿病学会が調査した結果によれば、重症低血糖症発症時のHbA1c値の中央値は、全例で7.0(6.3~8.1)%、1型糖尿病患者で7.5(6.9~8.6)%、2型糖尿病患者で6.8(6.1~7.6)%でした。また、重症低血糖の前駆症状は、全例の35.5%、1型糖尿病患者の35.6%、2型糖尿病患者の28.9%に認められ、症候性低血糖の発現率は1型糖尿病患者(41.0%)が2型糖尿病患者(56.9%)に比べ有意に低かったとのこと。
有効回答が得られた193施設において、年間2,237例の重症低血糖症患者を受け入れており、救急搬送を必要とした重度の低血糖症患者は17例でした。重症低血糖症で入院した患者は1,171例(年間重症低血糖症で受診した患者の52.3%)で、1施設あたりの入院患者数は4.0例でした。
抄録に記載はありませんが、本文に主治医が重症低血糖症の発症に影響を与えたと判断した要因が記載されていました;
- 不適切な食事や食事のタイミング(40%)
- 薬剤の過剰摂取や誤飲(27%)
- シック・デイ(11%)
- 過度のアルコール摂取(8%)
- 過度の運動(4%)
- その他(10%) などが挙げられた。
内訳を見てみると、患者への教育が必要であると改めて考えさせられました。
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