― システマティックレビューから考える「正しい順番」のエビデンス
研究の背景
歯科保健指導の現場やセルフケア指導でよく聞かれる質問の一つが、
「デンタルフロスは歯磨きの前と後、どちらが良いのか?」 という疑問です。
結論から言うと、現時点のエビデンスでは「どちらが先でもプラーク除去効果に有意差はない」とされています。
本記事では、その根拠となったシステマティックレビューの内容を、研究デザイン・結果・限界を含めて解説します。
試験結果から明らかになったことは?
◆対象論文の概要
- 論文タイトル:
Does flossing before or after brushing influence plaque index reduction? A systematic review - PubMed ID:34402188
- 研究デザイン:システマティックレビュー
- 登録:PROSPERO(CRD42019126239)
- 対象テーマ:
「フロスを歯磨きの前に行うか、後に行うかでプラーク除去効果に差があるか」
◆研究方法の要点
🔹 研究デザイン
- PRISMAガイドライン準拠のシステマティックレビュー
- 検索データベース:
- PubMed / MEDLINE
- Scopus
- Web of Science
- Cochrane Library
🔹 検索期間
- ~2020年4月まで
🔹 PICO設定
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| P | 健康成人 |
| I | 歯磨き前にフロス |
| C | 歯磨き後にフロス |
| O | プラーク指数の変化 |
🔹 対象論文
- 初期検索:9,679件
- 最終採択:2研究
- 対象者数:計60名
- 平均年齢:23.1歳
◆主要結果(エビデンスの中核)
● プラーク指数への影響
| 比較 | 結果 |
|---|---|
| フロス → 歯磨き | 有意差なし |
| 歯磨き → フロス | 有意差なし |
- 統計結果
- p=0.91
- 相対リスク(RR) 0.01
- 95%信頼区間(−0.16 ~ 0.18)
👉 フロスの順番によるプラーク除去効果の差は認められなかった
研究結果の解釈
このシステマティックレビューから言えることは以下の通りです。
- フロスを「先」にしても「後」にしても
👉 プラーク指数の改善に統計学的差はない - 少なくとも短期的なプラーク除去効果に関しては
👉 順番より「実施すること自体」が重要
つまり、
✔ フロスを使う習慣があること
✔ 継続して行うこと
のほうが、順番よりも重要である可能性が高いと考えられます。
本研究の限界(Limitation)
本研究には、臨床応用にあたって注意すべき点があります。
① 対象論文数が非常に少ない
- 採択された研究は わずか2件
- メタ解析としては統計的検出力が低い
② 被験者数が少ない
- 合計60名のみ
- 若年成人(平均23歳)に限定
👉 高齢者、歯周病患者、補綴物装着者などには外挿できない
③ 評価指標が「プラーク指数」のみ
- 出血指数(BOP)
- 歯周ポケット
- 歯肉炎の改善度
などの臨床的に重要な指標は評価されていない
④ 短期間評価のみ
- 長期的な歯周病予防効果は不明
- 習慣化・継続性への影響は評価されていない
臨床的な示唆
✔ 現時点では
➡ 「フロスは歯磨きの前後どちらでもよい」
✔ 重要なのは
- 継続できる方法で行うこと
- 毎日使用すること
- 正しい使用方法を守ること
✔ 患者指導では
「順番より、続けられる方法を選びましょう」
という説明が、エビデンスに基づいた現実的な指導といえる。
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◆まとめ
| 項目 | 結論 |
|---|---|
| フロスの順番 | 効果に差なし |
| プラーク除去 | 有意差なし |
| エビデンスの質 | 限定的(研究数少) |
| 実臨床での解釈 | 継続が最重要 |
| 今後の課題 | 大規模・長期研究が必要 |
非常に興味深い研究結果ではありますが、上記でも触れたように研究数が少ない点はおさえておきたいところです。また、あくまでも歯垢指数に差がなかった、という結果であり、う蝕や歯肉炎、入れ歯導入等、より臨床上重要となるアウトカムについては不明です。
研究機関が長期間にわたるため、なかなか検証が難しい領域ではありますが、引き続き追っていきたいテーマです。再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ システマティックレビューの結果、歯垢指数の減少において、歯ブラシ⇒フロスとフロス⇒ブラシの間に統計的な差がないことを示唆した(p=0.91、RR 0.01、95%CI -0.16 ~ 0.18)
根拠となった試験の抄録
目的: この系統的レビューの目的は、フロスの使用が歯垢指数の低下に影響を及ぼすかどうかを評価することです。
方法: このシステマティックレビューは、システマティックレビューおよびメタアナリシスの推奨報告項目のガイドラインに従って実施され、試験登録番号 CRD42019126239で国際前向きシステマティックレビュー登録簿に登録された。PICOの質問は、「歯磨きの前後のデンタルフロスは歯垢の減少に効果があるか?」であった。2020年4月まで、PubMed/MEDLINE、Scopus Web of Science、Cochrane Libraryのデータベースで電子検索を実施した。最初のデータベース検索で9679件の参考文献が見つかり、選択された研究のタイトルと抄録を詳細に分析した後、包含/除外基準を適用し、6件の完全な論文をダウンロードしてさらなる分析のために選択した。2件の完全な論文を選択した後、平均年齢23.1歳の患者60人を対象に、歯磨きの前後のデンタルフロスの使用を比較した。
結果: 結果は、歯垢指数の減少において、歯ブラシ⇒フロスとフロス⇒ブラシの間に統計的な差がないことを示唆した(p = 0.91、RR:0.01、95%CI:-0.16、0.18)。
結論: 歯磨きの前後にフロスを使用することで、歯垢指数(デンタルプラーク指数)の低下に有意な効果は認められなかった。しかしながら、更なる臨床研究の実施が望まれる。
キーワード: デンタルフロス、歯垢、系統的レビュー/メタ分析、歯磨き
引用文献
Does flossing before or after brushing influence the reduction in the plaque index? A systematic review and meta-analysis
Cláudia Silv et al. PMID: 34402188 DOI: 10.1111/idh.12546
Int J Dent Hyg. 2022 Feb;20(1):18-25. doi: 10.1111/idh.12546. Epub 2021 Aug 24.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34402188/

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