CKDの進行予測に適している指標はどれか?
慢性腎臓病(CKD)は進行すると腎不全や心血管疾患を引き起こす重大な疾患であり、尿蛋白の評価は予後予測の最重要指標として位置づけられています。
臨床現場では、
- 尿アルブミン・クレアチニン比(UACR)
- 尿蛋白・クレアチニン比(UPCR)
の2つが主に用いられていますが、どちらが予後をより反映するかは明確ではありません。
今回紹介する研究は、38コホート・約15万人を対象とした個別患者レベルのメタ解析であり、UACRとUPCRを網羅的に比較した初めての大規模研究です。
試験結果から明らかになったことは?
◆背景
UACRとUPCRはいずれも「尿中の蛋白排泄量を推定する指標」ですが、測定される蛋白の種類が異なります。
| 指標 | 測定対象 | 特徴 |
|---|---|---|
| UACR | アルブミンのみ | 糖尿病腎症や糸球体障害で上昇しやすい |
| UPCR | アルブミン+その他の蛋白 | 尿蛋白全般を反映するが、特異性は低い |
従来は両者が併用されてきましたが、どちらが腎不全や心血管疾患のリスクとより強く関連するかは明らかでありませんでした。
◆計算式
| 項目 | 計算式 | 基準値 |
|---|---|---|
| UACR | アルブミン/クレアチニン ×1000 | >30 mg/g |
| UPCR | 尿蛋白/クレアチニン ×1000 | >500 mg/g |
| eGFR | CKD-EPI式 or JSN式 | <60 mL/min/1.73 m² |
◆研究概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 研究デザイン | 個別患者データ(IPD)によるメタ解析 |
| コホート数 | 38 |
| 対象者数 | 148,994人(同日にUACRとUPCRを測定) |
| 追跡期間中央値 | 3.8年 |
| アウトカム | 腎不全、心血管イベント |
| 解析方法 | 各コホートでCox回帰 → ランダム効果メタ解析 |
◆試験結果
1. 主評価項目:腎不全(Kidney Failure)
| 指標 | 調整HR (1SD上昇あたり) | 95%CI | p値(比較) |
|---|---|---|---|
| UACR | 2.55 | 2.36–2.74 | <0.001 |
| UPCR | 2.40 | 2.28–2.53 | — |
➡ UACRの方が、腎不全リスクとの関連がより強かった(p<0.001)
2. サブグループ解析
UACRの優位性は、以下のハイリスク群でさらに明確でした:
- UACR > 30mg/g
- UPCR > 500mg/g
- eGFR < 60mL/min/1.73 m²
- 糖尿病(T2DM)
- 糸球体疾患
いずれの群でも、UACRはUPCRよりも腎不全との関連が強く、リスク層別化に優れていたと報告されています。
3. 心血管イベント
心血管アウトカムについては、
- 全体ではUACRとUPCRは「大きな差なし」
- ただしUACRが中〜高度に上昇している患者では、UACRがより強く関連
という結果でした。
試験の限界
論文が述べる本研究の制限点は以下の通り:
- 随時尿(スポット尿)の解析であり、24時間尿を用いた評価ではない
- UACR・UPCRの測定方法のばらつきが考えられる
- コホートの背景が多様(研究目的や集団差)
- 観察研究であるため、因果関係を直接証明するものではない
今後の検討課題
- 24時間尿や複数回測定を用いた精密評価
- 糖尿病や糸球体疾患など特定疾患別の詳細な解析
- UACRとUPCRの併用価値の検討
- UACRカットオフによる治療介入研究
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◆まとめ(臨床的示唆)
今回の個別患者データメタ解析は、臨床での尿蛋白評価に重要なメッセージを提供しています。
✔ UACRの方が腎不全リスクと強く関連
→ 特に中等度〜高度の蛋白尿、糖尿病、糸球体疾患で顕著。
✔ 心血管リスクは全体では同程度だが、高UACR群でUACRが優位
✔ CKD診断・リスク層別化にはUACRを優先して使用すべき
→ 論文の結論でも「UACRの使用を支持する」と明確に述べられている。
一方で、95%CIは重複しており、この差が実臨床において、どのくらい重要なのかは疑問が残ります。
再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 研究38件の個人レベルのメタ解析の結果、 全体的に、UACRはUPCRよりも腎不全とより強く関連していた。
根拠となった試験の抄録
背景: 尿中アルブミン・クレアチニン比(UACR)と尿中タンパク・クレアチニン比(UPCR)は、どちらも臨床現場で慢性腎臓病(CKD)の診断とモニタリングに用いられています。どちらの指標が臨床転帰とより強い関連性を示すか、またそれが患者特性によって異なるかどうかは不明です。
目的: CKD 関連の臨床結果全体にわたってUACRとUPCRのパフォーマンスを評価および比較します。
試験デザイン: 個々の患者レベルのメタ分析。
試験設定: 38の研究および臨床コホート。
参加者: UACRとUPCRを同日に測定した148,994名。
測定: Cox比例ハザード回帰を用いて、UACRおよびUPCRと、腎不全および心血管イベントを含むその後の臨床アウトカムとの関連を定量化した。解析は各コホートで実施し、その後ランダム効果メタアナリシスを実施した。サブグループには、タンパク尿の重症度、2型糖尿病、推定糸球体濾過量(eGFR)60mL/分/1.73m2未満、および糸球体疾患に基づくグループが含まれた。
結果: 中央値3.8年間の追跡期間中、148,994名が参加し、9,773件の腎不全イベントが発生した。UACRおよびUPCRの上昇はともに、腎不全リスクの上昇と対数線形相関を示した。腎不全との関連は、UACR(SD増加あたりの調整ハザード比[HR] 2.55 [95%信頼区間 2.36~2.74])の方がUPCR(HR 2.40 [信頼区間 2.28~2.53]、比較P<0.001)よりもやや強かった。UACR>30mg/g、UPCR>500mg/g、eGFR<60mL/min/1.73m2、糖尿病、および糸球体疾患のサブグループでは、結果は一貫しており、やや強かった。 UACRとUPCRの関連性は、心血管疾患の結果に関しては概ね同様でしたが、UACRが中程度から重度に上昇したサブグループではUACRが有利でした。
制限: スポット尿サンプルでのUACRおよびUPCRの評価。
結論: 全体的に、UACRはUPCRよりも腎不全とより強く関連しており (特にUACRが高いサブグループにおいて)、患者の診断およびリスク分類にはUPCRではなくUACRを使用することを支持しています。
主な資金提供元: 全米腎臓財団および国立糖尿病・消化器・腎臓病研究所
引用文献
Proteinuria or Albuminuria as Markers of Kidney and Cardiovascular Disease Risk : An Individual Patient-Level Meta-analysis
Hiddo J L Heerspink et al. PMID: 41183334 DOI: 10.7326/ANNALS-25-02117
Ann Intern Med. 2025 Nov 4. doi: 10.7326/ANNALS-25-02117. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41183334/

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