心不全患者におけるジギトキシンの効果はどのくらい?(DB-RCT; DIGIT-HF; N Engl J Med. 2025)

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ジギトキシンは心不全に有効なのか?

ジギトキシン(digitoxin)は心不全治療薬として古くから知られていますが、心不全・左室駆出率低下例(HFrEF)に対する有効性は確立していませんでした。

そこで今回は、現代の標準治療を受けているHFrEF患者において、ジギトキシンがアウトカム改善に寄与するかを検証した国際多施設ランダム化比較試験(DIGIT-HF試験)の結果です。


試験結果から明らかになったことは?

◆研究方法

  • デザイン:国際共同、二重盲検、プラセボ対照ランダム化比較試験(RCT)
  • 対象
    • LVEF ≤40%かつNYHAⅢ〜Ⅳ、または
    • LVEF ≤30%かつNYHAⅡ
  • 介入:ジギトキシン 0.07 mg/日 vs プラセボ
  • 主要評価項目:全死亡または心不全による初回入院
  • 追跡期間:中央値 36か月
  • 解析対象:1212例(ジギトキシン群 613例、プラセボ群 599例)

◆結果(アウトカム別)

アウトカムジギトキシン群プラセボ群ハザード比 (95%CI)P値
主要複合アウトカム(全死亡+心不全入院)39.5%44.1%0.82 (0.69–0.98)0.03
全死亡27.2%29.5%0.86 (0.69–1.07)n.s.
心不全入院(初回)28.1%30.4%0.85 (0.69–1.05)n.s.
重篤な有害事象4.7%2.8%

◆結果の解釈

  • ジギトキシンは、主要複合アウトカム(死亡または心不全入院)を有意に減少させました。
  • 個別のアウトカム(死亡、心不全入院)は有意差を示さなかったものの、いずれもジギトキシン群で低い傾向を示しました。
  • 一方で、重篤な有害事象はジギトキシン群でやや多いという課題もあり、臨床応用には注意が必要です。

◆研究の限界

  • プラセボ群との比較は有意差が主要複合アウトカムに限られ、死亡や入院単独では統計的に有意でありませんでした。
  • 有害事象の増加について、因果関係や詳細な内訳はさらなる解析が必要です。
  • 登録基準(NYHA分類やLVEFのしきい値)により、軽症〜中等症患者への外挿は制限されます。

◆まとめ

DIGIT-HF試験は、標準治療を受けるHFrEF患者において、ジギトキシンが複合アウトカムを改善する可能性を示しました。
ただし、死亡や入院単独での有効性は明確でなく、有害事象のリスク管理も課題として残ります。今後の追加検証が期待されます。

日本においてジギトキシンは販売中止となっています(塩野義製薬などが製造販売。2010年3月31日で経過措置が終了)。他のジギタリス製剤(ジゴキシン、メチルジゴキシン)と比較して効果発現が遅く、臓器への蓄積性が高いこともあり使用頻度が低いことが販売中止の要因として挙げられます。

患者背景として、SGLT2阻害薬などのファンタスティックフォーの使用割合が気にかかるところです。

再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。

続報に期待。

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✅まとめ✅ 国際共同二重盲検ランダム化比較試験の結果、ガイドラインに基づいた薬物療法を受けた心不全および駆出率低下患者において、ジギトキシンによる治療は、プラセボと比較して、全死因死亡または心不全悪化による入院の複合リスクを低下させた。

根拠となった試験の抄録

背景: 心不全および駆出率低下の患者における強心配糖体ジギトキシンの治療効果は確立されていない。

方法: 本国際二重盲検プラセボ対照試験では、左室駆出率40%以下かつニューヨーク心臓協会(NYHA)心機能分類IIIまたはIVの慢性心不全患者、または左室駆出率30%以下かつNYHA心機能分類IIの慢性心不全患者を、ガイドラインに基づく薬物療法に加えて、ジギトキシン(開始用量0.07mg、1日1回)またはプラセボを投与する群に1:1の割合で無作為に割り付けた。
主要評価項目は、全死因死亡または心不全増悪による入院のいずれか早い方との複合アウトカムとした。

結果: ランダム化割り付けを受けた1,240例中、修正治療意図集団への組み入れ基準を満たした患者は1,212例で、うち613例がジギトキシン群、599例がプラセボ群であった。中央値36か月の追跡期間中、主要評価項目イベントはジギトキシン群で242例(39.5%)、プラセボ群で264例(44.1%)に発生した(死亡または心不全増悪による初回入院のハザード比 0.82、95%信頼区間[CI] 0.69~0.98、P=0.03)。全死因死亡はジギトキシン群で167例(27.2%)、プラセボ群で177例(29.5%)に発生した(ハザード比 0.86、95%信頼区間[CI] 0.69~1.07)。心不全の悪化による初回入院は、ジギトキシン群で172例(28.1%)、プラセボ群で182例(30.4%)に認められました(ハザード比 0.85、95%信頼区間 0.69~1.05)。重篤な有害事象は、ジギトキシン群で29例(4.7%)、プラセボ群で17例(2.8%)に少なくとも1件認められました。

結論: ガイドラインに基づいた薬物療法を受けた心不全および駆出率低下患者において、ジギトキシンによる治療は、プラセボと比較して、全死因死亡または心不全悪化による入院の複合リスクを低下させた。

資金提供: ドイツ連邦研究技術宇宙省およびその他

試験登録番号: EudraCT番号 2013-005326-38

引用文献

Digitoxin in Patients with Heart Failure and Reduced Ejection Fraction
Udo Bavendiek et al. PMID: 40879434 DOI: 10.1056/NEJMoa2415471
N Engl J Med. 2025 Aug 29. doi: 10.1056/NEJMoa2415471. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40879434/

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