減薬における有効な介入方法とは?
高齢の2型糖尿病患者では、インスリンやスルホニル尿素薬(SU薬)による低血糖リスクが問題となります。とくに75歳以上の患者では、厳格な血糖管理が却って有害となる可能性もあります。
今回ご紹介するランダム化比較試験(RCT)では、医師への学術的訪問(Academic Detailing, AD)に加え、患者への「脱処方を促す資料」の事前配布(patient previsit activation)が、実際の脱処方率や重篤な低血糖イベントに与える影響を検証しています。
研究の概要
研究デザイン
- ランダム化比較試験(RCT)
- 米国カリフォルニア州の統合型ヘルスケアシステム内で実施
- フォローアップ期間:6ヶ月および12ヶ月
対象患者
- 75歳以上の2型糖尿病患者
- HbA1c ≤ 8.0%(血糖コントロール良好)
- インスリンまたはSU薬を使用中
介入内容
- すべての主治医(PCP)に「ADセッション(ガイドラインと脱処方戦略の講義)」を提供
- 患者を以下の2群にランダムに割付
- AD+プレビジット群:脱処方を促す資料を事前配布
- ADのみ群:一般的な健康資料を配布
試験結果から明らかになったことは?
■ 主要アウトカム(6ヶ月時点の脱処方率)
グループ | 脱処方率 | 調整後リスク差(RD) | 95%信頼区間 | p値 |
---|---|---|---|---|
AD+プレビジット | 15.8%(36/232) | +7.5% | 1.5% ~ 13.6% | 0.01 |
ADのみ | 9.0%(19/218) | ― | ― | ― |
→ 患者資料を渡すだけで、脱処方が約7.5%増加
■ 12ヶ月時点でも差は持続
グループ | 脱処方率 | RD | 95%CI | p値 |
---|---|---|---|---|
AD+プレビジット | 22.8% | +7.9% | 0.4%~15.5% | 0.04 |
ADのみ | 16.3% | ― | ― | ― |
■ 重篤な自己申告型低血糖(6ヶ月時点)
グループ | 発生率 | RD | 95%CI | p値 |
---|---|---|---|---|
AD+プレビジット | 4.7%(10人) | -2.3% | -7.1% ~ 2.5% | 0.34 |
ADのみ | 6.5%(13人) | ― | ― | ― |
→ 低血糖イベントには有意差なし
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◆臨床的意義
高齢糖尿病患者では、過度な血糖管理による薬害性低血糖が生命予後に悪影響を与えるとされます。本研究は、「医師だけでなく、患者にも脱処方の重要性を伝えることが、処方の見直しを後押しする」というシンプルな戦略が実際に有効であることを示しました。
薬剤師や看護師が患者向けの資料提供や動機づけに関わることで、脱処方をさらに促進できる可能性があります。
◆試験の限界
- 本研究は単一の医療システム内で実施されたものであり、他の施設や地域に一般化できるかは不明
- 脱処方の定義は集計指標であり、薬剤の具体的中止内容は明らかでない
- 低血糖は自己申告ベースであり、過少報告やバイアスの可能性あり
- フォローアップは最大12ヶ月であり、長期的な影響は評価されていない
◆今後の検討課題
- 資料の形式・内容の最適化(例:視覚的、動画、電子的手段など)
- 薬剤師や地域医療職の関与による脱処方支援の実用化
- 脱処方後の代替治療や生活習慣介入の有効性
- 認知症や多剤併用の高齢者集団への応用可能性の検討
減処方(脱処方)への介入効果が示されたことになりますが、これにより患者予後にどのような影響があるのかについては明らかとなっていません。
更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ ランダム化臨床試験では、事前診察活性化を伴う医師への学術的訪問は、高齢の2型糖尿病患者における糖尿病治療薬の処方削減を促進するためのシンプルで効果的な戦略でした。
根拠となった試験の抄録
試験の重要性: 薬剤関連の低血糖は、2型糖尿病の高齢者における医原性合併症の主な原因です。
目的: 高齢糖尿病患者におけるインスリンおよび/またはスルホニル尿素剤の処方中止に関する患者事前診察活動の有無による医師の学術的詳細化 (AD) を比較する。
試験デザイン、設定、および参加者: 本ランダム化臨床試験は、北カリフォルニアの大規模統合医療システムにおいて、2020年9月から2024年3月まで、6ヶ月および12ヶ月の追跡調査を実施しました。対象は、75歳以上、ヘモグロビンA1c値8.0%以下、インスリンおよび/またはスルホニル尿素剤による治療を受けている2型糖尿病のプライマリケア医(PCP)とその患者でした。
介入: 参加した主治医は、高齢2型糖尿病患者における糖尿病薬の再評価と潜在的な減薬戦略を裏付けるエビデンスを提供するADセッションに少なくとも1回参加しました。参加主治医との面談に先立ち、試験患者は、来院前活性化減薬ハンドアウト(AD+来院前群)または注意制御健康的なライフスタイルハンドアウト(ADのみ群)のいずれかをランダムに割り付けられました。
主な結果と評価: 主要な結果 (6か月後に評価) は、糖尿病治療薬の処方削減 (集計評価) と患者が報告した重度の低血糖エピソードでした。
結果: 合計211名のPCPが少なくとも1回のADセッションに参加でき、450名の対象患者を治療しました(平均年齢79.9[SD 4.0]歳、女性223名[49.6%]、平均併発慢性疾患6.2[SD 3.6]、平均ヘモグロビンA1c7.5%[SD 1.1%])。6か月時点で、AD+来院前活性化群ではADのみの群と比較して、統計的に有意に高い糖尿病薬の処方中止率を示しました(232名中36名[15.8%] vs. 218名中19名[9.0%]、調整リスク差[RD]7.5%、95%CI 1.5%~13.6%、P=0.01)。この差は12ヶ月後も持続した(232人中50人 [22.8%] vs. 218人中33人 [16.3%]、調整済みRD 7.9%、95%CI 0.4%~15.5%、P=0.04)。6ヶ月時点での重度の自己申告低血糖については、AD+事前診察群とADのみの群で統計的に有意差はなかった(232人中10人 [4.7%] vs. 218人中13人 [6.5%]、調整済みRD -2.3%、95%CI -7.1% ~ 2.5%、P=0.04)。
結論と関連性: このランダム化臨床試験では、事前診察活性化を伴うADは、高齢の2型糖尿病患者における糖尿病治療薬の処方削減を促進するためのシンプルで効果的な戦略でした。
試験登録: ClinicalTrials.gov識別子 NCT04585191
引用文献
Diabetes Deprescribing in Older Adults: A Randomized Clinical Trial
Richard W Grant et al.
JAMA Intern Med. 2025 Jun 23:e252015. doi: 10.1001/jamainternmed.2025.2015. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40549370/
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