永続性心房細動におけるジゴキシンとβ遮断薬の費用効果(費用対効果分析; RATE-AF試験; Heart. 2025)

crop woman with heart on palms 費用対効果分析
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心拍数コントロールに対するジゴキシン vs. β遮断薬

心房細動(AF)は医療サービスに対する大きな負担であり、増加の一途をたどっています。しかし、心拍数コントロールにおける薬剤間の費用対効果については充分に検証されていません。

そこで今回は、心不全症状を有する永続的な心房細動患者において、心拍数コントロールに対するジゴキシンとβ遮断薬の費用対効果を評価することを目的に実施された費用対効果分析の結果をご紹介します。

分析の対象データとなったのは、RAte control Therapy Evaluation in permanent Atrial Fibrillation(RATE-AF)は、英国国民保健サービス(NHS)に組み込まれたランダム化、非盲検、エンドポイント試験です。本試験では低用量のジゴキシンとβ遮断薬が直接比較されました(ClinicalTrials.gov: NCT02391337)。

12ヵ月間にわたるヘルスケアの観点から、試験に基づく費用効用分析が行われました。一次および二次医療サービスにおける資源使用、薬剤、患者報告によるQOLが前向きに収集され、費用と質調整生存年(QALYs)の差について推定されました。

試験結果から明らかになったことは?

RATE-AFは平均年齢76歳(SD 8)、女性46%の160人の患者をランダムに登録し、そのうち149人(n=73:ジゴキシン、n=76:β遮断薬)はデータが揃っており、12ヵ月の追跡調査まで生存していました。

ジゴキシン vs. β遮断薬
治療コスト患者1人あたり年間平均530.41ポンドの節約
(95%CI -848.06ポンド 〜 -249.38ポンド
p=0.001)
QALYsQALYs 0.013
(95%CI -0.033 ~ 0.052
p=0.56
NHSの年間潜在的節約額1億200万ポンド/年
(95%CI 4,800万ポンド~1億6,400万ポンド
p=0.001

ジゴキシンによる治療は有意にコストが低く、患者1人あたり年間平均530.41ポンドの節約となりました(95%信頼区間 -848.06ポンド 〜 -249.38ポンド、p=0.001)。これは主に有害事象の発生率がβ遮断薬治療と比較して大幅に低く、一次および二次医療の利用が少なかったことによるものでした。

QALYsには有意差はありませんでした(0.013; 95%CI -0.033 ~ 0.052、p=0.56)。1QALYあたり20,000ポンドの支払い意思額閾値では、β遮断薬と比較してジゴキシンが費用対効果に優れている確率は94%であり、NHSの年間潜在的節約額は1億200万ポンド/年(95%CIで4,800万ポンドから1億6,400万ポンドの節約、p=0.001)でした。

コメント

心不全を有する永続的な心房細動患者における心拍数コントロールに対するジゴキシンとβ遮断薬の費用対効果については充分に検証されていません。

さて、英国のランダム化比較試験を基にした費用対効果分析の結果、永続的心房細動の適切な患者において心拍数をコントロールするためにβ遮断薬と比較した場合、ジゴキシンはより低コストの選択肢であることが示唆されました。

ジゴキシンは中毒域が狭いこと、腎機能に影響を受けることなどの点から、定期的な血中濃度の測定を含めた患者モニタリングが求められます。この点からβ遮断薬の使用が優先されることがありますが、患者背景により治療薬の優先度が異なります。具体的には、ジゴキシンは心不全を合併しているが低血圧が問題となる患者、β遮断薬は労作時の心拍数コントロールや交感神経刺激が強い場合に有効です。

今回の検証結果から、ジゴキシンの方が費用対効果に優れていることが示されましたが、これは主に有害事象の発生率がβ遮断薬治療と比較して大幅に低かったことに起因しています。つまり、定期的な血中ジゴキシン濃度の測定を含めた患者モニタリングにより、有害事象の発生を未然に防げた可能性があります。つまり、薬剤の有効性・安全性の比較とは言い難く、患者モニタリングの在り方が示されたものとも受け取れます。定期的な採血頻度の増加は患者負担がかかることから、積極的にすすめられません。

再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。

続報に期待。

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✅まとめ✅ 英国のランダム化比較試験を基にした費用対効果分析の結果、永続的心房細動の適切な患者において心拍数をコントロールするためにβ遮断薬と比較した場合、ジゴキシンはより低コストの選択肢であることが示唆された。

根拠となった試験の抄録

背景:心房細動(AF)は医療サービスに対する大きな負担であり、増加の一途をたどっている。本研究の目的は、心不全症状を有する永続的な心房細動患者において、心拍数コントロールに対するジゴキシンとβ遮断薬の費用対効果を評価することである。

方法:RAte control Therapy Evaluation in permanent Atrial Fibrillation(RATE-AF)は、英国国民保健サービス(NHS)に組み込まれたランダム化、非盲検、エンドポイント試験であり、低用量のジゴキシンとβ遮断薬を直接比較した(ClinicalTrials.gov: NCT02391337)。12ヵ月間にわたるヘルスケアの観点から、試験に基づく費用効用分析が行われた。一次および二次医療サービスにおける資源使用、薬剤、患者報告によるQOLを前向きに収集し、費用と質調整生存年(QALYs)の差を推定した。

結果:RATE-AFは平均年齢76歳(SD 8)、女性46%の160人の患者をランダムに登録し、そのうち149人(n=73:ジゴキシン、n=76:β遮断薬)はデータが揃っており、12ヵ月の追跡調査まで生存していた。ジゴキシンによる治療は有意にコストが低く、患者1人あたり年間平均530.41ポンドの節約となった(95%信頼区間 -848.06ポンド 〜 -249.38ポンド、p=0.001)。これは主に有害事象の発生率がβ遮断薬治療と比較して大幅に低く、一次および二次医療の利用が少なかったことによる。QALYsには有意差はなかった(0.013; 95%CI -0.033 ~ 0.052、p=0.56)。1QALYあたり20,000ポンドの支払い意思額閾値では、β遮断薬と比較してジゴキシンが費用対効果に優れている確率は94%であり、NHSの年間潜在的節約額は1億200万ポンド/年(95%CIで4,800万ポンドから1億6,400万ポンドの節約、p=0.001)であった。

結論:永続的心房細動の適切な患者において心拍数をコントロールするためにβ遮断薬と比較した場合、ジゴキシンはより低コストの選択肢であり、国や世界の政策決定に助言するために、より大規模な費用対効果の研究が必要である。

試験登録番号 NCT02391337, EudraCT 2015-005043-13。

キーワード:心房細動、医療経済と組織、医療の質

引用文献

Cost-effectiveness of digoxin versus beta blockers in permanent atrial fibrillation: the Rate Control Therapy Evaluation in Permanent Atrial Fibrillation (RATE-AF) randomised trial
Zainab Abdali et al. PMID: 39819610 DOI: 10.1136/heartjnl-2024-324761
Heart. 2025 Jan 16:heartjnl-2024-324761. doi: 10.1136/heartjnl-2024-324761. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39819610/

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