PPIを使用すると小腸障害リスクが増加する?
プロトンポンプ阻害薬(PPI)と非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)関連の小腸障害との関連については、相反する結果が報告されています。
そこで今回は、PPIがNSAID関連小腸障害のリスクを増加させるかどうかについて明らかにすることを目的に実施されたメタ解析の結果をご紹介します。
本解析では、PubMed、Embase、Web of Scienceにおいて、データベース作成時から2022年3月31日まで、PPI使用と転帰との関連を報告する研究(NSAIDs服用被験者における内視鏡で検証された小腸損傷の有病率、患者1人当たりの小腸損傷の平均数、ヘモグロビン値の変化、小腸出血リスクなど)の系統的電子検索が行われました。
オッズ比(OR)および平均差(MD)のメタ分析計算はランダム効果モデルにより、95%信頼区間(CI)で解釈されました。
試験結果から明らかになったことは?
1,996人の被験者からなる14件の研究が含まれました。
NSAID+PPI併用 | オッズ比(OR)あるいは平均差(MD) |
内視鏡検査で確認された小腸損傷の有病率 | OR 3.00(95%CI 1.74~5.16) |
内視鏡検査で確認された小腸損傷の数 | MD 2.30(95%CI 0.61~3.99) |
ヘモグロビン値の低下 | MD -0.50 g/dL(95%CI 0.88 ~ -0.12) |
小腸出血のリスク | OR 1.24(95%CI 0.80~1.92) |
プール解析により、PPIの併用は、内視鏡検査で確認された小腸損傷の有病率と数を有意に増加させることが示されました(有病率:OR 3.00、95%CI 1.74~5.16、数:MD 2.30、95%CI 0.61~3.99)。
一方、ヘモグロビン値の低下(MD -0.50 g/dL、95%CI 0.88 ~ -0.12)はみられましたが、小腸出血のリスク(OR 1.24、95%CI 0.80~1.92)に変化はありませんでした。
サブグループ解析では、非選択的NSAIDs(OR 7.05、95%CI 4.70~10.59、4試験、I2=0)とCOX-2阻害薬(OR 4.00、95%CI 1.18~13.60、1試験、I2統計量の計算なし)を服用している被験者では、COX-2阻害薬単独と比較して、PPIは小腸損傷の有病率を有意に増加させることが示されました。
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プロトンポンプ阻害薬(PPI)は胃酸分泌を抑制することから、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の治療に用いられています。また、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)の使用に伴う胃腸障害の治療や予防にも使用されています。一方、これまでの研究結果から、PPI併用はNSAID関連上部消化管(口腔~十二指腸)障害のリスクを低減することが報告されていますが、下部消化管(小腸・大腸)障害のリスクは低減できないことが報告されています。
NSAIDとPPI併用により小腸障害リスクが増加するのかについては充分に検証されていません。
さて、メタ解析の結果、プロトンポンプ阻害薬(PPI)の併用はNSAID関連小腸障害のリスクを増加させました。サブグループの結果では、非選択的COX阻害薬と選択的COX-2阻害薬との間にリスクの差は認められていませんが、研究数が限られているため、あくまでも参考程度の情報です。ちなみにではありますが、基礎研究の結果において小腸障害の発症にCOXは関与しないとされていますので、結果自体は一致しています。
実験モデルにおいてPPIが腸内細菌叢の乱れにより小腸損傷のリスクを悪化させることが実証されていますが、ヒトでの検証は充分ではありません。これまでの研究結果からカプセル内視鏡を用いた検査により、動物実験の結果との一致が示されたことになりますが、これがPPI誘発の腸内細菌叢の乱れに起因しているのかについては更なる検証が必要です。
本メタ解析に含まれた研究数は10件以上であり数としては充分ですが、症例数は2,000例弱と限られています。また、症例数が限られていたために、ランダム化比較試験だけでなく観察けんきゅのデータが含まれています。このため、結果の解釈には注意を要します。更なる検証が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ メタ解析の結果、プロトンポンプ阻害薬(PPI)の併用はNSAID関連小腸障害のリスクを増加させた。
根拠となった試験の抄録
はじめに:プロトンポンプ阻害薬(PPI)と非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)関連の小腸障害との関連については、相反する結果が存在する。本研究の目的は、PPIがNSAID関連小腸障害のリスクを増加させるかどうかをメタ解析によって明らかにすることである。
方法:PubMed、Embase、Web of Scienceにおいて、データベース作成時から2022年3月31日まで、PPI使用と転帰との関連を報告する研究(NSAIDs服用被験者における内視鏡で検証された小腸損傷の有病率、患者1人当たりの小腸損傷の平均数、ヘモグロビン値の変化、小腸出血リスクなど)の系統的電子検索を行った。オッズ比(OR)および平均差(MD)のメタ分析計算はランダム効果モデルを用いて行い、95%信頼区間(CI)を用いて解釈した。
結果:1,996人の被験者からなる14件の研究が含まれた。プール解析により、PPIの併用は、内視鏡検査で確認された小腸損傷の有病率と数を有意に増加させることが示された(有病率:OR 3.00、95%CI 1.74~5.16、数:MD 2.30、95%CI 0.61~3.99)およびNSAID使用者におけるヘモグロビン値の低下(MD -0.50 g/dL、95%CI 0.88 ~ -0.12)はみられたが、小腸出血のリスク(OR 1.24、95%CI 0.80~1.92)に変化はなかった。サブグループ解析では、非選択的NSAIDs(OR 7.05、95%CI 4.70~10.59、4試験、I2=0)とCOX-2阻害薬(OR 4.00、95%CI 1.18~13.60、1試験、I2統計量の計算なし)を服用している被験者では、COX-2阻害薬単独と比較して、PPIは小腸損傷の有病率を有意に増加させることが示された。
考察:PPIはNSAID関連小腸障害のリスクを増加させ、小腸障害の有病率が高いことの臨床的意義は今後研究されるべきである。
引用文献
Proton Pump Inhibitors Increase the Risk of Nonsteroidal Anti-inflammatory Drug-Related Small-Bowel Injury: A Systematic Review With Meta-analysis
Xian Zhang et al.
PMID: 37019683 PMCID: PMC10299777 DOI: 10.14309/ctg.0000000000000588
Clin Transl Gastroenterol. 2023 Jun 1;14(6):e00588. doi: 10.14309/ctg.0000000000000588.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37019683/
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