肝硬変と心房細動を有する患者におけるアピキサバン、リバーロキサバン vs. ワーファリン
アピキサバン、リバーロキサバン、ワーファリンは、心房細動(AF)を有する一般の患者において、出血リスクは増加するものの、主要な虚血イベントの予防に有用であることが示されています。しかし、肝硬変と心房細動を有する患者におけるデータは限られています。
そこで今回は、肝硬変と心房細動を有する患者において、アピキサバンとリバーロキサバンおよびワーファリンの有効性と安全性を比較することを目的に実施された集団ベースのコホート研究の結果をご紹介します。
米国の2つの請求データセット(MedicareおよびOptumの非識別化Clinformatics Data Mart Database[2013~2022年])が用いられました。
試験参加者は、肝硬変と非弁膜症性心房細動を有し、アピキサバン、リバーロキサバン、ワーファリンの使用を開始した1対1の傾向スコア(PS)マッチ患者でした。
本試験の一次アウトカムは虚血性脳卒中または全身性塞栓症、大出血(頭蓋内出血または大消化管出血)でした。データベース固有およびプールされたPSマッチの1000人・年(PY)あたりの発生率差(RD)およびCox比例ハザード比(HR)と95%CIを推定し、曝露前の104の共変量がコントロールされました。
試験結果から明らかになったことは?
リバーロキサバン vs. アピキサバン | 発生率差 RD (95%CI) | ハザード比 HR (95%CI) |
大出血イベント | RD 33.1/1000PY (12.9〜53.2/1000PY) | HR 1.47 (1.11〜1.94) |
リバーロキサバン投与開始群はアピキサバン投与開始群よりも大出血イベント発生率が有意に高いことが明らかとなりました(RD 33.1/1000PY、95%CI 12.9〜53.2/1000PY; HR 1.47、CI 1.11〜1.94)が、虚血イベント発生率や死亡率に有意差はありませんでした。大出血の発生率はサブグループ解析および感度解析において一貫してリバーロキサバンの方が高いことが示されました。
ワルファリン vs. アピキサバン | 発生率差 RD (95%CI) | ハザード比 HR (95%CI) |
大出血イベント | RD 26.1/1000PY (6.8~45.3/1000PY) | HR 2.85 (1.24~6.59) |
また、ワルファリン投与開始群はアピキサバン投与開始群よりも大出血率が有意に高く(RD 26.1/1000PY、CI 6.8~45.3/1000PY; HR 1.38、CI 1.03~1.84)、特に出血性脳卒中(RD 9.7、CI 2.2~17.2/1000PY; HR 2.85、CI 1.24~6.59)で顕著でした。
コメント
リバーロキサバンでは、AUCが増加することから中等度以上の肝障害(Child-Pugh分類BまたはCに相当)のある患者への投与は禁忌です。一方、アピキサバンでは、健常者とAUCが同様であるため、軽度(Child-Pugh A)及び中等度(Child-Pugh B)の肝障害のある患者への投与制限はありません。
さて、集団ベースのコホート研究の結果、肝硬変と非弁膜症性心房細動を有する患者において、リバーロキサバンの投与開始群では、アピキサバンの投与開始群と比較して大出血の発生率が有意に高く、虚血イベントと死亡の発生率は同程度でした。ワーファリンとアピキサバンの比較でも、ワーファリンの方が出血性脳卒中を含む大出血イベントの発生率が有意に高いことが示されました。
ワーファリンも重度の肝硬変患者への投与は避けた方が良く、アピキサバンよりも出血リスクが高くなったことも納得できます。
肝硬変の重症度によりリスクの程度が異なるものの、やはりアピキサバンの出血リスクが少ないようです。虚血イベントや死亡リスクに差がないことから、患者背景により出血リスクを考慮した薬剤選択が求められます。
ただし、米国以外の国や地域でも同様の結果が示されるのか、再現性の確認を含めた検証が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ 集団ベースのコホート研究の結果、肝硬変と非弁膜症性心房細動を有する患者において、リバーロキサバンの投与開始群では、アピキサバンの投与開始群と比較して大出血の発生率が有意に高く、虚血イベントと死亡の発生率は同程度であった。ワーファリンとアピキサバンの比較でも、ワーファリンの方が出血性脳卒中を含む大出血イベントの発生率が有意に高かった。
根拠となった試験の抄録
背景:アピキサバン、リバーロキサバン、ワーファリンは、心房細動(AF)を有する一般の患者において、出血リスクは増加するものの、主要な虚血イベントの予防に有用であることが示されている。しかし、肝硬変と心房細動を有する患者におけるデータは乏しい。
目的:肝硬変と心房細動を有する患者において、アピキサバンとリバーロキサバンおよびワーファリンの有効性と安全性を比較すること。
試験デザイン:集団ベースのコホート研究。
試験設定:米国の2つの請求データセット(MedicareおよびOptumの非識別化Clinformatics Data Mart Database[2013~2022年])。
試験参加者:肝硬変と非弁膜症性心房細動を有し、アピキサバン、リバーロキサバン、ワーファリンの使用を開始した1対1の傾向スコア(PS)マッチ患者。
評価項目:一次アウトカムは虚血性脳卒中または全身性塞栓症、大出血(頭蓋内出血または大消化管出血)。データベース固有およびプールされたPSマッチの1000人・年(PY)あたりの発生率差(RD)およびCox比例ハザード比(HR)と95%CIを推定し、曝露前の104の共変量をコントロールした。
結果:リバーロキサバン投与開始群はアピキサバン投与開始群よりも大出血イベント発生率が有意に高かった(RD 33.1/1000PY、95%CI 12.9〜53.2/1000PY; HR 1.47、CI 1.11〜1.94)が、虚血イベント発生率や死亡率に有意差はなかった。大出血の発生率はサブグループ解析および感度解析において一貫してリバーロキサバンのほうが高かった。また、ワーファリン投与開始群はアピキサバン投与開始群よりも大出血率が有意に高く(RD 26.1/1000PY、CI 6.8~45.3/1000PY; HR 1.38、CI 1.03~1.84)、特に出血性脳卒中(RD 9.7、CI 2.2~17.2/1000PY; HR 2.85、CI 1.24~6.59)であった。
限界:非ランダム化治療選択。
結論:肝硬変と非弁膜症性心房細動を有する患者において、リバーロキサバンの投与開始群では、アピキサバンの投与開始群と比較して大出血の発生率が有意に高く、虚血イベントと死亡の発生率は同程度であった。ワーファリンとアピキサバンの比較でも、ワーファリンの方が出血性脳卒中を含む大出血イベントの発生率が有意に高かった。
主な資金源:米国国立衛生研究所
引用文献
Comparative Effectiveness and Safety of Apixaban, Rivaroxaban, and Warfarin in Patients With Cirrhosis and Atrial Fibrillation : A Nationwide Cohort Study
Tracey G Simon et al. PMID: 38976880 DOI: 10.7326/M23-3067
Ann Intern Med. 2024 Jul 9. doi: 10.7326/M23-3067. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38976880/
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