透析依存患者における高Ca血症の発生率は?デノスマブ vs. 経口ビスホスホネート系薬
透析依存患者は骨折による罹患率が高いことが知られていますが、最適な治療戦略に関するエビデンスはほとんどありません。また、慢性腎臓病-ミネラルおよび骨障害は透析依存患者においてほぼ普遍的であり、骨格脆弱性の診断と治療を複雑にしています。
そこで今回は、骨粗鬆症の治療を受けた透析依存患者において、ビスホスホネート経口薬と比較したデノスマブによる重症低カルシウム血症の発生率と比較リスクを検討することを目的に実施された後向きコホート研究の結果をご紹介します。
本試験は、2013~2020年にデノスマブ60mgまたは経口ビスホスホネートによる治療を開始した65歳以上の女性透析依存性メディケア患者を対象としたレトロスペクティブコホート研究です。毎月の血清カルシウムを含む臨床成績指標は、Consolidated Renal Operations in a Web-Enabled Networkデータベースとのリンクにより入手しました。
本試験の主要アウトカムは、重症低カルシウム血症であり、アルブミン補正後の総血清カルシウムが7.5mg/dL(1.88mmol/L)未満、または一次病院または救急部で低カルシウム血症と診断されたものと定義されました(緊急治療)。また、超重症低カルシウム血症(血清カルシウムが6.5mg/dL[1.63mmol/L]未満または緊急治療)も評価されました。治療開始後12週間における治療加重累積発生率の逆確率、加重リスク差、および加重リスク比が算出されました。
試験結果から明らかになったことは?
デノスマブ治療患者 | 経口ビスホスホネート治療患者 | |
重症低カルシウム血症 | 1,523例中607例 | 1,281例中23例 |
重症低カルシウム血症の12週間の加重累積発生率 | 41.1% | 2.0% |
非加重コホートでは、デノスマブ治療患者1,523例中607例、経口ビスホスホネート治療患者1,281例中23例が重症低カルシウム血症を発症しました。
デノスマブ治療患者 | 経口ビスホスホネート治療患者 | 加重リスク差 | 加重リスク比 | |
重症低カルシウム血症の12週間の加重累積発生率 | 41.1% | 2.0% | 39.1% (36.3〜41.9) | 20.7 (13.2〜41.2) |
超重症低カルシウム血症の12週間の加重累積発生率 | 10.9% | 0.4% | 10.5% (8.8〜12.0) | 26.4 (9.7〜449.5) |
重症低カルシウム血症の12週間の加重累積発生率は、デノスマブで41.1%、経口ビスホスホネートで2.0%であった(加重リスク差 39.1%、95%CI 36.3〜41.9%;加重リスク比 20.7、95%CI 13.2〜41.2)。
12週間の超重症低カルシウム血症の加重累積発生率も、デノスマブ(10.9%)と経口ビスホスホネート(0.4%)で増加しました(加重リスク差 10.5%、95%CI 8.8〜12.0%;加重リスク比 26.4、95%CI 9.7〜449.5)。
コメント
デノスマブは、RANKLを標的としたヒト型IgG2モノクローナル抗体であり、RANKLを特異的に阻害し破骨細胞の形成、機能および生存を抑制することにより骨吸収を抑制します。そのため、血中カルシウム濃度が低下しやすく、低カルシウム血症が生じやすいことが報告されています。しかし、透析患者かつ高齢女性といった低カルシウム血症の発生リスクが高い患者集団における検証は充分ではありません。
さて、後向きコホート研究の結果、デノスマブは、経口ビスホスホネート製剤と比較して、65歳以上の女性透析依存患者における重症および超重症低カルシウム血症の発生率が顕著に高いことが示されました。
そもそも低カルシウム血症の発生リスクが高い患者集団においても、デノスマブの方が、経口ビスホスホネート製剤よりも低カルシウム血症の発生率が高い可能性が示されました。薬剤の作用機序、これまでに報告されている低カルシウム血症の発症率から、当然の結果ではあるものの、やはりデノスマブの方が発生率は高いようです。
後向きコホート研究の結果であることから、あくまでも相関関係が示されたに過ぎませんが、治療プランを立てる上でモニタリング項目や対処法等で参考になる結果であると考えられます。
続報に期待。
✅まとめ✅ 後向きコホート研究の結果、デノスマブは、経口ビスホスホネート製剤と比較して、65歳以上の女性透析依存患者における重症および超重症低カルシウム血症の発生率が顕著に高かった。
根拠となった試験の抄録
試験の重要性:透析依存患者は骨折による罹患率が高いが、最適な治療戦略に関するエビデンスはほとんどない。慢性腎臓病-ミネラルおよび骨障害は透析依存患者においてほぼ普遍的であり、骨格脆弱性の診断と治療を複雑にしている。
目的:骨粗鬆症の治療を受けた透析依存患者において、ビスホスホネート経口薬と比較したデノスマブによる重症低カルシウム血症の発生率と比較リスクを検討すること。
試験デザイン、設定、参加者:2013~2020年にデノスマブまたは経口ビスホスホネートによる治療を開始した65歳以上の女性透析依存性メディケア患者を対象としたレトロスペクティブコホート研究。毎月の血清カルシウムを含む臨床成績指標は、Consolidated Renal Operations in a Web-Enabled Networkデータベースとのリンクにより入手した。
曝露:デノスマブ60mgまたは経口ビスホスホネート
主要アウトカムと評価基準:重症低カルシウム血症は、アルブミン補正後の総血清カルシウムが7.5mg/dL(1.88mmol/L)未満、または一次病院または救急部で低カルシウム血症と診断されたものと定義した(緊急治療)。超重症低カルシウム血症(血清カルシウムが6.5mg/dL[1.63mmol/L]未満または緊急治療)も評価した。治療開始後12週間における治療加重累積発生率の逆確率、加重リスク差、および加重リスク比を算出した。
結果:非加重コホートでは、デノスマブ治療患者1,523例中607例、経口ビスホスホネート治療患者1,281例中23例が重症低カルシウム血症を発症した。重症低カルシウム血症の12週間の加重累積発生率は、デノスマブで41.1%、経口ビスホスホネートで2.0%であった(加重リスク差 39.1%、95%CI 36.3〜41.9%;加重リスク比 20.7、95%CI 13.2〜41.2)。12週間の超重症低カルシウム血症の加重累積発生率も、デノスマブ(10.9%)と経口ビスホスホネート(0.4%)で増加した(加重リスク差 10.5%、95%CI 8.8〜12.0%;加重リスク比 26.4、95%CI 9.7〜449.5)。
結論と関連性:デノスマブは、経口ビスホスホネート製剤と比較して、65歳以上の女性透析依存患者における重症および超重症低カルシウム血症の発生率が顕著に高かった。透析依存患者における基礎的な骨病態生理の診断の複雑さ、この集団におけるデノスマブがもたらす高いリスク、および重症低カルシウム血症のモニタリングと治療に必要な複雑な戦略を考慮すると、デノスマブは慎重な患者選択の後、頻繁なモニタリングを計画した上で投与すべきである。
引用文献
Severe Hypocalcemia With Denosumab Among Older Female Dialysis-Dependent Patients
Steven T Bird et al. PMID: 38241060 PMCID: PMC10799290 (available on 2024-07-19) DOI: 10.1001/jama.2023.28239
JAMA. 2024 Jan 19:e2328239. doi: 10.1001/jama.2023.28239. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38241060/
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