背景
巻き爪の治療として、これまで適応を有する医薬品は承認されていませんでした。治療の主体は外科的治療と保存的治療です。外科的治療の課題としては侵襲性の高さ、手術後に発生する爪変形などが挙げられます。このため、超弾性ワイヤーなど爪矯正具を用いた保存的治療が広く利用されています。
保存的治療の課題としては、1回の矯正で爪甲の湾曲の改善が不十分な場合が比較的多いこと、治療に3~6か月など長期間を要する症例が報告されていることなどが挙げられます。したがって、保存的治療の向上、あるいは代替療法の確立が求められていました。
2023年4月20日、巻き爪治療用薬のアセチルシステイン外用製剤(商品名:リネイルゲル10%)が発売されました。リネイルゲルは、国内で初となる効能又は効果「巻き爪矯正の補助」を取得しています。有効成分としてアセチルシステインを含有しており、このアセチルシステインが爪のケラチンに含まれるシスチンのジスルフィド結合を還元して開裂し、爪の微細構造や強度に影響を与えることで爪を軟化させると考えられています。
2023年8月時点では日本でのみ承認されており、情報が限られています。今回、ご紹介するのはリネインゲル10%の医薬品インタビューフォームに掲載されている第III相試験の結果です。
試験結果から明らかになったことは?
有害事象 | 治験薬と関連 あり | 治験薬と関連 あり | 爪矯正具と関連 あり* | 爪矯正具と関連 あり* |
本剤群 (n=40) | プラセボ群 (n=39) | 本剤群 (n=40) | プラセボ群 (n=39) | |
全体 | 0 | 6(15.4) | 6(15.0) | 15(38.5) |
皮膚および皮下組織障害 | 0 | 1(2.6) | 0 | 8(20.5) |
爪破損 | 0 | 1(2.6) | 0 | 8(20.5) |
皮膚疼痛 | 0 | 1(2.6) | 0 | 1(2.6) |
一般・全身障害および投与部位の状態 | 0 | 4(10.3) | 6(15.0) | 6(15.4) |
適用部位損傷 | 0 | 1(2.6) | 2(5.0) | 2(5.1) |
疼痛 | 0 | 3(7.7) | 0 | 3(7.7) |
適用部位亀裂 | 0 | 0 | 1(2.5) | 0 |
適用部位疼痛 | 0 | 0 | 2(5.0) | 0 |
医療機器による疼痛 | 0 | 0 | 1(2.5) | 1(2.6) |
感染症および寄生虫症 | 0 | 1(2.6) | 0 | 1(2.6) |
爪囲炎 | 0 | 1(2.6) | 0 | 1(2.6) |
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巻き爪は足の第1趾(親指)に発生しやすく、治療せずに放置してしまうと、爪甲の彎曲が増強して側爪溝への圧迫が強まり、痛みや炎症を引き起こす可能性が高まります。また、末節骨の骨棘形成を伴った爪床のリモデリングが生じることで、より難治性となることから早期の治療介入の検討が必要とされています。
さて、ランダム化比較試験の結果、アセチルシステイン外用製剤10%の併用は、爪矯正具単独の治療より治療効果が早く得られ、47.5%の患者において1回の治療で矯正効果が得られることが確認されました。治療薬と関連ありの有害事象は確認されませんでした。
巻き爪の保存的治療には3か月以上の長期間を有することから、治療継続が課題でした。アセチルシステイン外用製剤10%を使用することで、治療期間を短縮できる可能性があります。
やや症例数が少ないものの、爪矯正具単独の治療よりも有効性、安全性は高そうです。
リネイルゲルは薬価収載されておらず、自由診療の範囲での使用となります。また、巻き爪マイスターとのセット販売のみであり、リネイルゲル単独での購入はできませんので、注意が必要です。
✅まとめ✅ ランダム化比較試験の結果、アセチルシステイン外用製剤10%の併用は、爪矯正具単独の治療より巻き爪の治療効果が早く得られ、47.5%の患者において1回の治療で矯正効果が確認された。治療薬と関連ありの有害事象は確認されなかった。
引用文献
マルホ株式会社. 医薬品インタビューフォーム. リネイル®ゲル10%. 2023年4月改訂(第2版)
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