RAS阻害薬使用中のCKD患者における次の一手は?
慢性腎臓病(CKD)患者において、腎保護の観点からレニン・アンジオテンシン系阻害薬(RASi)を使用しますが、追加する治療薬として利尿薬とカルシウム(Ca)拮抗薬、どちらが患者予後において優れているのかについては明らかとなっていません。
そこで今回は、RASi使用中のCKD患者において、利尿薬あるいはCa拮抗薬による治療追加について比較検討したコホート研究の結果をご紹介します。
本研究では、Swedish Renal Registry 2007-2022において、腎臓専門医から紹介された中等度進行CKDでRASiによる治療を受け、利尿薬またはCCBを開始した患者を対象とした試験がエミュレートされました。
傾向スコアで重み付けした原因別Cox回帰を用いて、主要有害腎イベント(major adverse kidney events, MAKE;腎代替療法[KRT]、ベースラインからのeGFR40%以上の低下、eGFR15mL/min/1.73m2未満の複合)、主要心血管イベント(major cardiovascular events, MACE;心血管死、心筋梗塞、脳卒中の複合)、死亡のリスクが比較検討されました。
試験結果から明らかになったことは?
5,875例の患者(年齢中央値71歳、男性64%、eGFR中央値26mL/min/1.73m2)が同定され、そのうち3,165例が利尿薬を、2,710例がCa拮抗薬を開始しました。
加重ハザード比(95%信頼区間) | |
主要有害腎イベント (MAKE:KRT、ベースラインからのeGFR低下40%以上、eGFR15mL/min/1.73m2未満) | 0.87(0.77〜0.97) |
腎代替療法(KRT) | 0.77(0.66〜0.88) |
eGFR40%以上の低下 | 0.80(0.71〜0.91) |
eGFR15ml/min/1.73m2未満 | 0.84(0.74〜0.96) |
主要心血管イベント(MACE:心血管死、心筋梗塞、脳卒中) | (1.14、0.96〜1.36) |
全死亡リスク | (1.07、0.94〜1.23) |
追跡期間中央値 6.3年後、MAKE 2,558例、MACE 1,178例、死亡 2,299例が発生しました。Ca拮抗薬と比較して、利尿薬の使用はMAKEリスクの低下と関連し(加重ハザード比 0.87、95%信頼区間 0.77〜0.97)、単一要素(KRT:0.77、0.66〜0.88、eGFR40%以上の低下:0.80、0.71〜0.91、eGFR15mL/min/1.73m2未満:0.84、0.74〜0.96)においても一貫した結果を示しました。
MACEリスク(1.14、0.96〜1.36)と全死亡リスク(1.07、0.94〜1.23)は治療法間で差がありませんでした。
結果は、薬物曝露の総時間をモデル化した場合、サブグループおよび広範な感度分析においても一貫していました。
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慢性腎臓病(CKD)に対する治療としては、ACE阻害薬/ARB、Ca拮抗薬、サイアザイド(チアジド)系利尿薬のいずれかが使用されています。特に糖尿病や蛋白尿を有するCKD患者においては、高K血症の発生を慎重にモニタリングしつつ、ACE阻害薬/ARBが用いられています。しかし、2剤目の治療薬にどちらを使用した方が良いのかについては明らかとなっていません。
さて、スウェーデン全国ベースのコホート研究の結果、進行したCKD患者において、RAS阻害薬にCa拮抗薬ではなく利尿薬を併用することで、心保護を損なうことなく腎臓の転帰を改善する可能性があることが示唆されました。
あくまでも相関関係が示されたに過ぎませんが、CKD治療の2剤目としては利尿薬の使用を考慮しても良いのかもしれません。心血管イベントに対する薬剤効果が示されていない点について、交絡因子が要因なのか、各薬剤の降圧効果に差がなかったためなのか、その他の要因(交絡因子など)があるのか、検証が求められます。
続報に期待。
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