2型炎症を伴うコントロール不良のCOPDに対するデュピルマブの効果は?
Th2細胞が産生する「IL-4」と「IL-13」は様々なアレルギー疾患の発症や重症化に関与していることが報告されています。デュピルマブは「IL-4受容体α(IL-4Rα)」を特異的に阻害する完全ヒト化モノクローナル抗体薬であり、2型炎症の主要なドライバーであるインターロイキン-4とインターロイキン-13の共有受容体成分をブロックします。2023年6月時点で以下の適応症を有しています。
1)既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎
2)既存治療によっても症状をコントロールできない重症又は難治の気管支喘息
3)既存治療で効果不十分な鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎
気管支喘息患者を対象としたCHRONOS試験において、主要評価項目である「重症喘息発作の年間発生率」と「気管支拡張薬使用前の1秒量(FEV1)のベースラインから12週までの絶対値の変化」は、「血中好酸球数が300/mm3以上」の患者で、よりデュピクセントの効果が高い傾向が確認されていました。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の一部では、2型炎症が増悪リスクを高め、血中好酸球数の上昇によって示されることがあります。そのため、デュピルマブが血中好酸球数が300/μL以上のCOPDに対して有効である可能性が考えられます。しかし、2型炎症を伴うコントロール不良のCOPDに対するデュピルマブの効果検証は行われていませんでした。
そこで今回は、第3相二重盲検ランダム化試験において、血中好酸球数が300/μL以上で、標準的な3剤併用療法(吸入ステロイド、長時間作用性β刺激薬、長時間作用性ムスカリン受容体拮抗薬)を行っても増悪リスクが高いCOPD患者を、2週間に1回デュピルマブ(300mg)またはプラセボの皮下投与に割り付け、COPDの中等度または重度の増悪(年率:主要エンドポイント)について検証したBOREAS試験の結果をご紹介します。
多重性を補正した主要な副次評価項目およびその他の評価項目は、気管支拡張前の強制呼気1秒量(FEV1)の変化、St. George’s Respiratory Questionnaire(SGRQ、範囲:0~100、得点が低いほど生活の質が高いことを示す)およびEvaluating Respiratory Symptoms in COPD(ERS-COPD、範囲:0~40、得点が低いほど症状が軽微なことを示す)スコアでした。
試験結果から明らかになったことは?
合計939例の患者がランダム化を受け、468例がデュピルマブ群に、471例がプラセボ群に割り付けられました。
デュピルマブ (95%CI) | プラセボ (95%CI) | 率比 (95%CI) | |
中等度または重度の増悪(年率) | 0.78 (0.64~0.93) | 1.10 (0.93~1.30) | 率比 0.70 (0.58~0.86) P<0.001 |
中等度または重度の増悪の年率は、デュピルマブで0.78(95%信頼区間[CI] 0.64~0.93)、プラセボで1.10(95%CI 0.93~1.30)でした(率比 0.70、95%CI 0.58~0.86;P<0.001)。
デュピルマブ (95%CI) | プラセボ (95%CI) | 最小二乗(LS)平均値 (95%CI) | |
気管支拡張前FEV1 (ベースラインから12週目まで) | 160ml (126~195) | 77mL (42~112) | 83mL (42~125) P<0.001 |
気管支拡張前FEV1は、ベースラインから12週目まで、デュピルマブで160ml(95%CI 126~195)、プラセボで77mL(95%CI 42~112)の最小二乗平均値で増加し(LS平均差 83mL、95%CI 42~125、P<0.001)、その差は52週まで維持されました。
デュピルマブ (95%CI) | プラセボ (95%CI) | LS平均値 (95%CI) | |
52週目のSGRQスコア | LS平均 -9.7 (-11.3 ~ -8.1) | LS平均 -6.4 (-8.0 ~ -4.8) | LS平均差 -3.4 (-5.5 ~ -1.3) P=0.002 |
52週目のE-RS-COPDスコア | LS平均 -2.7 (-3.2 ~ -2.2) | LS平均 -1.6 (-2.1 ~ -1.1) | LS平均差 -1.1 (-1.8 ~ -0.4) p=0.001 |
52週目の時点で、SGRQスコアはデュピルマブでLS平均-9.7(95%CI -11.3 ~ -8.1)、プラセボで-6.4(95%CI -8.0 ~ -4.8)改善しました(LS平均差 -3.4、95%CI -5.5 ~ -1.3、P=0.002)。52週目のE-RS-COPDスコアは、デュピルマブでLS平均 -2.7(95%CI -3.2 ~ -2.2)、プラセボで-1.6(95%CI -2.1 ~ -1.1)改善しました(LS平均差 -1.1、95%CI -1.8 ~ -0.4、p=0.001)。
デュピルマブまたはプラセボの投与中止に至った有害事象、重篤な有害事象、死亡に至った有害事象の患者数は、両群で均衡がとれていました。
コメント
デュピルマブは、その作用機序からアレルギー疾患の適応症に使用されています。2型炎症を呈するコントロール不良のCOPDに対する効果検証が行われました。
さて、二重盲検ランダム化比較試験の結果、血中好酸球数の上昇で示される2型炎症を有するコントロール不良のCOPD患者において、デュピルマブはプラセボに比べて中〜重度の増悪が少なく、肺機能およびQOLが向上し、呼吸器症状の重症度も低いことが示されました。
ただし、本試験の対象は血中好酸球数が300/μL以上で、標準的な3剤併用療法(吸入ステロイド、長時間作用性β刺激薬、長時間作用性ムスカリン受容体拮抗薬)を行っても増悪リスクが高いCOPD患者です。治療コストも考慮し、デュピルマブは難治症例に使用した方が良いでしょう。
今後もデュピルマブの適応拡大が行われ、対象疾患が増えていくと考えられます。
続報に期待。
✅まとめ✅ 血中好酸球数の上昇で示される2型炎症を有するコントロール不良のCOPD患者において、デュピルマブはプラセボに比べて中〜重度の増悪が少なく、肺機能およびQOLが向上し、呼吸器症状の重症度も低かった。
根拠となった論文の抄録
背景:慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の一部では、2型炎症が増悪リスクを高め、血中好酸球数の上昇によって示されることがある。デュピルマブは、完全ヒト型モノクローナル抗体で、2型炎症の主要なドライバーであるインターロイキン-4とインターロイキン-13の共有受容体成分をブロックする。
方法:第3相二重盲検ランダム化試験において、血中好酸球数が300/μL以上で、標準的な3剤併用療法を行っても増悪リスクが高いCOPD患者を、2週間に1回デュピルマブ(300mg)またはプラセボの皮下投与に割り付けた。
主要エンドポイントは、COPDの中等度または重度の増悪(年率)とした。多重性を補正した主要な副次評価項目およびその他の評価項目は、気管支拡張前の強制呼気1秒量(FEV1)の変化、St. George’s Respiratory Questionnaire(SGRQ、範囲:0~100、得点が低いほど生活の質が高いことを示す)およびEvaluating Respiratory Symptoms in COPD(ERS-COPD、範囲:0~40、得点が低いほど症状が軽微なことを示す)スコアでした。
結果:合計939例の患者がランダム化を受け、468例がデュピルマブ群に、471例がプラセボ群に割り付けられた。中等度または重度の増悪の年率は、デュピルマブで0.78(95%信頼区間[CI] 0.64~0.93)、プラセボで1.10(95%CI 0.93~1.30)だった(率比 0.70、95%CI 0.58~0.86;P<0.001)。気管支拡張前FEV1は、ベースラインから12週目まで、デュピルマブで160ml(95%CI 126~195)、プラセボで77mL(95%CI 42~112)の最小二乗平均値で増加し(LS平均差 83mL、95%CI 42~125、P<0.001)、その差は52週まで維持された。52週目の時点で、SGRQスコアはデュピルマブでLS平均-9.7(95%CI -11.3 ~ -8.1)、プラセボで-6.4(95%CI -8.0 ~ -4.8)改善した(LS平均差 -3.4、95%CI -5.5 ~ -1.3、P=0.002)。52週目のE-RS-COPDスコアは、デュピルマブでLS平均 -2.7(95%CI -3.2 ~ -2.2)、プラセボで-1.6(95%CI -2.1 ~ -1.1)改善した(LS平均差 -1.1、95%CI -1.8 ~ -0.4、p=0.001)。デュピルマブまたはプラセボの投与中止に至った有害事象、重篤な有害事象、死亡に至った有害事象の患者数は、両群で均衡がとれていた。
結論:血中好酸球数の上昇で示される2型炎症を有するCOPD患者において、デュピルマブ投与群はプラセボ投与群に比べて増悪が少なく、肺機能およびQOLが向上し、呼吸器症状の重症度も低かった。
資金提供:サノフィ、リジェネロン社
試験登録:ClinicalTrials.gov番号 NCT03930732
引用文献
Dupilumab for COPD with Type 2 Inflammation Indicated by Eosinophil Counts
Surya P Bhatt et al. PMID: 37272521 DOI: 10.1056/NEJMoa2303951
N Engl J Med. 2023 May 21. doi: 10.1056/NEJMoa2303951. Online ahead of print.
— 読み進める pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37272521/
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